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25年目のカボチャドリアと、マインドフルネス
「まざあ・ぐうす」という大好きなお店の大好きなカボチャドリアを、もう25年食べ続けてる。メニューはたくさんあるのにいつもこれ。
大学時代4年間通った街にある、地下の小さなお店。
久しぶりに食べながら、25年前を思い出す。
わたしは大学が大嫌いだった。
子どもの頃から自分が心地良い世界の作り方を心得ていた。いつも大好きな人とばかりいられるわけではないけれど、適度に迷惑をかけたりかけられたりの距離感を保ちながら、どこにいても適当に気分良く暮らしていた。
好きなようにならなかった進路が、大学だった。
高校は自由で最高な仲間ばかりで、でも卒業する春には多くが「一流」の大学に進学を決めた。
一年予備校に通わせてもらい、翌年の春わたしが進学したのは入学金がバカ高い、何流かわからん大学だ。それでも、行ったら楽しいだろう、なんとかなるだろ、と思っていた。
それが全くそうでもないとわかったのは入学直後だ。
キャンパスは緑にあふれていて、気持ちが良くて、
ミス○○なんてもうアイドルみたいに可愛らしくて、
キー局の女子アナも輩出しているような大学だった。
何を不満に思うことがあるの、大学進学できるだけ恵まれてる、とかいう話はちょっとここでは置いておく。
わたしがいる場所はここじゃない感
都の西北に行きたかったわたしは、あの雑多で有象無象ごちゃ混ぜで、それでも一種の矜持があって、というのと正反対なこの場所に、名実ともに耐えられなかった。
行ってると言いたくないし、実際行きたくもない。
キラキラで可愛くて、彼に車で送ってもらったの!みたいな子たちと、この間までボロ服でガリガリ予備校で勉強してた私には、だいぶ距離があった。
今でこそ、大学名なんて話に出ないけど、大学生なりたての18・19歳には、どの大学行ってるか話のプライオリティは高かった。そのせいで、高校時代の仲間とも疎遠になることを選んでしまう。(今でも、一時期音信不通だったよねと笑い飛ばされている)まさに黒歴史だ。
大学が楽しくないとは言えなくて
進学が決まったとき、素敵なところね!と母は喜び、入学式はもちろん、その後何度も遊びにきてくれた。
母は、女性の大学進学率(短大含む)20%未満だった時代に、四大の英文科を卒業して、商社勤めに。結婚出産のために28で仕事を辞めた(当時で言えば晩婚×高齢出産だ)。今思えばインテリなお母ちゃんだ。笑
勉強しなさいと言われたことは一度もないけれど、テストで間違えたところに「なんで?」と聞かれた。
だから本当は、わたしの浪人が決まった時も、一年後に進学先が決まった時も、ガッカリしたんじゃないかと思っていた。もう母はいないので今更聞けないけれど。
3歳下の妹の受験も間近に控える中、1年予備校に通うお金も、超高額だった入学金も、出してもらった。
大学が嫌だなんて言えるはずがなかった!
でも、人生を楽しめるのはわたしの長所だ
母をがっかりさせたくない、という思いだけではなく、子供の頃から自分が心地良い世界に身を置ける、が得意だったわたしは、大学というある意味「異世界」を泳げるようになっていたし、何より、キャンパスのある街がとても好きになっていた。
この街を好きになった最大の理由がたぶん、
「まざあ・ぐうす」のカボチャドリアだ。
(ようやくカボドリにたどり着いた)
華やかな街にありながら、うっかり見落としそうな小道に古ぼけた看板があり、お店は薄暗い階段の下。
愛想がないけど的確で気持ちいいママさん、いつも汗だくでオーブンの前にいるマスター、時々見知らぬバイトの子。
カボチャドリアの魔法に救われる
わたしはことあるごとにここへ来ていた。
嬉しいことがあった日も、泣きたい日も、いつでも。
カボチャドリアは、
わたしを、わたしに戻すための魔法の食べ物。
いつも変わらぬカボチャドリア。運ばれてくると、ふちがぐるりうっすら焦げていて、まだフツフツと煮立っていて、毎回一口めで上顎をやけどする。
熱いうちにハフハフ食べるのだから、誰かと一緒じゃなくて一人がいい。食べながらおしゃべりする時間はない。「食べる」ことに集中するから、マインドフルネスなんだな。だから魔法がかかる。
ここにくる時はいつも一人で、魔法を独り占め。
25年めのカボチャドリア
社会人になってこの街と遠く離れた住まいになってからも、理由をつけてはここにきている。わたしを、わたしに戻すには、カボチャドリアの魔法が必要だ。
二度だけ、ひとりじゃなく二人で行ったことがある。
母と、そして、夫となった彼と。
無言でハフハフしててもいい人たち。笑
大好きなお店のことは、子どもたちにはまだ、内緒だ。
25年めのカボチャドリアは初めての時と同じ味で、
また上顎をやけどしながらハフハフ食べる。
奇しくも、今日は12/21、冬至だ。
ひとつだけ変わっていたことは、ママさんがマスクをしていたこと。こんな時代になっても、マスクが必須になったとしても、この店は変わらずここにあってほしい。
いつか子どもたちがハフハフ食べられるようになったら、魔法をおすそわけしよう。
「美味しかったね」は、食べ終わってからでも遅くない。
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