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「優越性」と「非劣性」

この記事は別の記事【「介入群」と「対照群」】閲覧後に閲覧していただきますと、理解しやすいと思います。

統計学的な解説から

この記事ではアクティブコントロール試験で示される優越性と非劣性試験で示される非劣性を解説しますので、はじめにアクティブコントロール試験と非劣性試験の違いを確認してみましょう。
 
アクティブコントロール試験は新規の治療法を標準的な治療法と比較し、新規の治療法が標準的な治療法よりも優れているかどうかを確認するために行われる試験です、この試験の結果を統計学的に処理して、新規の治療法がより効果的であることが示されなくてはいけません。
統計学的により効果的であることが示された場合、「優越性が認められた」という表現を用います。

新規の治療法が標準的な治療法よりも明らかに優れていると期待される場合に選択される試験がアクティブコントロール試験です。
 
非劣性試験は新規の治療法を標準的な治療法と比較し、新規の治療法が標準的な治療法と同等またはそれに近い効果を持っているかどうかを確認するために行われる試験です、この試験の結果を統計学的に処理して一定の非劣性限界内にとどまることが示されなくてはいけません。
統計学的に非劣性限界内にとどまることが示された場合、「非劣性が認められた」という表現を用います。
 
新規の治療法が標準的な治療法と比較して同等またはそれに近い効果を持っていると期待される場合に選択される試験が非劣性試験です。

ということで、優越性と非劣性はともに統計学的な専門用語です、専門用語とはある特定の学問や業界の分野で使用され通用する用語のことですので、統計学を専門的に学んでいないと難しいですよね。

後半は内容がかなり難しいので、“まとめ”までさくっと読み飛ばしていただいても良いと思います。

不整脈治療の治験を例にして

この記事の技術監修を担当している医師が循環器内科医なので、ここでは心房細動という不整脈を管理するための治療薬のひとつである血液が凝固するまでの時間を延長させる薬剤、経口抗凝固薬の試験を取り上げてみます。
 
付け加えて解説しておきますと、心房細動は血栓という血液が凝固した血のカタマリが心臓の中に生じ、この血栓が血流に乗って脳まで流れ着き、脳卒中をおこす危険な不整脈です。
 
血栓が生じないように血液をサラサラにする医薬品として、長年使用されてきたワルファリンという薬があり、これを既存の治療法とし、2000年以降種々の薬が開発されたDOACという名称がつけられてひとまとめにされた新しい経口抗凝固薬の一群があるのですが、これを新規の治療法としている過去のアクティブコントロール試験と非劣性試験を紹介してみます。 

DOACのアクティブコントロール試験

新規の治療法としてDOACのひとつダビガトランを内服するグループ、既存の治療法としてワルファリン内服するグループ、心房細動の患者さんが被験者となり、これらふたつのグループでどちらが脳卒中を予防する効果が優れているか、を比較検証するアクティブコントロール試験が実施され、その結果、新規の治療法に優越性が認められました。
この治験はDOACに属する経口抗凝固薬が脳卒中を予防する薬剤の主流に取って代わることを世に知らしめたエポックメーキングな治験であり研究でした。

DOACの非劣性試験

新規の治療法としてDOACのひとつリバーロキサバンを内服するグループ、既存の治療法としてワルファリン内服するグループ、心筋梗塞や狭心症という心臓病にも罹患している心房細動の患者さんが被験者となり、新規の治療法によって管理されるグループでも、既存の治療法によって管理されるグループと同等の成績が認められるかどうか、を検証する研究として実施された治験では非劣性試験が選択されました。
その結果、DOACに属する経口抗凝固薬によって管理されたグループにもワルファリン内服と同程度の脳卒中を予防する効果が示され、新規の治療法に非劣性が認められました。
この成果から保守的な治療法だけでなく、DOACによって管理できる疾病の範囲が広がっています。

まとめ

新規の治療法の成績が既存の治療法のそれよりも良好であることが、アクティブコントロール試験という手法を用いて統計学的に証明された際に「優越性が認められた」と表現します。本文にも記載しました通りエポックメーキングな印象ですね。
それに対して、前段で述べたエポックメーキングな新規の治療法が、一定の条件の下ならば、こんなケースでも応用できますよ、と追加して証明してくれるのが、非劣性試験という印象ですね。統計学的に「非劣性が認められた」と表現します。


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