終わりのない欠乏感を手放して、今を楽しむヒント
今回は、私がある時期までとらわれていた、欠乏感や不足感といったことについて書いていきたいと思います。
私たちはときどき、もしくは場合によっては頻繁に「なにか自分には足りないのではないか」と感じることがあります。
たとえば、周りの人が仕事で成功しているのを見ると「自分はまだ努力が足りないのでは」と思ったり、誰かの暮らしが充実しているように見えると「自分の生活はどこか寂しい」と感じたりすることがあるかと思います。
こうした不足感が生まれるのは、実は脳が作り出す錯覚によるもの。
脳は他人と比較したり、過去の自分と今の自分を比べたりすることで「もっと頑張らなければならない」「自分はまだ足りない」という思いを強めてきます。
その結果、不足感に駆り立てられるように行動を始めることも……。
たとえば、「もっと自分を磨かなければ」と感じて、新しい資格を取るために勉強を始めたり、何かを達成することで安心しようと努力を重ねたりすることがそうです。
一見すると前向きな行動のように思えますが、それが不足感を埋めるためだけの動機であれば、その後に満足感を得られるのは一時的なものになってしまいがちです。
無事に資格を取得して一息ついた瞬間に、「私は、これで十分だろうか」とまた新たな不安に襲われることもあるでしょう。
この不足感の循環は、まるで「満たされたい」という目的のために自分で不足感を作り出しているかのようです。
不足しているから充足を探し、不安だから安心を求め、不満だから満足を追い求めます。
たとえば、貯金額が増えて安心したと思った矢先に「これでは将来の備えが十分ではないのでは」と感じたり、パートナーとの関係が順調でも「いつかこの関係が壊れてしまうのでは」と不安になったりするようなことも例として挙げられます。
そして、安心や充足感を得られたとしても、その裏には常に「また不安が襲ってくるのではないか」「この状態を失ったらどうしよう」といった新たな不安が待っているのです。
また、意識的に達成を避けるという形で不足感を抱え続ける場合もあります。たとえば、仕事で昇進のチャンスがあっても「責任が重くなるのが怖い」と感じて自らその機会を避けたり、「本気で挑戦して失敗するくらいなら、最初からやらない方がいい」と感じてしまうこともあります。
このような選択をすると、一時的に安心を得られるかもしれませんが、「自分には無理だ」と感じるたびに自分を受け入れることが難しくなり、結果として長期にわたる不足感につながる場合もあります。
けれど、こうした不足感や不安は、実際には脳が作り出している幻想にすぎず、これらの思考パターンの根底には、脳の仕組みが関係しています。
人間の脳は、生存のために危険や不足を察知しやすくできています。
この仕組みは私たちを守るためのものですが、現代社会では必要のない不安や不足感を引き起こしてしまうことがあります。
脳の「扁桃体」という部分は、感情や危機感を司っているのですが、この扁桃体は、外部からの刺激を受けると不足や危険を察知して行動を促します。たとえば、SNSなどで他人の成功ばかり目にすることで、「自分ももっと努力しなければ」という焦燥感にかられたり、プレッシャーが高まることがあるのは、脳が「安全ではない状況」を想像しているから。
また、脳は「報酬系」という仕組みで、達成や満足を得たときに一時的な快感を生み出します。しかし、この快感はすぐに消えてしまうので、さらなる刺激や報酬を求め続けることになります。
このような思考の循環から抜け出すためには、まず「不足感」そのものが脳の仕組みによって生まれる錯覚であることを認識することが重要。
人の脳は、不安や不足を敏感に察知し、それに反応するように設計されています。
しかし、脳が作り出す感情は、必ずしも現実を反映しているわけではありません。「自分は足りない」「もっと努力しなければならない」と感じたときには、その感覚が本当に必要なものなのか、ただ脳が過剰に反応しているだけなのかを少しだけ冷静になって観察してみるとよさそうです。
次に、自分自身の価値を脳ではなく心で判断する練習を始めること。
誰もがベースは、そのままで十分に価値がある存在です。
他人と比べたり、過去の自分と比較したりするのではなく、「今の自分ができること」「今の自分にあるもの」に意識を向けることで、満たされる感覚を育むことができます。
また、日常の中で小さな喜びを見つけることも大切。
たとえば、美しい景色を眺める、温かい飲み物を楽しむ、大切な人と話すといった、日々の中にあるささやかな幸せを大切にすることで、脳が作り出す「もっと必要だ」という思いに振り回されることが減ってきます。
自分が今持っているものや、経験していることに感謝の気持ちを持つことで、心の充足感が育まれます。
このように、自分の不足感や不安がどこから来ているのかに気づき、それを必要以上に重要視しないことで、終わりのない思考の循環から徐々に外れていくことができます。
はじめの頃は慣れずにやりにくいかもしれません。忘れることもあるでしょう。
けれど、毎回ではなくても気づいたときに少しずつやってみる、ということを続けることで慣れてきます。
「今の自分で十分だ」という感覚を少しずつ深めていくことで、より自由で満たされた生き方を実現できるようになってきます。
欠乏感は、脳が生み出す一種の「錯覚」。
けれど、その仕組みに気づき、「心」を主役にした生き方を選べば、満たされない思考の循環から抜け出すことが可能に。
そして、時にはこの仕組みを「楽しむ」ことで、自分らしい生き方を見つけられるようになってきます。
「今の自分で十分だ」ということを受け入れられたとき、欠乏感に振り回されることのない、自由な心の状態を感じることができるかもしれません。