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【勝手に短評】第79期名人戦・順位戦B級2組・谷川九段ー藤井二冠戦

9月9日に▲谷川九段ー▽藤井二冠戦が行われた。結果だけ先に書くと藤井二冠の勝利に終わったが、勝負はとても見応えのあるものだったので自分が受けた印象を織り交ぜて書いてみる。

対局前の一幕

対局前、史上最年少名人の記録を持っている谷川九段が下座に座り、藤井二冠に上座を譲った。過去の実績を考慮すれば上座に座ってもおかしくなかったものの、リアルタイムで段位が上の者が上座に座るという慣習を踏襲したのだろう。この一戦にかける意気込みと静かなる闘志が感じられた。

開戦まで

戦形は開戦から決着まで怒涛のスピード勝負となる角換わりに決まった。谷川九段の得意戦法だ。しかし、何やら様子がおかしい。昼食休憩を過ぎてもお互いに開戦する気配が一向にないのだ。角交換をしてからは華々しく駒が飛び交うこともなく、ましてや駒同士がぶつかることもない。AIによる形勢評価値は終始どちらも50%±3%に収まり、いつまでこの膠着状態が続くのか全く分からなかった。

攻撃する権利は先手番の谷川九段にあり、後手番の藤井二冠はその攻めを受けるために万全の態勢で待ち構える。谷川九段は藤井陣に隙を作らせるため、▲4八飛と飛車を一つ浮く渋い一手パスを繰り出した。対する藤井二冠も自陣の最善形を崩さないように一度玉側に寄った金をまた遠ざけるという慎重且つリスキーな手で応えてみせた……という感じの譲り合い&睨み合いが延々と夕暮れまで続いた。

途中、千日手になる可能性も充分あり得たが、千日手は勝ちやすい先手番にとっては望ましくない選択だ。千日手になると引分再試合となり、次は後手番を持たなければならない。言い換えれば、千日手は先手の作戦が不十分だったことを認めることになるわけで、本局では谷川九段は打開して飽くまで勝利を目指しにいった。試合時間が長引けば体力的に藤井二冠に分があるということもあっただろう。

開戦

谷川九段がなかなか戦端を開かなかったのは単に間合いをはかっていたのか、有利に持って行く攻めのプランを描き切れていなかったのか、藤井陣があらゆる攻めをいなすよう待っていたからなのかは分からない。両者の持ち時間が少なくなってきた17時半頃、先に谷川九段が予想された手▲4五歩とは異なる手▲5五銀左と銀を中央でぶつけて戦いは始まった。対する藤井二冠も▽6五桂と谷川玉のいる近くへ桂馬を跳躍させ、ここからはどちらの攻めが上手くて速いかという勝負に突入していった。

華麗な決め手▽3九銀

開戦から10数手後、谷川九段は▽4七歩と飛車の頭に歩を叩かれる痛打を食らってしまい、攻めに使うはずの桂馬をボロッと取られてしまった。前述した開戦前に▲4八飛と一つ浮いたことが仇になったのだ。別のどこかでポイントをあげるわけでも無かったため、読みに抜けがあったのかもしれない。将棋は1手のミスが致命傷になるし、これはその典型的な例だろう。そして迎えた68手目、決め手▽3九銀が放たれる。

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この飛車取りがとても受けづらく、個人的にはこの局のハイライトだと思う。先手陣は横からの攻めに弱いため飛車を渡すことができない。当然飛車を逃げる一手になるのだが、▲5八飛は▽3六銀▲同金▽4七角、▲4九飛は▽3八角、▲3八飛・▲1八飛は▽2九角とどう対応しても角で飛金が狙える形となる。飛車が攻撃に使えなくなり(=藤井玉が安泰となり)、取られる可能性だけが残って勝負は終わった。

勝手に短評

開戦までの長い水面下の戦いは重苦しい時間だったが、戦端が開かれてからは澎湃の如く一気に勝敗が決した。谷川九段からすれば▽7五歩に対して▲同歩と応じたのが最後まで響いただろう。▽7七歩の叩きが常にあり、▲3五歩や▲2四歩、▲1五歩などの突き捨てを自由に入れることができなかった。その結果、自玉付近に爆弾💣を抱えたままの戦いを余儀なくされ、また強い攻めまでも封じられてしまった。先手番だからということでそのまま打開しに行くと、陣形の不備から駒損してしまい、持ち味を生かし切る前に終戦した。もしかしたら、本局のほとんどは藤井二冠の研究範囲だったのかもしれない。


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