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【重版出来&電子書籍刊行】『DRINK あなたが口にする「飲み物」のウソ・ホント』訳者あとがき公開

 8月に入りますます気温も高くなり、暑さにうんざりしている人も多いかと思われます。そんなとき大事になってくるのが水分補給です。それもそのはず、人体の約六割は水分でできていて、なにもしていなくても体からは水分は失われているからです。

 そんな水分補給「ただ水を飲めばいい」そう思っていませんか?

水を飲む量が少なすぎれば脱水症になる一方で、飲み過ぎてしまうと俗に水中毒みずちゅうどくと呼ばれる低ナトリウム血症を起こすことになる。腎臓の処理能力を超えるほど水を飲むと、脱水のときと同じくやはり体液平衡失調が起こり、結果として血液中の塩分(ナトリウム)が薄まる。ナトリウムには浸透圧の働きで細胞の内部と外部との水分のバランスをとるという重要な役割がある。だが、水を飲み過ぎると血液中のナトリウム濃度が低下して余計な水分が細胞に入り込み、結果として細胞は膨らむ。これによって脳の腫れなどの症状が出ることがあり、まれではあるが水の飲み過ぎで死にいたる人もいる。

DRINK あなたが口にする「飲み物」のウソ・ホント 第1章 水 より

 ぜひ、本書を読んで水だけでなく様々な「飲み物」の正しい知識を身につけてみてはいかがでしょうか?
 訳者の井上大剛さんによる「訳者あとがき」をお届けします🥤

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DRINK あなたが口にする「飲み物」のウソ・ホント

訳者あとがき

 本書は、ケンブリッジ大学で博士号を取得した人間生物学(ヒューマンバイオロジー)の専門家であり、サイエンスコミュニケーターとして情報を発信しているアレクシス・ウィレット博士、初の単著だ。
 原題は「Drinkology」。Drink と、「~学」「~の科学」を意味する接尾辞であるlogy を組み合わせた造語で、直訳すれば「飲みもの学」あるいは「飲みものの科学」となるだろうか。
 タイトルが示すように、広く飲みもの全般をテーマに、科学的なエビデンスにもとづいた最新の知見を紹介することで、(本人の言葉を借りれば)「飲みものがどのようにつくられ、実際に何が入っていて、体にどのような影響を与えるかについて、本質をつかめるようになっている」。

「本質をつかめる」という言葉通り、章立てからして非常に骨太だ。
 まずはすべての飲みもののおもな構成要素であるという理由で「水」からスタートし、次に人間が生まれてはじめて口にする飲みものである「ミルク」(ここには牛乳だけではなく人間の母乳も含まれている)、そして「ホットドリンク」「コールドドリンク」「アルコール飲料」と続く。ここには、飲みものの主要なカテゴリーを「人間にとっての重要度」の順に整理し、さらに個々の飲みものの情報をただ並べるのではなく、飲みものについて体系的な知識を読者に与えようという著者の意図がうかがえる。

 また、全体を通して、あくまでエビデンスにもとづいた客観的な視点が貫かれているのも本書の大きな特徴だ。
 本文でも何度も指摘されているように、たとえば健康飲料に関して世の中に流布されている(一見科学的な)説明の多くが、じつはほとんど根拠のない無責任な売り文句にすぎなかったり、あるいはエビデンスがあるとされている場合でも、その大元となる実験そのものが飲料メーカーがスポンサーをする中立性の疑わしいものだったりする。
 つまり、飲みものについて世の中を流れている“科学的”情報というのは玉石混交であり、現状、かなりグレーな状態なのだ。

 そんななか、ウィレット博士は本物の科学者としての矜持を貫き、徹底して客観的な視点から、人気の飲みものの正体を白日の下にさらしていく。
 酸素水については「人間は酸素を肺から吸収するのであって、胃や腸に入れても意味がない」、活性炭配合のデトックス飲料については「活性炭が有毒物質を吸収するのはたしかだが、有益な物質をも吸収してしまう」など、世の中にあふれる“健康飲料”の欺瞞をズバズバと突いていく。そしてついには自分のお気に入りであるルイボスティーまでも、「(健康効果があるかは疑わしいので)本当はお湯でも飲んでおけばいいのかもしれない」とまで言い切ってしまう。まさに一切の忖度なし。

 ただ、ひとこと断っておくと、本書は、これを飲んでおけば安心、とか、これは間違いなく体にいいとか、これこそがスーパードリンクだ、などという安易な答えを提供してはくれない(博士は強いて言えば、スーパードリンクに近いのは、水とミルクだと言っている)。それに全体として、「この飲みものに入っている●●という成分が体に良いという証拠はない」とか「たしかに××という体に良い成分が入ってはいるが、それは人体に実際に影響を及ぼすほどの分量ではないかもしれない」とか「この効果があると証明するには追加の実験が必要である」など、なかなか物事を断定してくれない。
 これを見て、なんだか歯切れが悪いな、と思う読者もいるかもしれない。だが、信頼のおける専門家ほど、そうそう断定的な言い方はしないものだ。「ここまではわかっているけど、ここから先は今後の研究課題」という物言いは、科学者としての誠実さの表れだと言えるし、なにより、「何がわかっていないのか」を把握しておくことこそ、賢明な消費者になるための第一歩だろう。

 また、さきほど言ったように本書はかなり骨太な構成になっているため、通読はなかなか骨が折れるかもしれない。それでも一度読み通せば、現在飲みものについて、「何がわかっていて何がわかっていないか」の概略がつかめるはずだ。時間がない人はまずは興味のあるところだけを拾い読みするのもいいと思う。どちらにしても、読めば読むほど、慣れ親しんだ飲みものについて新たな発見があったり、試しに飲んでみようと思えるものが見つかったり、あるいはこれからはあの飲みものはやめておこうと思わされたりといった変化が起きるだろう。

 ちなみに私も本書をきっかけに、コンビニやスーパーでペットボトルの水を買うのをやめ、「タップウォーター」――ようはただの水道水――を飲むことにした。
 あなたの飲みものの選び方を変えるような情報も、きっと見つかるはずだ。

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目次

第1章 水(水道水、ミネラルウォーター、浄水ポットの水、炭酸水など)
第2章 ミルク(牛乳、粉ミルク、プロテイン飲料、発酵乳、豆乳など)
第3章 ホットドリンク(紅茶、緑茶、ハーブティー、コーヒー、ココア、麦芽飲料など)
第4章 コールドドリンク(炭酸飲料、フルーツジュース、スムージー、エナジードリンクなど)
第5章 アルコール飲料(ビール、シードル、ワイン、蒸留酒、カクテルなど)

著訳者紹介

アレクシス・ウィレット
サイエンス・コミュニケーター。ケンブリッジ大学で生物医学の博士号を取得後、同大学のMRC人間栄養学研究ユニットにて研究をおこなう。これまでに生理学に関する講義のかたわら、健康問題全般を取り扱った記事や論文、著作を発表してきた。ルイボスティーを愛飲。

井上大剛(いのうえ・ひろたか)
翻訳者。訳書に『初心にかえる入門書』(パンローリング)、『インダストリーX.0』(日経BP)、『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(共訳、KADOKAWA)など。

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