【広告本読書録:116】言葉からの自由 コピーライターの思考と視点
三島邦彦 著 宣伝会議 発行
長らくおやすみしていた広告本読書録。前回の115号で児島令子さんの著書を取り上げてから一年以上も更新していませんでした。
それには理由があります。
手に取りたくなる広告本がないのです。
もちろんこの一年の間に何冊も広告やコピーに関する書物は出版されています。こう見えて広告本マニア(100冊以上紹介しているんだからマニアを名乗っても許されますよね)なので書店に行けば必ずコーナーをチェック。どれどれ面白そうな広告本はないかいな、と探索を欠かしません。
にも関わらず、この一年間、一冊もなかった。
これ如何に。
おそらくですが、面白い広告本が出版されていないのでなく。
自分自身が広告を面白いと思わなくなっている。あるいは広告そのものが面白くなくなっている。はたまたそもそも広告とは面白いものでもなんでもなく、故に正しい姿に戻っている。
と、いうことなのかもと結論のようなものを導き出したのが今年の年頭でした。
自分自身が広告を面白いと思わなくなっているのは、つまり感性が錆びついているからなのでしょう。外からの刺激を感じなくなったらこの仕事は終わり、なので、そろそろ俺も年貢の納め時なのかなあ…いや待てよ、俺そもそも広告つくってないじゃん!
みたいな自問自答をグズグズしていたある日、青山ブックセンターで見つけたのがこの一冊。
(こちらからご購入いただいてもわたしの懐には一銭も入りません。便宜上リンクを貼っているだけです。できれば書店で買ってほしい)
『言葉からの自由 コピーライターの思考と視点』なんとも深いタイトルです。著者は三島邦彦さん。Netflixや本田技研などでいい仕事をされているベテランコピーライターです。1985年生まれとのことなので39歳。まさに広告のメインストリームを駆け抜けている一人ですね。
さて、この本をなぜ、広告本に倦んでいるわたしが手にとったか。
まずは判型の勝利。B6というなかなか見ないタイプです。そして装丁。鮮やかなティファニーブルーにシンプルな書名と著者名。思わず手にとってしまう工夫が効いています。
作り手にどのような意図があったかはわかりません。ただわたしは「この本をレジに持っていく自分ってちょっとセンスいいかも」と想像しました。内容も重くなさそう。軽く読めそう。おしゃれに言葉のセンスが磨かれる一冊なのかも、と。
ところが、ページをめくると、ボッコボコにされます。
ボッコボコです。
ひさしぶりにでました。硬派なコピー道。三島さんが駆け出し時代から裸足で歩いてきた山道が、素手で掴んできた石ころが、カラダのあちこちについた傷が、そのまま目に飛んでくる。
いやあ、こういうのだよ。
こういうのがいいんだよ。
待ってたんだこういうの。
この著者は、コピーを愛している。コピーの力を信じている。コピーの可能性に賭けている。ページをめくる毎にひしひしと伝わってきます。
書いてあることはそれほど斬新ではないかもしれない。
過去のコピー本にとりあげられているものも多々ある。
その昔、わたしが部下に教えてきた精神論もみられる。
しかしなんというかまなざしが新しいのだ。
志がアップデートされているのだ。
「わかるということがわかっているもの、絶対にわかると思えるものはつまらないと思う」(61Pより)
「何を広告しようとしているのか。それが問題だ」(P81より)
「勇気をもって跳躍する。宙返りして着地する」(P146より)
なにかと話題のAIについての考察も、なるほど、とうなづかされる。
また過去の定説の逆説のような提言もある。それらもすとんと腹落ちする。
「通らないものを書き続ける」(P199より)
「途方に暮れる。そこから始まる」(P45より)
「直観のコピーライティング」(P104より)
さらに三島さんがこれまで読んできた本、好きな世界の本をジャンルごとに紹介している。しかも文章や言葉に関する書籍だけでなく経済やビジネス、漫画に至るまで。クリエイターにとっては手の内を見せることにもなるのだが、実に気前がいいのである。
まだまだ紹介したい内容、引用したいフレーズはたくさんあるのですが、これ以上はぜひ書店で手にとり、自宅や仕事場に持ち帰り、じっくり読んでほしいと思います。
いやあ、ひさびさに名著。
ひさかたぶりに「みんな読んどけよ!」と言いたくなる広告本でした。
最後に。
わたしは不勉強というか、ホンモノの広告から距離をおいていたことから三島邦彦さんというコピーライターを認知していませんでした。そこで先日、アド・ミュージアム東京で近年のコピー年鑑を開いてみました。
するとものすごい量と質の受賞作が出てくるではありませんか。2020年に新人賞を獲ったかと思ったら2022年にはなんと3つの賞を受賞するという快挙を達成。まさに押しも押されぬスターコピーライターでした。
ある年の年鑑では、ある事情から新人賞が取り消しとなる事案が発生した。そのことについて年鑑内で詳細な記述があり、賛否に分かれた審査員のコメントも掲載されていました。結構な割合で否のコメントだった。否が力強く、声が大きかったように思えた。
そこで三島さんは全力で制作者を応援していた。否の嵐が吹き荒れる中で「会いたいです。会いましょう。」と締めくくられていた。なんて熱い男なんだ。ため息をついて汐留をあとにした。
三島さん、久しぶりにアド・ミュージアム東京に足を運ぶきっかけをくださってありがとうございます。コピーの仕事、最高ですよね。
つまりわたしも、コピーライターに向いている。のであります。