正しい転職者のふるまい方
こう見えて会社を5回変えている。つまりいま籍を置いている会社は6社目ということになります。業界をゴロッと変えたことだってある。
労働政策研究・研修機構の調査によると日本人男性の生涯平均転職回数は約2.89回というから、僕はそこそこ転職のベテランといえるでしょう。
しかも最初の会社と5社目では転職に関するサービスを生業としていました。僕が介在することで何百人もの人の転職を成功させたわけです。中には失敗させてしまったこともあるでしょう。ごめんなさい。
加えてそれぞれの組織でたくさんの転職者を見てきました。時に自部署のメンバーとして受け入れ、時に他部署の出来事として眺めてきました。
そのような人生を送ってきた結果、わかったひとつの事実があります。
それは転職者には2種類あり、ひとつは正しい転職者、もうひとつは正しくない転職者である、ということであります。
そういえば求人広告だの採用広報だの、人と仕事に関わるコミュニケーションの仕事に長らく携わってきた割に、転職者の生態について考察したことはなかったなあ。
と、いうことで今回は正しくない転職者を例にあげ、正しい転職者のふるまいとはこういうものである、ということを語っていこうと思います。
たぶんこれからの社会は、というか会社というものは以前のように終身雇用でも年功序列でもなくなり(すでにそうですが)社員を抱え込むよりも副業を許可し、勤務地や配属部署を希望にあわせ、その代わりに解雇規制を緩めて行く方向に向かっていくと思われます。
そうなればいま以上に転職がスタンダードになるでしょう。
そんなときの参考にしていただければ僕のnoteもまんざら無駄ではないということになります。できればそうありたいな、と思います。
やたらと前職の話を持ち出す
これは主に都落ち転職(JTCから零細企業へ、みたいな)の場合に見られるケースで、その逆はまずありません。
かつて『ダ◯キン』というお掃除関連の大手企業からベンチャーであった頃の僕の前職に転職してきた女性は、なにかというと「◯スキンでは」「ダス◯ンでは」と前職での話を持ち出すのでウザがられていました。
事実として前職であったことをフラットに述べるのであれば拝聴の価値もあろうというもの。しかし大概の場合、マウントなんですよね。
「ダスキ◯ではこうだった。それに比べてあなたたちはレベルが低い」
という文脈で前職の思い出をチョッピングライト気味に語ってくださるのです。聞いてるほうがたまったもんじゃない。
(じゃあとっとと古巣に戻れよ)
みんなそんなモヤモヤした思いを抱えていたのでした。
前職は前職。いまの会社はいまの会社。あなたとしては良かれと思って情報をご開陳しているつもりでも、単なる鼻つまみものの烙印を押されるきっかけになるだけです。
「前の会社じゃどうだった?」と聞かれない限りは胸の奥にしまって鍵をかけておきましょう。
手柄を急ぎすぎる
これは主に職種経験者に当てはまるケースです。営業でも経理でも技術職でも、それなりに経験を持って転職してくる人には周囲の目はなかなか厳しいものがあります。
「どれどれ、お手並み拝見といくか」ってな感じで、経験者がどれぐらいの実力の持ち主か測っているわけです。
こうなると「トランキーロ!あっせんなよ!」と内藤哲也に言われなくても焦ります。そしてなんとかの法則にあったように、焦れば焦るほど新しい環境では実力が発揮できなくなります。気合が空回りしてしまうのです。
こんなときは、もういっそ一兵卒に戻ったつもりでその会社のいちばん下っ端の子でも捕まえて呑みにいって、いろいろ感じてることや思ってることを教えてもらうぐらいがちょうどいい。そこに現状打破のヒントが隠れていたりするんです。
みなさんもそういうドラマとか漫画を見たことがあるでしょう。
くれぐれも手柄を焦るがあまり申込書の改ざんとか、空伝票を切るとか、仁義を切らずに前職のクライアントに秋波を送るような真似をしないようにしましょう。
成功体験(個人の流儀?)にすがりつく
これも経験者にありがち。その会社のお作法をムシして自分なりの動き方を優先してしまう人が時折いらっしゃいます。
もちろんそれでハイパフォーマンスを発揮できればよいですし、むしろ組織自体が見習うべきなのですが…往々にしてあまり成果に結びつかないものです。
最低でも3ヶ月、できれば半年ぐらいは郷に入っては郷に従えではないでしょうか。せめてその会社のやり方で一度成果を出してから、それを上回る成果のために自己流ないしは過去の成功体験を取り入れるべきだと思います。
この手の困った転職者は主に営業職に多いですね。謎に出張ばかりしていたり、一週間のほとんどが直行直帰だったり。数字さえあげればいい、とでも思っているのかもしれません。転職したばかりの頃は周囲とのコミュニケーションも大切なんですけどね。
また僕の経験則では一部専門職にも見られました。編集者とかデザイナーとかですね。料理人にもいたかも。専門職の世界だと頑固一徹だったりして、修正が効きにくかったりします。
両手の人差し指のみでタイピングするライターがいて、当然ですが作業速度が遅くて仕方ないので注意するんですが、まあ言うこと聞かないんですよね。彼はいまでも人差し指だけでゆっくりゆっくり一文字ずつ入力しているのかしら。
調子に乗る
ごくまれに転職後、比較的早いタイミングでビギナーズラックに恵まれる人っているんですよね。
難攻不落のクライアントが落とせた。業者を見直すことで大幅なコストカットが実現できた。画期的な仕組みで生産性が異常に向上した。
まあ、お手柄だね、って話なんですが、規模が小さい会社の場合、こうした早期戦力化(?)を会社の代表はおおいに賞賛するんです。賞賛しすぎるんです。
まあ代表の狙いはわからんでもないですよ。
おまえら最近たるんでんじゃないのか?うちは年功序列でも入社順でもない完全実力主義なんやぞ。みろ、こいつみたいなポッと出の転職者でも成果をあげればすぐにひっぱりあげてやる。ほらほら、おまえらも精を出さんかい!
なんて気分なんでしょうね。
で、特別ボーナスだったり朝礼でのベタ褒めだったり、場合によってはいきなり一階級昇格なんてことも。ワンマンの悪いところです。
それでおしまい、ならまだいいんですが、こういう時に調子に乗ってしまうのが正しくない転職者。乗るなというほうが酷なんですけど。
ただ、もう周囲が呆れるぐらい調子にのってしまうケースがほとんどなんです。わたしには代表からの寵愛を受ける権利がある、ぐらい勘違いしちゃうんですね。特にカリスマチックで強権的な代表であればあるほど。
それで、やりすぎて、バーストしてしまう。自滅しちゃうんです。結果、その後なんかトラブルみたいなのを起こして周囲に迷惑かけて勝手に辞めちゃう。これまで見てきた転職者でこのパターンの人がいちばん痛いです。
もともと悪気があるわけではないので、会社にも転職者にも非はないんだけど、双方にとって何のメリットにもならん話。
気をつけたいものです。
今回はあんまりよくない転職者の行動について4つほど例をあげて紹介しました。逆に上手くいく転職者の典型はシンプルで「謙虚」「コミュニケーションを大切に」「会社の文化に馴染もうとする」この3点に尽きます。
そしていま思ったんですが、この3点はなにも転職者にのみ当てはまるものでもなくて、その後もずっと会社生活を上手くやっていくために欠かせない要素なんですね。ここに「いつもご機嫌」と「笑顔」が加われば最強の勤め人が完成するのではないかと。
そう考えるとこの複雑な世界、VUCAだの怪獣ブースカだのややこしそうに言われている世の中も、そんなに難しく考えることはないのかなと思えてきませんか。