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き り はなし



尺度の違う人間たちが
それぞれの浮力で浮き沈みする。
見上げた空は下にあり、
見上げられない人間たちが
本物の人間と言われた。 

見上げられない人間たちは、最初ゴミのように扱われていたが、今は水面に広がる無数の埃のように漂いながら、ミジンコのように小さく息をする。
それはそれはカラスのようなくちばしと目をした大きな黄色い黒い鳥が空から降ってきたのだけれども
それはよく見たら、鳶であって、危機管理、危機管理、と泣き叫びながら人を突いた。
雀も一緒に人の頭をつついて回った。
その後、鳩が蹴って回った。

人間たちの目が回った。
遠心力でおつむの中の栄養素は流れ出てしまった。
求心力で人の心の純潔が凝固する
それは塩素に滲んだように真っ直ぐ清潔に固まった。
煩悩を結晶した臭い立つそれは
それは薬剤色よりも全く澄んだ透明になり愛くるしくも殺菌されたが、世の人の人と人の絆はすべては切り離された。

人間の中から溢れてきたもので海ができた。
魚たちは突然立ち上がり、その中を二足歩行した。
数々の昆虫たちが、携帯用の機器を携え、どこかと通信し始めた。
月が浮かんだと思ったが、それは大きなスクリーンだった。もはやスクリーンでもなく、イメージしただけでもそこに映像を作って映し出してくれる、一人ひとりの脳内に発生し、一斉に稼働し始めたAIによる仕事の成果だった。

母親のいない場所で、子供が1人だけで生まれてくる事はできなかったが、
親のないところで、子供は成人するまで育つ。
その親が亡くなる頃には、子供は病院に入ることができないからと、誰も看取れない。

親はまた鳩のようになって、子供はまた鳶のようになって、誰もいない世界からやってきて誰もいない世界にただひとり自分だけが住まわされ孤独を生きることに専念。

そして再び用が済んだら誰もいない誰も行ったことのない世に還っていくのだ。

行ってらっしゃいの挨拶は無い。
まだ生きているがそろそろ死ぬからと、段取りに滞りが生じぬよう親切に病院が示唆をくれ数十年かけて資金を積み立ててきた葬儀屋の予約を生前から前もって行うことができた。

3日も4日も前に段取り済み。いやいや、あと1週間あるかもしれないし、あと1ヵ月あるかもしれないのにだ。
こうして人の世界はどんどん便利になり、どんどん合理的になり、一切の余計なことを省いてどんどん幸せになりました。そうか!ここがパラダイスと言うところなのか、
後は死んだら迎えに行きますからと言うお話で済んだ。
特にやる事はなく、みんなで息を引き取るのを見逃さぬよう待機している。誰も待ち望んでなどはいないのに、なんだかその場面を待っていなければいけない。その場面を待って、よし、今死んだとなったら、一斉にそれぞれの仕事のために動き出し、分散するのだ。

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