見出し画像

何を捨てて、何を残すのか。その選択のセンスは「好き嫌い」をハッキリ意識すること

中野善壽(なかのよしひさ)、七十五歳。
伊勢丹、鈴屋で新規事業の立ち上げと海外進出を成功させる。
その後、台湾へ渡り、大手財閥企業で経営者として活躍。
二〇一一年、寺田倉庫の代表取締役社長兼CEOに就任。
大規模な改革を実施し、老舗の大企業を機動力溢れる組織へと変貌させた。

ぼくが中野氏を知ったのは数年前。70歳を超えて、家も車もなにも持たないミニマリストの紳士がいるという記事をなにかで読んだときだ。

上記の経歴をみれば、きっと年収も億単位なんだろうが、贅沢な暮らしや物欲は一切ない。そして、若い頃から寄付活動を淡々と続けている中野氏の生き方、哲学は物質的にも精神的にも「ミニマリスト」の鏡ような人物である。

その生き方の根幹にあるのは「何も持たない」こと。
家や車、時計は持たない。お酒もタバコも嗜まない。
お金も若い頃から、生活に必要な分を除いてすべて寄付している。

何も持たないからこそ、
過去に縛られず、未来に悩まず、
今日を大切に生きることができる。

本書はミニマリスト思考のひとはぜひ読むべき一冊だし、70年以上生き抜いてきた人生経験に基づく言葉は、少なく、シンプルながらも心にズトンと直球が突き刺さってくる。

自分が気に入った数行をメモっておけば、自分なりの信条のベースになってくれるだろう。

僕がメモったのは↓。

■準備万端の日は一生来ない。 何も考えず、思い切ればいい 
「まだ早過ぎる。準備ができていないから」なんて言っていたら、 いつまで経
  っても打席に立てない。
  結果はどっちにしても三回に一度の確率程度のヒット。
■できることが、なくてもいい。こだわりがなければ、なんでもできる 
 仕事ななんでもやらせてもらっておもしろかったですよ。
 「何もやりたいことがない」というこだわりのなさが引き寄せた幸運でした
■会社はただの箱でしかない。 愛社精神なんて持たなくていい
■飲み会を捨てる。人間関係はがんばって広げなくていい。
 
頑張って顔を売ったところで、一緒に仕事をする相手は三人か五人、
 多くて十人くらいのものでしょう。 一緒に働ける人が十人もいれば、
 たいていの仕事はできるもの
■世の中に安定はない。常に流れるのが自然の摂理
 今日と明日で一つとして同じものはない。一日単位では気づきにくい微々たる
 変化だったとしても、大きな流れの中では激動している。そんな世界の中で
 必要になるのは、安定を求める心ではなく、変化に対応する力
■所有は安定を生まない。 ものを捨てれば、自由になれる
 ものを所有することは安定を生まない。むしろ不安が増えるだけ。
 「いつでも移れる。どこでもすぐに新しい生活を始められる」。
  人生の選択肢を広げてくれる、そんな軽やかさを持ちたい
■持ち歩くのは 小さな鞄一つでいい。
 鞄を一つだけと決めて、サイズをコンパクトにするだけで、
 自然と持ち物は減ります。 たくさん入らないから、数を絞らざるを得ない。
■スマホを捨てる。自分を失くしたくないから
 何が嫌だったかというと、情報が多過ぎて余計な時間を取られてしまうこと。
■慣れを捨てる。 見知らぬ人との会話が刺激になる。
  いつも同じ面子と会って、同じような会話をしてばかりだと、
 どんどん頭が衰える。 大事なのは、自分に〝負荷〞をかけ続けること。
 見知らぬ町の市場に飛び込んでいって、 店内で買い物をしている
 おばちゃんと三分話すほうが刺激になります。
こだわりを捨て、 相手が求めるものを差し出す。
 水が高いところから低いところへ流れるように、
 どんな形にでも変われるしなやかさを持つことが秘訣
■今日がすべて。颯爽と軽やかに、ぜんぶ捨てれば。  
 過去にとらわれず、未来に揺さぶられず
 確かに味わうことができる今日に集中して精一杯楽しむ。

さて、本書において一番重要なパートは「捨てるセンスを磨く」という章だと思う。

結局、ミニマリストを目指すのであれば、「何を捨てて、何を残すのか」その選択、トレードオフの繰り返しになる。そのためには、自分の中での価値観、哲学など軸がしっかりと定まってなければならない。

中野氏は、その「選択センス」についてこう述べている。

自分にセンスがあるかどうかは、正直、よくわかりません。ただ、一つ言えるのは、そのときどきで僕は 「好き嫌い」をハッキリ意識するようにしてきたということ。

理由は後付けでもいいから、直感で主観を示していく。それをなんとか作りあげていかないと、自分の中に主たる軸というものができない。

じゃあ、自分の「好き・嫌い」を身につける練習はどこでやってきたのか?

僕の経験を遡ると、その原点は幼い頃に祖母から手ほどきを受けた「生け花」の稽古だったように思います。どの花が好き。どの長さに切るのが好き。どの角度で挿すのが好き。どの組み合わせが好き。無限のパターンから、どう生きるかを決めるレッスンは、大人になってからの直感を信じる決断力。の基礎になったかもしれない。

僕自身、ミニマリストの道を歩みはじめて10年近く経つが、大切なのは表面的な断捨離本にあるテクニックではなく、「捨てる」「残す」の選択する力だと言い切れる。

本書はそんな本質論が満載な良書であります。

今日もありがとうございました。


いいなと思ったら応援しよう!