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人生には拍手する時間が必要だ ネマニャ・ラドゥロヴィチ✖️東京都交響楽団(9/3)
日曜日、上野の東京文化会館に向かう。
セルビア生まれのヴァイオリニスト、ネマニャ・ラドゥロヴィチをはじめて聴いた。曲はチャイコフスキーのコンチェルト。オケは東京都交響楽団、指揮はサッシャ・ゲッツェルである。
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ネマニャの演奏、のっけからグイグイ引き込まれる。
いい音。朗々と響き、スケールのある音というか。そしてまあ豊かに歌うんですよ、ときに「タメすぎでは」と思う箇所もあったけど、歌が体から溢れて止まらない感じが……微笑ましくてねえ。実に楽しそうに、嬉しそうに弾くんです。体全体で音楽の喜びを表わしてくる(ファッションがまた独特、黒一色で幅広のちょっとフレアになったパンツに面白い襟合わせのデザインのトップス。靴はブーツっぽかった)。彼、愛嬌があるんだなあ。観て聴いているうち、だんだん彼のファンになってチャイコフスキーの音楽に没入していった人、多かったんじゃないかな。
第1楽章が終わって思わず拍手してしまう人、かなりの数。ネマニャ、ものすごくピッツィカートがうまい。ドキリとするような、こちらの胸を鷲掴みにするような音を出す。かと思うと素晴しく緊張感のある繊細なピアニッシモを奏でて大ホールに緊張感を走らせて。フィナーレが終われば万雷の拍手。東京文化会館大ホールは喝采に揺れましたよ。
アンコールはパガニーニの「24のカプリス」から。凄すぎてぼうぜんとしてなんか笑っちゃったな、ポカンとするというかね。テクニシャン過ぎると心が引いてしまうときもあるけど、ネマニャはそういうのと無縁な感じ。サービス精神というか媚びすぎないエンタテインメント精神が音楽的才能と絶妙のバランスで共存しているというか。
後半はチャイコフスキーのシンフォニー第5番。
大好きな曲で、実は生で聴くのはじめて。コントラバス、8台も並んで壮観だなあ。うーん、カッコいい!
チャイコフスキーらしいメランコリックで華やかで甘美な旋律がこれでもかと詰まった交響曲、オーケストラの生演奏で聴けるというのはなんという贅沢だろうか……という思いに何度もなる。私は交響曲を聴いてる経験値がかなり低いのだけれど、年季の入った聴き手はサッシャ・ゲッツェルの指揮をどう見るのだろう。評を読んでみたい。
第2楽章の最初のホルンのソロのきれいだったこと。ぼうっと聴き惚れる。あと、コンチェルトのときにも思ったけど第1フルートの方の響きが見事で光っていた。弦はきれいにそろっていて(プロからしたら当たり前なんだろうけど)、すごいものだなあと。第3楽章のはじまり、優雅だよねえ……なんかあの旋律、バレエの動きがいつも目に浮かんでくる。そして副主席のヴァイオリニストの方にカリスマを感じた。なんか目立つんですよね、華がある。
いやはや、いい時間を過ごしました。私はいつも思うけど、「心から拍手をする、したくなる時間」が人生には必要だと思っている。心から存分に拍手をしまくって、なんだか気持ちがすっきりしたぞ。いいものに触れて感激して拍手する、最高の時間だと思う。
今回の演奏会は尊敬する先輩のTさんが「行けなくなっちゃったから」とチケットを譲ってくださったのでした。心から感謝。都響、もっと聴いてみよう。ほぼ聴いたことなかったんですが、いいですねえ。
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