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パナソニック汐留美術館の企画展『神坂雪佳 つながる琳派スピリット』を、パンフレットだけで楽しんでみた

週末に家族で近所を自転車に乗って、ぶらぶらしていました。もう終わったのかと思っていたキンモクセイの香りがあちこちから漂ってきました。息子に向かって「キンモクセイのにおいがするねぇ」と声を掛けると、「あっ! あそこにあった!」……少し進むとまた「あそこにもあったよ!」と叫んで教えてくれます。

近寄ってiPhoneで撮ったのが、冒頭の写真です。きれいに撮りたいなと思うのですが、なかなか見た時の雰囲気や空気感などまでを撮るのは難しいですね。シャッターを押しただけでは、真を写せないものです。

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最近、琳派という……日本美術のカテゴリー?……琳派ってなんでしょうね……のことが気になってしかたないです。

もちろん“琳派は売れる!”と思った美術館や出版社などが、消費者へ総攻撃をかけているからなのですが……。わたしは、美術鑑賞については、そうしたマーケティング戦略に、あらがおうとは思いません。“琳派”攻撃にさらされたとしても、物欲が刺激されるわけでもないので、お財布にもほとんど影響はなく、琳派を知るためのよい機会ですもんね。

先々週に、そんなマーケティングの聖地の一つ、汐留のあたりを歩いていたんです。そうしたら、パナソニック汐留美術館の大きなポスター……というのか分かりませんが、大きな大きな広告が壁面に貼られていました。すでに16時を回っていたし、家族と一緒だったので、美術館へ行くのは諦めましたが、その神坂雪佳せっかさんの絵を見て、きれいだなぁとひととき広告を眺めました(このnoteを書きながら知ったのですが、会期は10月29日から。わたしが汐留に行った時には、まだ開催されていませんでしたね)。

先日行った竹久夢二美術館には、パナソニック汐留美術館で開催される『神坂雪佳 つながる琳派スピリット』のパンフレットが置いてありました。そのパンフレットもまたステキで、パンフレットを見るだけでも、ある程度満足できてしまうという……美術って、とてもリーズナブルな趣味ですよね。

パナソニック汐留美術館『神坂雪佳 つながる琳派スピリット』パンフレット(表面)

神坂雪佳さんは(1866-1942)、明治から昭和にかけて京都で画家・図案家として活躍した方だそうです。竹久夢二さんが1884年生まれで、病没したのが1934年なので、雪佳さんの方がふた回りくらい年上ですが、2人は京都あたりで会っていてもおかしくない、同時代人と言えますね。

呉春ごしゅんの四条派の日本画を学んだのちに、1890年に図案家の岸光景さんに師事。その岸光景さんという方が、大の琳派好き。それで雪佳さんも影響を受けて、琳派に惹かれるようになったそうです。さらに1901年、雪佳さんが35歳の時にイギリスで開催されたグラスゴー国際博覧会を視察しつつ、ヨーロッパ各国を歴訪。視察メンバーに選ばれるくらいなので、此の頃すでに、日本画家または図案化として名を馳せていたのでしょうね。

ヨーロッパを歴訪した時期は、ちょうどジャポニスムが流行していた時期だったそうです。雪佳さんが傾倒し始めていた琳派も、ヨーロッパの美術に大きな影響を与えていたのを肌身に実感したんでしょうね。ますます「やっぱ、琳派って、すげぇよ!」ってことになりつつ日本へ帰国。師匠の岸光景さんと「ヨーロッパでも琳派がすごい人気でしたよ! むしろヨーロッパでの評価の方が高いんじゃないか? ってくらいです」と報告したかは分かりませんが、2人で盛り上がったのは間違いなく、その後2人は琳派の本阿弥光悦を顕彰する「光悦会」というのを始めるんですね。

パナソニック汐留美術館『神坂雪佳 つながる琳派スピリット』パンフレット(裏面)

さて、パナソニック汐留美術館のパンフレットには、雪佳さんの代表作がズラッと印刷されています。表面の子犬もかわいらしいのですが、わたしが好きなのは、裏面にある『金魚玉図』。

明治から昭和にかけて描かれたこの作品。金魚がまっすぐこちらを見ていて、自然と目が合いますよね。日本画で、人物でも動物でも被写体が、まっすぐにこちらを見ている、そういう絵って、あまり見かけない気がします。視線を合わせさせることで、鑑賞者が作品から目を逸らせなくさせますね。

『金魚玉図』(細見美術館蔵)の全体

実際の『金魚玉図』を見たことがないので、調べてみると、全体はこんなに縦長だったんですね。そして縦長なのに、構成要素のほとんど上半分に配置し、下半分にはほとんど何も描かない……というのが、大胆な構図と言う感じでしょうか……。

ちなみに、ちゃんとした美術の専門家は、次のように語っています。

正面からとらえた金魚のユニークな姿を簡略化しつつも、金泥のたらしこみによって立体的に描き出している。

Art-Precis

記されている「立体感」は、本物を見ないとわからないんでしょうね。

パナソニック汐留美術館『神坂雪佳 つながる琳派スピリット』パンフレット(内面1)

琳派に傾倒していった雪佳さんは、琳派の作品をコレクションしていったようです。再評価が始まったばかりの時期だったでしょうから、探せば個人蔵のお買い得な琳派作品が、まだまだあちこちにあったのかもしれませんね。

企画展『神坂雪佳 つながる琳派スピリット』の第1部では、雪佳さんが惹かれていった本阿弥光悦や俵屋宗達、尾形光琳/乾山、酒井抱一などの作品も多く展示されているそうです。わたしは特に、この酒井抱一さんの『まきに秋草図屏風』を見てみたいです。なんかね……琳派の中でも抱一さんに魅力を感じるんですよねぇ。

パナソニック汐留美術館『神坂雪佳 つながる琳派スピリット』パンフレット(内面2)

雪佳さんは、日本画家としてだけでなく図案家としても著名なのだそうです。絵画だけでなく、陶磁器・漆器・染織・版画・図案で活躍したなんて、単に絵を描く才能だけではなく、コミュニケーション能力にも長けていたのでしょう。

特に、今回展示される『百々世ももよ草』のなかの『八つ橋』(原画)は、2001年に刊行されたエルメスの機関誌『ル・モンド・エルメスLE MONDE D`HERMES(エルメスの世界)』( N38 VOL 2001)の表紙と巻頭(全12ページ)に紹介されたことで有名です。

なお同作品は、芸艸堂うんそうどうのホームページでも詳細が見られるので、ぜひ御覧ください。

パナソニック汐留美術館『神坂雪佳 つながる琳派スピリット』パンフレット(内面3)
パナソニック汐留美術館『神坂雪佳 つながる琳派スピリット』パンフレット(内面4)

企画展の第4部は、『琳派を描く』と記されていますが、パンフレットの数少ないラインナップを見ると、トレースしたのは琳派だけではないようですよね。

杜若かきつばた図屏風』は、美術にそれほど詳しくないわたしでも、「なんか見たことある!」っていう……これは尾形光琳の『燕子花かきつばた図屏風』のパクリでしょうか(笑)。ただ、パンフレット右下の『白鳳図はくほうず』は、江戸期の絵師がこぞって描いたフォーマット……その中でも琳派というよりも、スラッとした体のシルエットが、伊藤若冲の『孔雀図』にクリソツな気がします。

パンフレットに掲載されている以外にも、「雪佳が手本とした琳派の美をうかがわせる本阿弥光悦、尾形光琳らの名品をあわせて、絵画・図案集・工芸品など約80点を展覧」するということです。どんな作品が見られるのか、楽しみなところですが……はたして、わたしが行くことがあるのか……は、いまのところ未定です。

『神坂雪佳 つながる琳派スピリット』
●会期:2022年10月29日(土)〜12月18日(日)
●開館時間:午前10時より午後6時まで(夜間開館を実施する金曜もあるようです)
●料金:一般:1,000円……以下略
●休館日:水曜日(祝日の場合は開館)
●会場:パナソニック汐留美術館
●住所:東京都港区東新橋1-5-1  パナソニック東京汐留ビル4階


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