詩 時計がなくなった日
時計がなくなった。
時を刻むために必要な鳥がいなくなった。
昨日、突然に。
頭の中にあった鳥が逃げてしまった。
さっきまで、鮮明に見えていたのに。
頭の中で飼っていた鳥が逃げだした。
翠と赤のきれいな鳥だった。
鳥は僕にこういった。
「君の時計はわたしが動かしている。
もう必要ないから、わたしは行かなければならない。」
鳥が飛んで行くのを眺めながら、
僕の時間がなくなったことを知った。
僕は太陽や風や木や鳥たちのように、
今しか時がなかった。
一瞬一瞬に命が燃えているのが見えた。
僕は鳥を探し出さなければならない。
僕の時間を取りもどさなければならない。
しかし、今しかない僕にとって、
世界を理解することはほとんど不可能だ。
連続した時間があることが前提のこの世界。
点と点を跳ねることでしか生きられない僕。
点と点の間はすき間だらけで、いつでも簡単に落ちてしまう。
僕の行為に意味というものは見当たらない。
それでも、太陽や風や木や鳥たちのように、
僕は自由にこの点の世界を生きることができた。
何も持たなくても、居場所が無くても、必要なものは与えられた。
時間など必要なかった。
逃げ出した鳥は知っていた。
気づくと僕の頭の上で、きれいな鳴き声で鳥が鳴いていた。
もう頭の中で飼う必要はない。
いつも僕のそばにいるのだから。