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小説|忘れた悩みとガムの味

 僕は悩むとガムを噛む癖がある。
 吐き出したガムを包んだ紙屑が、鞄の使わないポケットに入っていた。いつからあったのか、もう、わからない。
 何味のガムだったのか。何に悩んでいたのか。もはや、わからない。
 僕はまた、別のことで悩んで、ガムを噛む。
 答えのない問いが、頭の中を巡っている。あるいは、まるで、一本道を歩いているのに迷子になっているようでもあり、とてつもなく煩わしい気分だ。
 ふつふつと湧き上がって来る腹立たしさに、ガムを道端に吐き捨てたくなるが、そんなことをすれば道は汚れるし、誰かが踏んで嫌な思いをするかもしれない。飲み下してしまえばゴミは出ないが、そんなふうに、身体に良くないこともしたくない。
 どうせ噛み続ければ、悩みさえ味がしなくなるだろう。いつものように、紙に包んで捨てるだけだ。
 せめて、その時に好きな味のガムを噛んでいたい。

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