いつか『アメリ』をみて泣かないようになりたい
世界とうまくむきあうことができない。
そんな悩みをもっている人はいるだろうか。
『アメリ』はジャン=ピエール・ジュネ監督の作品で、日本でもよく知られているフランス映画。
アメリのヘアスタイルやファッションに夢中になった女の子は数知れず。
ちいさい頃からひとりの世界にこもり空想ばかりしていたアメリが、徐々にまわりの人との交流を深め、やがてニノという男性に恋をするというお話。
絵本のような世界観、おしゃれなパリの風景、赤と緑(ときどき水色)のうまく配色されたセンスのいい映像。
そんなアメリワールドは、とにかくかわいい。
でも、『アメリ』のよさはそれだけではない。
不器用ながらも世界とむきあおうとするアメリの姿は、他人事だとは思えない。
ニノに恋をしたアメリは、恋のやり方がわからず、まわりくどいことをする。
街に張り紙をしたり、友だちに手紙をことづけたり、謎解きゲームをくりひろげたり。
正々堂々「すき」と言えばいいものを、なにをごちゃごちゃと…
でも、アメリの気持ちがよくわかる人もいるのではないだろうか。
すきな人に拒絶されるのがこわいから、世界に拒絶されるのがこわいから、じっくりと観察し、じりじりと距離をつめ、近づいてはまた離れる。
ひとりの世界で生きてきた人にとって、他人とかかわることはそんなに簡単なことではない。
価値観をすりあわせなければならないし、妥協しなければならないし、相手に振りまわされることだってある。
ひとりの世界では物事が秩序立っていて完璧なのに、他人が介入してくることで、その世界はとたんにめちゃくちゃになる。
きっと、コントロールできないことが問題なのだろう。
すべてを自分の望みどおりコントロールしたいのに、他人も恋も世界もコントロールなんてできない。
完璧主義者にとってはとくにそれが歯がゆい。
でも、他人と共有する世界は、ひとりの世界よりもずっと生き生きしている。
コントロールできないことがむしろたのしいし、どきどきわくわくであふれている。
すべてが予定通りに進んでいく人生なんて、案外つまらない。
他人と人生を分かち合える世界は、無秩序で不完全だけれどわるくないと思えるのだ。
だいすきな人といっしょにいられたら。
かわいい映画だと気に入っていたのだが、あるときから、『アメリ』をみて泣くようになった。
わたしもアメリのように不器用な女の子だと気づいたから。
そして、すきな人に愛されて、この世界とのつきあい方を覚えたアメリがうらやましかったから。
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アメリ(Le Fabuleux Destin d'Amélie Poulain)
ジャン=ピエール・ジュネ
2001年/フランス/カラー/121分