『ロスト・イン・トランスレーション』で孤独の感触を確かめる


映画のラストでは、足のすくむような恐怖が押しよせてきて、思わず泣いてしまう。


やっとひとりじゃないと思えたのに、またひとりになってしまう。


生きることの孤独や未来への不安を浮き彫りにした映画だ。



『ロスト・イン・トランスレーション』は、ソフィア・コッポラ監督の作品。

夫に連れられて東京に来たシャーロットと、CM撮影のために東京に来た俳優のボブが出会う物語。

同じホテルに泊まっていたことからふたりは顔を合わせるようになり、やがていっしょに夜の東京に出かけていくなど、距離を縮めていく。


それぞれ結婚相手がいるのに、その相手とどこか通じ合えないところがあるという孤独。

そして、異国で出会った知らない相手と、違和感なく心の奥底でつながれるという歓び。

シャーロットとボブは年も離れているし、共通点なんてひとつもない。

それでも相手といることがしっくりくる、一生のうちでそんな相手と出会える人が何人いるだろう。



おそらく、ふたりは似た者同士だったのだと思う。


誰かといるときでも妙にさびしくなってしまったり、ふいに意味もなく泣けてきたり、他人に心を開くことが難しかったり、他人のしていることが馬鹿らしく思えたり、人生の意味を真剣に考えてしまったり。

でも、なにも気づかないふりをして生きていかなくてはならない。

だって、みんなはふつうに生きているから。


だから、ふたりが出会ったときには、これでもう孤独じゃないと思えたはずだ。

わたしだけじゃなかった!同じようなことを感じながら生きている人がいるんだ!と、とても安心したことだろう。



でも、東京での日々は終わりをむかえる。

ふたりともアメリカのそれぞれの家に帰らなくてはならないし、自分の結婚相手といつもの日常に戻らなくてはならない。

ふたりはまたひとりぼっちになってしまうのだ。


これまではひとりぼっちでもなんとかやってこれたのに、一度ひとりではなくなったら、もうひとりぼっちではいられないものだ。

ふたりは大人らしくあっさりと別れるが、最後にもう一度会ってお別れをするシーンがある。

このシーンの美しいことといったら!


これからひとりで生きていくなんてできない。

でも生きていかなくてはいけない。


東京でのふたりの出会いはなにも生みださなかったが、確実に、その後の人生における心の拠り所になったことだろう。




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ロスト・イン・トランスレーション

ソフィア・コッポラ

2003年/カラー/102分