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櫺・連子(れんじ)・空間表現のRANGE
古い建築に関わると、普段使わない独特な言回しや、すでに死語となったような言葉に出会う。
そのたびに日常風景に揺さぶりをかけられたり、刷新されるような感じを覚えることが少なくない。
櫺 ・
欞 れんじ
もその一つで、日常触れることはまずない漢字である。
【訓読み 】てすり のき れんじ
【音読み】 リョウ レイ
櫺は【訓】で「れんじ」と訓むの対して、
連子は【音】で「レンジ」と読み、更に「櫺子」と表記することもある。
音と訓が同じ音、同音同義であるが故に異種の響きを持つ。
同義の格子や連子に比べ使用頻度は少なく、死角に隠れたような言葉で、漢字検定1級でも受けなければ接することは少ないだろう。
個人的には茶室の連子窓以外で使ったことはなかった。
訓読みに現れる意味が大きく3つ
①てすり・欄干
②軒 ・ひさし
③楯閒子・ 連子 ・格子
元来、等間隔で連続する仕舞いを持つ造作物を意味する。
建築の外観の特性を俯瞰し、大づかみに形容する
明治大正期の文学の生活描写には「路地」「格子」「櫺子」という言葉が度々登場する。
永井荷風 泉鏡花 寺田寅彦
日常的な風景の中にある町家表層を覆う公私皮膜、つかずななれずの関係性を自然に表すエレメントであると同時に奥へのベクトルを持った、時に艶と色を伴う私小説的世界への導入の枕詞。
永井荷風は『日和下駄』の「路地」と題する一章の中で、
「凡てこの世界の下世話な感情と生活とはまたこの世界を構成する格子戸、溝板、物干台、木戸口、忍返しなぞという道具立と一致している。この点より路地は渾然たる芸術的調和の世界といわねばならぬ。」と述べる。
今和次郎がかつて生活の中に潜み変化する美意識、「造形感情」と表現した世界観とも通ずるものを感ずる。 格子、連子、櫺子、櫺 それぞれの言葉に現れる純度と、習合性。
そしてもう一つ、櫺という漢字の成り立ち。
木・雨・口口口・巫
漢字という身体メディアが持つ空間性。
起源を暗示するその配置、素材、現象、形、習慣。
連想の網は付与された一対一の事物名称を超えて、字義の周辺を含めより多くのものをからめとる。
公私結界を漂うペリメター(縁的)な心的領域の描写を促す源泉(source)であると同時に、喚起的潜勢力を持った依代であり、
死語化された後に、遺跡のように歴史的、時間的に抽象化され純化された文字列は言葉を再定義し、新たな生命を得る。
『検索』の時代、それは音響の新たなストックヤードとして機能し、棚卸しされ閲覧の時を迎える。視覚的空間表現のメディアのテーク(棚)。
漢字が生き延びる処世術として。
そして生活に気色(けしき)をもたらす、視覚メディアとして。
死語をリノベートすること。
枕詞のように音や意味をかさねてもう一つのレイヤーでみることは、
見たことのない風景の既視化や、普段見慣れた風景の未知化をもたらす。