見出し画像

俳優は一振りの七味でいいんだ

"余計な味付けはいらない。俳優は一振りの七味でいいんだ。"

小中高の同級生で、現在劇団四季の俳優として活躍している友人と久々に飲んだ。互いの仕事の話から、結婚の話まで、気付いたらかれこれ6時間ぐらい話し込んでいた。冒頭のフレーズは、その中で最も印象的だったものだ。劇団四季創設者、故・浅利先生のお言葉だそうだ。

俳優の個性を最大限引き出し、それらをぶつけたものが良い舞台であると私はずっと思っていた。しかし、劇団四季が考える良い舞台はそうではないらしい。

俳優に求められるのは、作家が創り出した脚本を忠実に伝えること。完成された脚本に、俳優の個性や解釈などは一切いらない。強すぎる個性や解釈は、観客に押し付けがましい印象を与えてしまう。我々はただ一杯の素うどんを提供すればいいのだ。俳優の個性というものは、"一振りの七味"程度でよい。個性が強すぎると、完成された素うどんが薬味だらけのカレーうどんになってしまう。

私にとっては目からウロコの考え方だった。そして例えの表現が絶妙だなーと感じた。

劇団四季には、宝塚のようないわゆるスター俳優というものが存在しない。いや、あえて作っていないらしい。俳優のスター性で勝負するのではなく、作品の完成度で勝負しているのだ。だからこそ俳優は個性は捨て、徹底的に脚本を正確に"伝える"ことが求められる。その結果我々観客は、いつ行っても高いクオリティの作品を楽しむことができるのだ。(実際1つのキャストを3-5人ぐらいの俳優さんでまわしているらしい。)

そんな話を聞いて、「あれ?なんかビール造りに通じる部分があるかも」と感じてしまった(ちょっと飛躍しているかもしれないが、、)

私が考える良いビールの条件は、バランス(調和)がとれていること。もっと言うと、ドリンカビリティが高い(飲みやすい)ビールであることだ。

ドリンカビリティが高い=味が薄いというわけではない。雑味がなく、素材(麦芽、ホップ 、酵母、副原料)の良さが引き出され、それらが喧嘩することなく調和し、表現したいビールの味がストレートに伝わる状態が理想であると思っている。普段醸造するときも常々意識しているが、これがかなり難しい。

例えばフルーツやスパイスを使ったビールは、比較的特徴が出しやすい。なぜなら副原料を前面に押し出せば、「おお!OOの味がする!」というビールを造ることができるから。ただしそれらのビールが必ずしも美味しいとは限らない。大切なのは、ベースとなるビールの造りが綺麗であること、完成したビールが美味しいビール(=調和のとれた、ドリンカビリティの高いビール)であることだと思う。

フルーツビールに限らず、ビールを造る際「あれも入れよう、これも入れよう。この量をもっと増やそう」となりがちだ。それは"ブルワーの強すぎる個性"に他ならない。何でもかんでも盛り込んだビールは、得てして味がぼやけてしまう。だからきっとブルワーも、"一振りの七味"で十分なのだと思う。まずはベースとなるシンプルなビール(素うどん)を120%のクオリティで造ることに注力し、一振りだけブルワーの個性(七味)を効かせて、全体を調和させる。加えて飲み手とのコミュニケーションも、「OOを使ったビール!どや!」ではなく、「表現したい味はこんな味。あとはご想像にお任せします。」ぐらいのスタンスの方がきっとお互い気持ちいい。

"基本を大切に。余計なことはしない。バランスを大切に。"

改めて、ビール造りで大切にしたい部分を再認識できる良い機会となった。そして「美味しいうどんを食べるとき、七味は一振りにしよう」。そう心に強く誓った。あぁ、うどん食べたい。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?