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【夢日記×生成AIイベント】伝視頭脳-3 開催レポート07.28.24

「伝視頭脳」の第三回を、吉祥寺のシーシャカフェで開催しました。
参加者は主催含め3名。

写真のボトルが入った箱は、今回新たに用意した小道具です。これまで、夢の共有はハコスコアプリ、またはハコスコストア経由で各自ダウンロードして頂くという形を取っていたのですが、今回は「イベントが終われば消えてしまうような一過性のものではなく、形あるものとして夢を残したい」という思いから、小さな紙に印刷されたQRコードを読み取って夢(を再現した映像)にアクセスして頂くという形態にしました。紙はボトルメールのイメージで、丸めてミニボトルに詰めています。イベント後は、参加者に各自の見た夢が入ったボトルをプレゼントしました。

夢の記憶と感情

今回鑑賞した夢では、参加者が5~6歳のころに見た夢があったことに特に驚かされました。
5歳前後に見た夢を、大人になっても鮮明に思い出せる人は決して多くないのではないでしょうか(主催自身、意識的に夢日記をつけ始めた大学生のころより前に見た夢は、ほとんど思い出せません)。

その夢は、「自宅に何者かが侵入し、怯える両親を脅して無理やりケーキを切らせている」というものでした。参加者に詳しく聞いたところ、自分自身は両親の方を向いて立っていて、侵入者は背後にいるためどんな姿をしているかも分からず、強い恐怖の感情を覚えたために今でも印象に残っている夢とのことでした。

強盗の気に召すように切らなければ、何をされるか分からない……

夢が記憶に残りにくいのは、睡眠中は感覚情報の処理を行う新皮質と、情報のパターンを記録して記憶を構成する海馬の連絡が大きく鈍るためとされていますが、強い感情を伴う夢はその連絡低下の影響を受けにくいと考えられています。

夢の健忘症がなぜ部分的にしか機能しないかははっきりしないが、このような中途半端なパターンは、海馬と新皮質とのあいだのコミュニケーションが睡眠中も完全には断たれていないことを示唆している――ただ反応が遅くなるか働きが悪くなり(インターネット接続が遅くてイライラするときのことを考えてほしい)、新皮質で発生する強い刺激の一部だけが最終的に海馬に届き、記憶されるのではないだろうか。この種の接続性の低下があるとすれば、感情に訴える夢を覚えていることが多い理由も説明できる。感情的な刺激は強いから、接続が悪いときでも伝わりやすい。

ペネロペ・ルイス著, 西田美緒子訳『眠っているとき、脳では凄いことが起きている: 眠りと夢と記憶の秘密』, インターシフト, 2015, p.105

東洋大学社会学部社会心理学科教授の松田英子が行った調査によると、夢を記憶しやすい人(「高想起者」と呼ばれる)は、夢を記憶しにくい人(「低想起者」と呼ばれる)と比べて性格的に心配性で不安傾向が高く、夢の不安度も高いのだそうです。
夢の記憶定着のカギが「感情の強さ」にあるのだとすれば、夢の内容自体はそれほど重要ではないと考えられます。
奇妙な視覚的イメージを含む夢ほど印象に残るように思えるのも、「奇妙なイメージを含んでいるから印象に残る」というよりは、「奇妙なイメージによって感情が掻き立てられるから印象に残る」ということです。
「夢らしさ」は「(主に視覚的な)奇妙さ」とほぼ同義に捉えられることもありますが、「感情を喚起するもの」と捉えた方が、より正確なのかもしれません。

「夢らしさ」を感じる映像作品

今回は鑑賞した夢の話を出発点として、「夢らしい」と感じる映像作品に関するトークも盛り上がりました。
参加者からは、以下の作品が挙げられました。

☞『ロスト・ハイウェイ』(デイヴィッド・リンチ監督、長編映画、1997年)

☞『マルホランド・ドライブ』(デイヴィッド・リンチ監督、長編映画、2001年)

☞「Arcade Fire - The Suburbs」(スパイク・ジョーンズ監督、ミュージック・ビデオ、2010年)

いずれも主催が好きな映画監督の作品です。
『イレイザーヘッド』、『ブルーベルベット』、『マルコヴィッチの穴』なども個人的に「夢らしさ」を感じます。
また、主催が最近鑑賞したものでは、アリ・アスター監督の『ボーはおそれている』も「夢らしい」映画を求めている方に強くおすすめしたい作品です。

夢を記録するアプリ

会の途中、参加者から「夢を記録するためのアプリはあるのか?」という疑問が出ました。
主催はふだんiPhoneの標準「メモ」アプリに記録することが多いのですが、夢日記専用のアプリについてはあまり考えたことがありませんでした。
外国語のものはあっても、日本語対応しているものはないかもしれない……と思っていたのですが、調べてみたところいくつか確認できました。
代表的なものには以下の二つがあるようです。
(※iPhone版を確認しています。アプリの機能・制限などはすべて2024年8月現在のものです。)

①「DreamKit」

課金要素はなく、完全無料のアプリ。
日記には入眠・起床時間の情報に加え、夢に出てきた人物や場所などの情報も登録可能で、さらに夢のムード、感情、明瞭度などのカテゴリーを割り振ることもできます。

主催の見た夢から内容、長さが手ごろなものを選んで日記を書いてみました。

画像生成AIも組み込まれており、夢の場面を再現した画像を日記に張り付けることも可能です(ただし日本語に対応していないため、プロンプトは英語で入力しないと意図とは全く異なる画像が出力されてしまいます。)

AIによる夢解釈機能もあるので、試してみました(ユング、フロイトの2パターンあり)。こちらは日本語の入力にも対応しています。

「ユング」パターンのAI夢解釈
「フロイト」パターンのAI夢解釈

日記の文章の意味を取り違えたりせず、正確に読み取れていて文章解析力がすごいと感じる反面、夢解釈の内容自体は「この夢は不安を表しているので、冷静に問題に向き合いましょう」といった非常に当たり障りのないものになりがちで、「ユング」パターン/「フロイト」パターンもあまり違いが感じられませんでした。
心理カウンセラーなどに相談するケースとは異なり、AIは夢を見た人のことを直接知りませんので、このように誰にでも当てはまりそうな回答しかできないのは当然かもしれません。
(※Redditのアプリ開発者の書き込みによれば、ChatGPT Plusを使用しているようです。)

https://www.reddit.com/r/Jung/comments/10sx2nb/i_created_chatgpt_dream_interpretation_app_using/


個人的に興味を引かれたのは、「リアリティチェックリマインダー」機能です。
「リアリティチェック」というのは、「自分は本当に起きているのか? 夢を見ているのではないのか?」と自問して起きていることを確認することで、これを習慣にすると夢の中で自分が夢を見ていることに気が付けるようになる(つまり、明晰夢を見れるようになる)とされています。

継続して行うのが重要とされているため、(主催は実践していませんが)このような専用のリマインダー機能が実装されているのはいかにも夢日記アプリらしくて面白いと感じました。

②「ドリームズ」

「DreamKit」同様、入眠・起床時間などの情報と合わせて夢を記録するアプリ。
日記に画像を張り付ける機能、リアリティチェックリマインダー機能もありますが、こちらは有料版限定となっています。
夢に出てきた場所や人物などを「サイン」として入力することで、同じ「サイン」を持つ夢同士をまとめて表示することができるので、大量の夢を一括管理する場合は特に便利かもしれません。
また、他のヘルスケアアプリと睡眠時間のデータを連動することもできるようです。
個人的には、比較的珍しい「偽の覚醒」や「金縛り」を夢のカテゴリーとして設定できる点が面白いと感じました。

睡眠と癒し

「伝視頭脳」はセラピーを目的としたイベントではありませんが、トークが夢や睡眠の持つ癒しの効果に及ぶこともあります。
今回は参加者に「横になって行う瞑想」という一風変わった瞑想体験をした方がおりました。インストラクターによれば、「瞑想しながらそのまま寝てしまってもいい」ということです。
調べたところ、「ヨガニードラ瞑想」というタイプの瞑想法がこの特徴に合致するようです。

瞑想というと座った姿勢を維持するのが難しそうなイメージがあったのですが、これなら気持ちよく続けられるかもしれません。

他には、作曲家マックス・リヒターのアルバム「SLEEP」の名前も挙がりました。8時間に及ぶ大作で、眠りながら聴くことを想定して作られた、変わったコンセプトのアルバムです。
2018年にはロサンゼルスで睡眠中の聴衆の前で演奏する野外コンサートが開かれ、その様子はドキュメンタリー映画『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』に収められています。
映画では、生楽器では出せない100ヘルツ以下の低周波音を出すためにシンセサイザーを取り入れているとリヒターが語っているのが印象的でした。睡眠中の脳波と音を調和させる狙いがあるのだといいます。

寝る時間になったので、私は服を脱いで全裸になり、自分に割り当てられた寝室の自動ドアをくぐる。


また、「早めに寝ても6時間程度で目が覚めてしまい、充分に眠れた気がしない」と、睡眠時間に関する悩みの声も聞かれました。
主催も8時間以上ぐっすり眠れることは非常にまれで、基本的には入眠後6時間程度で目が覚めます。
4組の配偶者を対象にしたカルフォルニア大学で行われた睡眠時間を短縮して生活する実験では、元々の睡眠時間が6.5時間程度の夫婦1組と8時間程度の夫婦3組でそれぞれ5時間前後まで(日中の作業能力に影響を及ぼすことなく)減らすことに成功したそうなのですが、実験終了後の睡眠時間はどちらの組も6.1~6.5時間に落ち着き、8時間睡眠の組が再び8時間の睡眠スケジュールに戻ることはなかったといいます。
日本睡眠教育機構理事長の宮崎総一郎は、この実験結果について、次のように述べています。

この結果から、健康成人の場合、睡眠時間約6.5時間という値に意味がありそうにみえます。努力次第で睡眠量を減らすことはでき、少なくとも8時間睡眠にこだわる必要はありません。

宮崎総一郎・北浜邦夫編著『睡眠学I: 「眠り」の科学入門』, 北大路書房, 2018 , p.32

疲れが取れず、「充分に眠れた気がしない」のは確かに問題ですが、6時間程度という睡眠時間は必ずしも「短すぎる」とは言えないので、入眠時間や睡眠環境など、原因は別のところにある場合も考えられます。

おわりに

今回は夢に似た映像作品から夢を記録するためのスマホアプリ、そして瞑想体験など、共有された夢を出発点として、いつになくトークの幅が広がった会になったように思います。
主催としましても、大変勉強になった会でした。
(今回のイベントで実際に鑑賞した、夢を再現した映像の制作過程についても記載するつもりだったのですが、長くなりそうなので、別の記事に分けたいと思います。)

最後に、参加者が生け捕りにした夢をまとめます。
(※今回鑑賞した夢のなかでたまたま本が出てくる夢があったので、「夢の中に出てきた架空の本」というテーマでトークをしようと考えたのですが、タイトルや内容などの詳細がわかるほど明瞭な形で出てくるケースはほとんどないようでした。代わりに、直近で印象に残った夢について聞きました。)
☞雑誌「文芸新潮」の安部公房特集号を買う夢。『笑う月』の未発表原稿が掲載されていて、付録はダンボール製の組み立て式「箱男」ミニフィギュア。
☞若い女性たちがシェアハウスで送る何気ない日常を映した群像劇を見る夢。
☞公園で知らない大人たちの集団と遊ぶ夢(トム・ブラウン布川に似た男がいた)。

長い船旅。退屈を紛らわそうと、私は船の図書室に籠ることにした。

参考文献

☞ペネロペ・ルイス, 西田美緒子訳『眠っているとき、脳では凄いことが起きている: 眠りと夢と記憶の秘密』(インターシフト, 2015)
☞松田英子『1万人の夢を分析した研究者が教える今すぐ眠りたくなる夢の話』 (ワニブックスPLUS新書, 2023)
☞宮崎総一郎・北浜邦夫編著『睡眠学I: 「眠り」の科学入門』(北大路書房, 2018)

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