旬杯 短歌審査員賞(白果賞)
はじめて審査員をつとめます。
よろしくお願いします。
短歌は、たった31音(プラスマイナス数音)の短い詩形ですが、無限の広がりを持つ、自由さがあります。
31音の外に、余韻、広がりのある歌。
歌を読んだ後、立ち止まって考えさせられる歌。
ささやかなことを掬い取った歌。
詩情の感じられる歌。
そういう歌が好きです。
俳句と違い季語のない短歌ですが、季節ごとに開催されている大会ですので、できれば季節感のあるものをと思いました。
それでも、季節にとらわれない短歌で、いいなと感じたものも選ばせていただきました。
短歌一覧を作っていただいたので、一覧を見て選びました。
それぞれ皆さんの記事も拝読しましたが、記事の内容は短歌の選考に無関係です。
1~6位までの発表のあとに、候補作6作品(7位以下)を掲載しています。
心を込めて(*´˘`*)♡
発表します。
1位
夏の夜をよく悲しんで朝が来てまだ「おはよう」の心あること
(つるさん)
希望の歌だと思います。
夜には悲しむ心があって、明日を素直に迎えられるか分からない。それでも、夏の早い朝が来て、眩しいほどの光が差し込んできて。そこに、「おはよう」と思える心がある。
そうしてまた、今日という初めて迎える一日が始まってゆく。
今日がどんな日になるか分からないし、どういう日にしたいのか、それももしかしたら自分で分からないかもしれない。それでも、まずひとこと、「おはよう」と朝を受け入れる。
どんな日があり、日々の先にはどんな未来があるでしょう。
よき日であってほしい。不安でも、「おはよう」と言える心があることが希望だと感じた歌でした。
そしてまた、夜によく悲しんだ(悲しむことができた)ことも、朝を迎えるために必要だと思える歌でした。悲しみは決して悪いことばかりではないのです。
大切に心に留めておきたい歌です。
2位
0歳が点滴をする病室で遠くに打ち上げ花火を聞く
(みーくっくさん)
夏の夜、幼い我が子が点滴をしている病室で、遠くの花火の音だけが聞こえてくる情景の歌です。
まだ0歳の小さな命が、点滴をしている。親は心配でたまらないでしょう。
じっと我が子を見つめる、心細い横顔が見えるようです。
窓から花火は見えない。でも、音だけは聞こえてくる。
きっとあの花火が見える場所に集っている人々は、楽しく賑やかな夏の夜を過ごしている。
静かで切ない病室と、賑やかで楽しいだろう花火会場。
音だけは届く距離にある楽しい夜は、病室にいる自分と我が子には見ることはできない。近くにあるのに、別世界にいる。
もしかしたら親である作者は、この子に花火を見せたかったかもしれないし、昔、楽しく過ごした花火の夜を思い出しているかもしれません。
切ない夜を切り取った歌で、とても印象的でした。
3位
あの夏を忘れられずにつきつきとサイダーの泡の消えるのを追う
(佐竹紫円さん)
「つきつきと」というオノマトペが印象的な歌です。
この「つきつきと」は、サイダーの泡の消える様子を表していると思うのですが、それだけでなく、「あの夏をわすれられずに」という物憂い気持ちも表しているオノマトペに思えます。
たとえば「しゅわしゅわと」とすると、泡を眺めている作者の心情にまでは迫れないと感じますが、「つきつきと」としたことで、徐々に消えてゆく泡を、物憂くぼんやりと眺めているさまがよく見えてくるように感じます。
泡が消えていっても、忘れられない「あの夏」とは、どのようなものなのでしょう。
「あの夏」とは、作者の思う夏だけでなく、読み手それぞれに思い浮かぶ「あの夏」があり、読み手が自らの「あの夏」に思いをはせることのできる歌だと思います。
4位
いつまでも悲しいままでいいのだと枯れることない造られた花
(リコットさん)
この歌の「造られた花」。季節柄、お盆もありますし、仏壇に供える仏花かなと思いました。
仏花ではなく、お部屋を飾るお花かもしれませんが。何にせよ、悲しみに手向けられた花、その花を見ると悲しみを思い出す花、と受けとめました。
悲しみというのは、いつか乗り越えることが期待されがちですが、「いつまでも悲しいままでいいのだ」と思える悲しみだってありますね。その悲しみが自分を支えることもあります。
造花は枯れることがないので、悲しみのために手向けられた花は、長い間そこに咲き続けます。その花を見るたびに、悲しみを忘れない。それは、大切なものを忘れたくないという心と同じだと思いました。
悲しみに向き合って、ちゃんと悲しむことも大切だなと感じた歌でした。
5位
はじめからやり直したい日のありて煉瓦のごとくレゴブロック積む
(うみのちえさん)
はじめからやり直したい日。
そういう日がある人、少なくないのではないでしょうか。
時間を遡ってやり直せるはずもないけれど、もしも叶うならと。
レゴブロックは、おもちゃなので積んでは崩し、簡単にやり直せますね。でも、人生はなかなかそうはいかない。
なかにはやり直せることもあるから、そのときは勇気をふり絞って、一歩を踏み出したい。
そして、どうにもできない、やり直せない過去はどうすればいいでしょう。
「レゴブロック積む」とあるのは、心の動きの比喩表現と思いました。積んで、崩して、積み直して。それは、過去の意味のとらえ直しのありようなのかもしれないと。
よく、過去は変えられない、変えられるのは未来だけと言います。
でも、過去もとらえ直せば、過去にあった事実の自分にとっての「意味」は、変わるのではないかと思いました。
事実は不変でも、意味は可変であり、ひとつの過去を生きた自分もまた、可変なのではないかと。
ふと立ち止まって、自分のこれまでとこれから、そして今について考えさせられる歌でした。
6位
プリキュアになりたい気持ちさえ知らず大人になっちゃってなんだかな
(とのむらのりこさん)
プリキュアはアニメのキャラクターですね。子どもの頃って、何かキャラクターに憧れて、自分もなりたいなと思うことありますね。
そういう無邪気な憧れを抱かず、大人になってしまったことに「なんだかな」と言っているのが、ああ、惜しいことをしたというつぶやきに感じました。
別に強い後悔じゃなくて、「まあいいんだけど、ちょっと惜しいことをした。そういうキャラになりたいって、どんな気持ちなんだろう。楽しそうだなあ」と、小さな時にしか味わえないわくわくを逃した、ちょっとした残念感がさらっと詠われていて、とても好きな作品です。
大きな事じゃなくて、日常のささやかな感情を、軽やかに掬い上げている。こういう歌を、私も詠んでいけたらいいなと思いました。
以上の6首に白果賞を贈らせていただきます。
受賞おめでとうございます!
🌻✨🌻✨🌻✨🌻✨🌻✨🌻
つづいて、審査員賞の候補作6作品(7位以下)です。
こちらは、順位はありません。短歌一覧の掲載順に発表します。
海抜がゼロメートルの看板にわたしの海が呼応する夏
(葵花さん)
海抜ゼロメートルの看板。海と同じ高さですが、そこに海が見えるとは限りません。海が直接そこにあるわけではないのに、潮の香りが感じられる歌です。
生命は海から生まれたといいますから、この歌のように誰しもに「わたしの海」があるのかもしれません。
海へと呼ばれ、夏が始まってゆくイメージが素敵な作品だと思いました。
電極のプラスマイナス偏って整えばほら緩く流れる
(のんちゃさん)
この歌を読んだとき、詠まれていることは、直接には電気の仕組み(直列つなぎ、並列つなぎなど。遠い昔に習った記憶)ですが、滞っていた物事がうまく流れてゆく様子を詠っているのだと思いました。
「ほら緩く流れる」というやわらかな言葉が、微笑とともに紡がれている印象で素敵です。
わたしだけばかみたいだと思った日甘く冷たくかき氷沁む
(リコシェさん)
ひとりで頑張ってあれこれ右往左往して、でも報われない。
そういう日ってありますよね。
「甘く冷たく」かき氷が「沁む」と詠われているところが、かき氷の甘さ冷たさが、とりわけそんな日に感じられるという実感があって、少しでも、かき氷に傷ついた心が癒されるといいなと思いました。
少しでも乗り心地が良くなるように背中の反った胡瓜を選ぶ
(ぽこまる(外村ぽこ)さん)
お盆の精霊馬を作る場面を詠んだ歌ですね。
まっすぐな胡瓜だと乗り心地が悪いから、反った胡瓜を選ぶ。故人への優しい気持ちがうかがえ、もしかしたら家族で、この胡瓜がいいよ、こっちだよと賑やかに準備をしているのかもと想像しました。
帰りの牛になる茄子は、ふっくらした茄子が乗り心地がいいかな。
野苺を頬張る顔を見たくって茨のなかを今日も摘むんだ
(すーこさん)
野苺を喜んで食べてくれるのが嬉しくて、茨のなかを摘む。詠われているそのままの情景も可愛らしいですが、誰かに喜んでもらえるのが嬉しくて頑張ることを、抽象的に詠っているようにも感じます。
自分のためにだと頑張れないけれど、喜んでくれる人のためなら頑張れるということ、ありますよね。でも、無理しすぎないで。一緒に食べると、きっと美味しいよと思いました。
炎天をみつめていたらいつか黄昏ざりざりとなくしたものの輪郭なぞる
(ゼロの紙さん)
定型ではなく、577577で詠われています。
そのためかどこか不安感があり、「ざりざりと」というオノマトペが効いていると感じました。
なくしたものの輪郭を「ざりざりと」なぞるという、悲痛なひりひりした感情が、熱気をはらんだまま暮れていくひかりに溶けていきそうで、とても詩情のある素敵な歌だと思いました。
白果賞6首と、候補作6首(7位以下)の発表は以上です。
どの作品も、心に沁みる素敵な作品でした。順位をつける決まりなので、つけましたが、どの作品も大好きです。
感じたことを書きましたが、講評が的外れでしたらごめんなさい。
素敵な作品を味わうことができ、楽しかったです。ありがとうございました!
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運営の皆様、お忙しい中ありがとうございます。
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素晴らしい短歌、審査員の方々の心の込もった講評、ありがとうございます。