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『ロシア語だけの青春』(現代書館)に刺激され”ひとりミール・ロシア語研究所”を運営してみることにした(笑)! 62歳からのロシア語その⑤


とんでもないタイトルの本を見つけた

 人生で初めてロシア語の練習を始めてまもないころ、図書館で仕事をしていたら、とんでもなく、そして少し笑えるタイトルの本を見つけた。

 本の表紙から、パッとタイトルが浮かび上がった、ような感覚だ。

『ロシア語だけの青春~ミールに通った日々』(黒田龍之介著、現代書館)

 あまりにすごすぎるタイトルだ。黒田龍之介さんといえば、有名な言語学者である。

 タイトルにひかれてページをめくってみると、もう仕事そっちのけで読み始めてしまった。すぐに借りる手続きをした。

 黒田さんは大家だから、かなりの年配の人かと勝手に想像していたが、実は私より若かった。 

 この本は、ロシア語学習法的な側面はあるけれど、読みものとして抜群に面白い。タイトル内にある「ロシア語」を何にでも置き換えられる。なんだか、明るく爽やかになれる本だ。

 少しおかしくてユーモアのある文体が、どんどんページをめくらせる。それにしても文章が上手い。

ミール・ロシア語研究所という恐ろしい教室

 中心になるのは、黒田さんが高校生のときに初めて入った『ミール・ロシア語研究所』に関わるエピソードである。

 このロシア語教室については聞いたことがあり、今は廃校になってしまったが伝説のロシア語学校と言っていいだろう。

 東一夫、東多喜子の夫妻が運営していたロシア語学校である。この学校に通ったことのある人に話を聞いたことがある。

「とにかく、大きな声で、ゆっくりと、できるだけ正確に、なおかつウダレーニエ(力点)を極端に強く、暗唱させられる。

 それもテキストを見ないで大きな声で暗唱しなければならないんです。当てられて暗唱してもうまく言葉にできず、何度でもダメだしを出されるんですよ」

  ロシア語では強く発音する単語内の箇所を ударение(ウダレーニエ・強調、力点)とよぶが、ここを極端に大きく長く発音することが要求される。

 その人は、授業に出るときはすごく緊張していた。家で何十回も発音暗唱練習してきたけど、当てられて上手くできなかったらどうしよう、と。

 語学教室というと、楽しんでやるものと思い込んでいた私には、ほんとうに恐ろしい会話学校だと思った。

暗唱してもダメ出しの連続 劇団の訓練か?

 「ロシア語だけの青春」だが、著者の黒田さんも、私が聞いた知人の話とまったく同じことを書いていた。

 予習してきたページの会話集『改訂版 標準ロシア語会話』(白水社、東一夫・東多喜子共著)を大きな声で暗唱する。

大昔に購入し埃まみれになっていた伝説の「標準ロシア語会話」。これからやります。

 しかし、すぐにOKとはならず、多喜子先生が「ещё раз!(イェショー、ラス=もう一度)」と言う。何度やっても「よろしい」と認められない。

「もっとウダレーニエを強く、まだ弱いですね」
など指摘される。詳しくは書いてないが、当然のことながらイントネーションや個別の発音、言葉と言葉のリンクなども指摘されていたはずだ。

 この力点(ウダレーニエ)をことさら強調し、大きな声で、できるだけ明瞭に発音練習をすると、不自然に聞こえる。

 ロシア語練習を開始してまだ半年しか経っていない私だが、音読と朗読を続けてきて、最近はなんとなく手ごたえのようなものを感じるようになった。

 結局、大きな声で、ゆっくりと正確に暗唱する。これこそ上達の最短距離ではないかと思う。

 音読でなく暗唱である。ほんとうに難しい。

 この本を読んだり、ミール・ロシア語研究所に少し通った人の話を聞くと、なんだか外国語の練習というよりは、劇団員が稽古場で必死に発声練習やセリフの訓練をする光景が目に浮かぶようだ。

 そうだ、俺は俳優のつもりでロシア語トレーニングすればいいのだ(笑)。そう考えれば、楽しい気分になってくる。

 ところで、この伝説の会話集「改訂版 標準ロシア語会話」(白水社)だが、実は大昔に私は購入していた。言うまでもないことだが、そのままにして一切この会話集を利用して学習してこなかった。

 近いいうちにこの会話集の暗唱練習をはじめようと思う。カネもないから先生について勉強したり会話学校に通うこともできない。できるのは独習だ。

 そこで私は思った。「ひとりミール・ロシア語研究所」を立ち上げればいいんだ。チェックしてくれる先生もいないから、ひとりで先生と生徒を兼ねるしかないのだ。

 間違いを正してくれる人がいないのは言語習得のうえでマイナスではあるが、いまの環境と条件で可能な方法をさぐり、実行するしかないと思う。(つづく)


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