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恐ろしくも面白い外国語の発音訓練 62歳からのロシア語➉


「ロシア語発音の基礎」(城田 俊著、研究者)

 ずいぶん昔、1995年~1996年にロシア連邦に長期滞在していたとき、見よう見まねでロシア語をボソボソと話したり、聞いたりしていた。系統立てた文法学習も発音の基礎も習っていなかった。

 さすがに、現地に長期滞在していると、相手が言っていることはだんだんと分かるようになるが、基礎がないから一定レベルに達したあとその上にはいけない。

 

懐かしいモスクワ中心にある国営百貨店グム

だからこそ今年2023年4月2日から、基礎からロシア語をやり直すことにしたのだ。発音も同じである。

 学習開始時の鉄則が「カネをかけない」ことだったので、教材は、大昔に買ったままホコリをかぶっていた「ロシア語発音の基礎」(城田俊著、研究社)を引っ張りだした。

「日本語の・・・のように発音してはなりません」の連続

この教科書を読み、付属のカセットテープをMP3にデジタル化したものを聴き、発音していく。

 この教科書にしばしば現れる気に入ったフレーズが「日本語の・・・のように発音してはいけません」である。分かりやすい。

 日本語話者の欠陥を補ってくれるから、ありがたい。

 おそらく、ネイティブの先生なら、なぜ日本語話者がこの簡単な発音ができないのか分からない場合もあるし、分かってもどのような工夫、作業を実践すれば発音矯正できるか明示できない例が多いだろう。

 発音にかぎらず、第二言語を習得するには、おそらく上級者の日本語話者、日本語が抜群にうまい学習言語話者のどちらかかを参考にしたほうがいいと私は思う。

「ロシア語発音の基礎」城田俊著 12~13ページ すぐ発音できなくても理屈で知るのも大切

エフФ 、 ヴェーВ、    ベーБの大混乱

 さっそく中身だが、英語ならBとVの違いに似ているロシア語の ヴェーВ、    ベーБが、やっかいだ。

 ≪『[V]と[b]の区別があいまいになる恐れがあります。両者は唇のところで調音される有声の硬子音であるとしても「v」は摩擦音、「b」は閉鎖音であり、決定的に違う音です≫(13ページ)

 この「決定的に違う音です」というフレーズがしびれますね。子供や若者なら、英語環境なりロシア語環境に入って生活すれば問題は解決できる。

 しかし、中高年以降、わたしのように初老の人間ともなれば、そんなことはまったく通用しない。理屈や理論で知り、実際の会話をそれに近づけるのほうがはるかに効果が高いと最近実感している。

 vは摩擦音、bは破裂音、というこの表現が頭に残っているだけで、発音するときに意識するようになる。あらゆる機会に何千回と「摩擦音と破裂音」を意識して発音していこうと思う。

 この「ヴェーВ 、 ベーБ」以上に難しいのが。「エフФ」の発音である。

 日本人は注意していないと、「f」を富士山の「フ」と同じにしてしまう。それに対しこの教科書では、≪「Ф 」(注:エフ)は上の唇と下の唇とが接近する両唇摩擦音です≫(12ページ)と解説してくれる。

 エフは「両唇摩擦音」なんだ。と、理屈でおぼえ、つねに意識して発音を繰り返すしかないんですね。特に私は、このエフをきちんと発音できない。

 だからкофе(コーフェ=コーヒー)
 февраль (フェヴラーリ=2月)
 портфель(パルトフェーリ=書類カバン・ブリーフケース)
 фильм(フィールム=映画)

 と、単語帳やYouTube動画でエフ、フが出てくると、もごもごと口にして発音練習。でも、うっかりすると日本語の富士山のフになってしまう。

永遠の課題Л(L)とР(R)

 そして、これまた日本語話者にとってやっかいなのは、英語のLとRの違い以上に難しいЛエルとРエル、なんである。何千回あるいは1万回、2万回と繰り返すしかないんだろうなあ。

 このほかに、発音の教科書を学習していくと、「日本語の・・・のように発音してはなりません」というくだりが次々に出てくるのが面白い。

 いかに私が発音できないか実感するとともに、このまま進めていくと奥が深く面白いなあ、とも思うのである。

 ところで、ロシア語学習を開始する際に、英語ユーチューバーの番組を視聴したり、英語系note執筆者の方々の記事もみてみたのだが、発音と文法は初期のうちに集中して仕上げてしまう、という人が共通して多い。

 でも、私にはそれは不可能です。

単語帳を何十回よりも文法書を何十回ではないのか 

 ロシア語訓練を開始して8か月現在で思うのだが、文法と発音を短期間に集中して身に着けてしまうのは私には無理。

 少なくとも私には、文法と発音は超長期間やっていかないと身につかない。

 かなり多くの英語上達者は、「全部覚えようとしないで、パッパッパとやって単語帳を何周も、何十周もやれ」と言う人が多い。

 それは、単語帳でなく「文法教科書」のことではないのか。私は文法教科書を最初から最後まで5回やりきったって、文法が身に付かない自信がある。

 いまだに格変化なんかよく間違えるのだから。

 だから、単語帳を何周もやるより、文法書を何周もやるだろう。これが学習開始8か月現在の経験から言えることだ。

 最初の1冊(私の場合は「初歩のロシア語」佐藤純一著、龍竜堂出版)は、最初から最後まで2回やった。

 前にも書いたかもしれないけれど、何度も繰り返すのは大切だが、飽きて疲れてしまうのもマイナスだと思う。

 新鮮な空気を自分自身に送るため、2冊目の教科書として「大学のロシア語Ⅰ」(共著、東京外国語大学出版会)を手に入れた。学習開始6か月時点のことである。

 2冊目を学習し始めたことで、少し目の前が明るくなってきた。(つづく)

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Hayashi Masaaki 林克明ジャーナリスト
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