骨髄移植のドナー候補になった
「ピコン!」
きっかけは急にやってきたSMSメッセージ。
結果を先に申し上げると、私が骨髄を提供することはありませんでした。
とはいえ、ドナーになるまでの流れの一部を体験することができましたので、備忘録的にまとめたいと思います。
詐欺かと思ったメール
上記のメッセージを急に受け取ったとき、何をするか?
そう、電話番号の検索です。
そもそも骨髄移植のドナーになるためには、自分の血液情報を骨髄バンクに登録する必要があります。献血ルームや保健所で登録できます。
私の場合趣味の一つに献血があり、120回を超える自称ベテランでありますが、骨髄バンクに登録したのは意外にも最近だったりします。
なので、登録した記憶ははっきりありました。
しかしこれだけ詐欺メールが騒がれている昨今、疑わないわけにはいきません。調べると骨髄バンクの公式ホームページがヒットし「ドナー候補者にはこの番号からメッセージを送信します」と番号一覧が掲載されていました。
リンクを開くと『適合通知を受け取られた方へ』というページへ移動します。
「1人の患者さんに対して、HLAが一致するドナー登録者は数百~数万人に1人です。ドナー候補者が複数みつかる場合もありますが、多くはないことも理解いただければ幸いです」
このような一文があり、緊張感が高まります。
長いアンケート
最初は骨髄移植についての説明がざっくり書かれており、そのまま進むとWEBアンケートがあります。
提供の意思確認、家族の同意の有無、既往歴など結構なボリュームがあります。3日以内に回答がほしいとのこと。けがや病気による手術歴が複数ある私は、すべて書くのに30分くらいかかりました。
アンケートの終盤には『確認検査病院の希望選択』があります。
骨髄提供の前に事前検査とコーディネーターの面談があり、それらをどこの病院で行うかの希望を聞いてもらえます。都道府県ごとにできる病院が決まっているので、その中からなるべく複数選んでほしいとのこと。
私は自宅から一番近い病院と、最寄りの沿線にある病院を4つ選びました。
アンケートを終えた2日後、突如電話がかかってきます。
コーディネーターとやりとりがはじまる
「はじめまして。私は骨髄バンクのコーディネーターをしております、タナカタロウ(仮名)と申します」
「今回はじめさんのコーディネートを担当させていただきます。よろしくお願いいたします」
最初は登録のきっかけなどの雑談からはじまり、家族の同意の話へ。
「家族の反対でドナーの話がなくなることはよくあります」
「最終的には家族にも同意書の署名をいただきますのでよく話し合ってくださいね」
ここは結構重要な話らしく、かなり念を押されました。
「アンケートによると手術歴や花粉症があるようですが、今回特に問題なさそうなので、このまま確認検査のお話をさせていただきます」
検査や面談はすべて平日昼間に行われるので、平日昼間に時間が取れるかどうかを念入りにチェックされます。
私の仕事はシフト制で平日休みなので問題ありませんが、多くの人のネックになるのはこの部分らしく、都合がつかない人も多いそうだ。
その後いくつか候補日を決めていくのですが、病院によって検査できる曜日や時間が決まっているので、それらをすり合わせながら決めていきます。自宅から一番近い病院が第一希望であることを伝えたのですが、
「最大限希望は考慮しますが、先生の都合もありますのでご希望に添えない可能性もあります。なおどこの病院になっても交通費は支給いたします」
とのこと。
「決定次第連絡します」と言われ、電話を切りました。
翌日、骨髄バンクから『至急開封してください』と書かれたオレンジ色の封筒が届き(中身は適合通知とアンケート。WEBで回答済なので返信不要)、さらに翌日には『コーディネートが開始されました』という黄色い封筒が届きました。怒涛の郵便ラッシュです。
郵便ラッシュから2日後、タナカさんからSMSメッセージが入ります。
「〇〇病院で✕月△日◇時で予約が取れました」
結局病院は、家から一番遠い都心の大学病院になりました。
まあその日は休みで1日ヒマだし、実質タダで都心へ行けるし、いっか。
その後確認検査の決定通知が郵便で届き、前日にはタナカさんから電話がありました。
「体調はいかがですか?明日はよろしくお願いします」
「明日は〇〇病院の正面入口で骨髄バンクの名札を下げて、骨髄バンクと書かれた大きな封筒を持って立っていますので、5分前くらいに来て声をかけていただければと思います」
その他持ち物や注意事項の説明があり、電話を切りました。
確認検査と面談
当日時間通りに病院に着くと、言われたままの格好の男性が立っていたので、すぐに声をかけます。
「はじめさんですか?はじめまして。タナカと申します。どうぞこちらへ」
タナカさんの後について病院の中へ。都心の大学病院なんて初めて入りましたが、とにかくでかい。人が多い。全員患者さんなのだろうか。はぐれたら戻ってこれない自信があります。
「今回は小児科の先生ですが、血液疾患が専門ですので疑問点があれば何でも聞いていただけますよ」
エレベーターを降り、小児科の外来受付までやってきた。
「すみません。骨髄バンクのコーディネーターの者です。〇〇先生と◇時にお約束をしているのですが」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
受付のお姉さんに空いている診察室へ通されます。
しばらく待っていると受付のお姉さんが入ってきて、
「申し訳ございません。〇〇先生ですが、急患が入ってしまったようで少し遅れてしまうようです。お待ちいただけますか?」
「いいです。私からの説明を先に行いますので、待ってますよ」
お姉さんが出ていったところで、
「それでは先に、私から1時間ほどいろいろ説明させていただきます」
ここから骨髄バンクとはなんぞやという話から始まり、骨髄の話、ドナーの条件、適合する確率などの説明を受けます。
「はじめさんの場合、登録から半年ほどで適合通知を受け取ったとのことですが、かなり珍しいですね。大体の人は登録から5年も10年も経っていて登録したこと自体を忘れている方が大半です」
続いて移植の種類の話です。骨髄移植に種類があるなんて初めて知りました。大きく2種類に分かれており、それぞれ移植の流れ、使う器具、副作用など事細かに説明してもらえます。もしどちらかやりたくない種類があれば、このタイミングで意思表示をする必要があります。私はどちらでもよかったので何も言いませんでしたが。
続いて確認検査後の流れの説明です。
検査後ドナーに決定するまでは約3ヶ月と説明を受けます。これはドナー候補者が複数いた場合、患者さんの主治医が検査結果を見比べて最適なドナーを判断するため、時間がかかるのだそう。しかしこれより早まる可能性も十分にあるという。
そもそも検査後にドナーに選ばれる確率は20%ほどなので、そのまま終了の可能性のほうが高いですし、『選定保留』といって第一候補ドナーの採取が無事に終わるまで保留される可能性もあります。
ドナーになると決定した場合最終同意面談があり、家族同席の上で署名する必要があります。既婚者だと配偶者、独身者だと両親が原則だそうです。
ドナー決定後の注意事項の説明もありました。スポーツや運動は2週間前から禁止になります。過度な筋肉負荷により血液検査で異常が出てしまうと患者さんの命に関わってしまうからだそうです。
最後に後遺症についての説明がありました。過去採取後に起こった健康障害について、1件ずつどのような要因で起こり、どのような対策を講じているか、丁寧に説明していただきました。ただしいずれの事例も追跡調査の結果、現在も通院を余儀なくされるなど、生活に大幅な支障が出ている人は1人もいないことが説明されました。
ここで雑談タイム
タナカさんからの説明が終わっても先生が来られないので、しばし雑談タイムに。
骨髄バンクのコーディネーターは女性が多く、男性は少数派であること。
定年退職後に知り合いに誘われてコーディネーターを始めたこと。それまではコーディネーターの存在すら知らなかったそうです。
関東圏のみならず、山梨や新潟も担当エリアなので、そこの仕事は行き来が大変なこと。
学生ドナーを担当した時、心電図やレントゲンなど初体験の検査が続いて緊張してしまい、心電図で再検査になってしまったこと。
いろいろ聞かせていただきました。
先生との面談と検査
先生がやってきてからは、タナカさんは席を外し2者面談になります。
事前に回答していたアンケートの内容に沿って、間違いがないかどうかの確認がメインになります。逐一「何か不安に思っていることはありませんか?」と聞いていただけるので、何でも質問できると思います。
私は採取後の献血について尋ねてみると、6ヶ月後から可能とのこと。
その後重大な既往歴や輸血歴などの再確認が終わると、いよいよ確認検査です。といっても血圧測定と採血だけです。
「血管を見させてくださいねー。男性はあまり心配いらないと思うけど…うん、大丈夫ですね」
移植の種類によっては、ある程度血管の太さが必要になるそうで、その確認を兼ねているようです。
「では、これで検査はすべて終了です」
検査と面談は2時間20分で終了。先生が予定通り来られていれば、もう少し早く終了したかと思いますが、急患ならしょうがないです。
タナカさんから交通費を受け取り、そのまま都心へ遊びに行きました。
1週間後、血液検査の結果が届きます。
骨髄バンク基準では異常なしとのこと。あとは患者さんの主治医が決めるので、今しばらくお待ちくださいということだった。
さらに3週間後、タナカさんからコーディネート終了の連絡が入った。
「患者さんの都合です。別の方がドナーに選定されたのか、そもそも移植自体を見送ることになったのか、詳しい理由はこちらではわかりません」
ちなみに1年以内に再度ドナーに選定されると、確認検査が免除になるそうです。
ここまで長かった
冒頭のSMSメッセージを受信してからコーディネート終了まで、1ヶ月と1週間ほどでした。意外に長かったです。命に関わることなのでもっとスピーディーに進むものかと思っていました。しかしドナーの安全も守らなければならないと考えると、こんなもんなのかとも感じます。
今回私が出る幕はありませんでしたが、今まで通り献血を続けつつ、次の出番を待ちたいと思います。