「奇っ茶店」
古い錫製の皿に乗せられたサンドウィッチはちょうどいい薄茶色に焦げ目をつけていた。
飲み物にミルクをお願いすると、フランス製の手吹きワイングラスにとろみのある濃いミルクが注がれ私の目の前に置かれる。
昨日からの降り続いた雨は薄陽が差しこみ、太陽が顔を出そうとしていた。
出されたサンドウィッチには、はみ出すほどのレタスと、白身が荒目に潰され、辛子マヨネーズがアクセントを効かせた卵ペーストがサンドされていた。見た目はただのたまごホットサンドなのに想像の何倍も美味しい。なにか異国で作られたような不思議な味もする。喉に張り付くほどの濃いミルクも今まで飲んできたものが偽物なのかと思うほど美味しかった。ワイングラスで飲んだせいもあるかもしれない。
私は今日、この街を離れる。最後にこんなに美味し朝食が食べれて良かった。本当に良かった。
錫製の皿にはパンのかすさえ残らず、ミルクの入ったワイングラスも空になって静かにそこに置かれていた。座っていた誰かもまたどこかに行ってしまった。
隣で誰かがまたサンドウィッチとミルクを注文していた。
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厨房では4匹と1羽、あと人1人が休みなく役目をこなしていた。
ビニルに入った新しい食パンを自慢の爪で1枚2枚取り出しトースターに入れてタイマーをセットするライオン。隣ではゆでた卵を嘴で突き、器用にめくる郭公。それをボールに入れ適当に潰し、そこにマヨネーズと辛子を交互に尻尾を使いながら混ぜ、最後によく分からない粉が入ったいくつもの透明の瓶を適当に1つ取り、軽く2.3振りして味を整える老いたウーリーモンキー。トースターのタイマーがちんと鳴なった。焼けたパンを自慢の脚力でピョンピョンと運ぶライオンドワーフ。同じようにピョンピョンとレタスをパンの上に乗せた。別室ではホルスタインがモーと鳴き、ホカホカのミルクができた事を教えていた。山のようにある食器から適当に手を伸ばし取り出したのはホーロー製マグカップ。採れたてのミルクを注ぐのは人間。サンドウィッチも適当に取った陶器の皿に盛り付けられた。
こうしてミルクと完成されたサンドウィッチは注文したお客の元に届けられた。
そして1人また1人と注文は止まない。
忙しさのピークも去り、午後から雨が降ってきた。雨嫌いなコック達は厨房の窓から空を見上げ、雨雲が去るのを待っている。