映画レビュー(195)「八犬伝」
山田風太郎の原作を映画化した作品。
実に見ごたえがあった。滝沢馬琴の「南総里見八犬伝」の物語と、それを葛飾北斎に語る馬琴の折々の実人生が交互に語られる。
こうあってほしいという勧善懲悪の理想を描く馬琴。一方、「東海道四谷怪談」で、理想の「忠臣蔵」と現実の愛憎を描く「四谷怪談」を交互に描く鶴屋南北。「虚」と「実」のせめぎ合いが、作家であることと父親であることの馬琴の迷いを暗喩する。この人間ドラマ部分の見事なことよ。
やがて「八犬伝」の物語を書き終える頃、馬琴には、虚構を通して真理を描く、自分のスタイルにもう迷いはなかった。
ラストで、死を目前にした馬琴を迎えに来たのは、彼が物語の中で作り出した八犬士たちだった。
天下の馬琴に共感などと言うと恐れ多いが、自分も現在長編シリーズを書いている真っ最中だ。56歳から書き始め、66歳になった今夏、第三部をリリースしたところ。最終の第四部を書き上げるのは2年後ぐらいか。私が臨終するときに迎えに来てくれるのは、シリーズのキャラクターたちだろうか?
そう思うと、まったく無名のインディペンデント作家でも、長編小説を書いてきてよかったと思うのだ。
今年の前半に、マンガ創作者の心に刺さった「ルック・バック」という作品のレビューを書いたのだが、この「八犬伝」は小説創作者の「ルック・バック」だったのだ。
「八犬伝」