小説指南抄(19)読者目線、キャラクター目線を忘れない
(2016年 10月 05日 「読書記録゛(どくしょきろぐ)」掲載)
読者目線、キャラクター目線を忘れない
作家は物語の必要に応じて情景を描写していく。アニメーターが背景を描くようなものだが、そこにも巧い下手はある。よくやってしまうのが作家都合で描写してしまうということ。
例文を作ってみた。
1、
いくらノックをしても返事がない。まだ寝ているのだろうか。そう思って寝室のドアを開けた。
部屋の中は、いつものように、至る所に本が積み上げられていて、机の上には書類の束が乱雑に散らばり、コーヒーカップが一つ置いてある。そしてその机の前のいすに背を預けた老人が、不自然な角度で天井を見上げている。半開きの口から喉にかけ、乾いた涎の流れた痕。目を見開いたまま息絶えたようだ。
それを改稿したのが次
2、
いくらノックをしても返事がない。まだ寝ているのだろうか。そう思って寝室のドアを開けた。
デスクの前のいすに背を預けた老人が、不自然な角度で天井を見上げている。半開きの口から喉にかけ、乾いた涎の流れた痕。目を見開いたまま息絶えたようだ。
部屋の中は、いつものように、至る所に本が積み上げられていて、机の上には書類の束が乱雑に散らばり、コーヒーカップが一つ置いてある。
わかるだろうか。1の方は、作家が頭の中で情景を思い描く過程どおりに描写された情景。そして2の方は、作中の登場人物がドアを開けてから目に飛び込んできたであろう順に描写した情景だ。
作家は、舞台設定を考えて状況を描くが、登場人物が、人が死んでいる部屋に飛び込んだら、まず目にはいるのは死体の方で、周辺の状況はその後だろう。
一心不乱に脳味噌を回転させて物語を綴っていると、往々にしてこういう事をしでかしてしまう。作家の脳内ではお約束になったことも、初見の読者の気持ち、実際に現場にいる登場人部の気持ちになることが大切なのだ。
そのためにも、作品を書き上げたあと、脳をまっさらにリセットして読み直す過程が必要なのである。
(追記 2023/07/31)
まず目にはいるのは死体の方で、周辺の状況はその後だろう。>>>
通報を受けて現場に到着した刑事の目線なら、逆に、周辺情報から目に入っても不思議ではないし、むしろ死体のある現場慣れした刑事のキャラの描写にもなる。
作家は情景や状況の描写の中にも複数の情報を盛り込んで読者に伝えるのである。