小説指南抄(28)小説創作とものづくり
(2015年 10月 01日 「読書記録゛(どくしょきろぐ)」掲載)
私は派遣社員としての仕事も持っていて、ものづくりの代表である製造業に派遣されている。そこで気づいたことが、小説指南で教えているノウハウの数々が、私自身が「小説執筆」という業務のカイゼンで得たものだということ。
カイゼンとは日本の製造現場(トヨタ)で生まれた業務改善の活動・戦略のことで国際用語になっている。
私も小説を書きながら、毎回、小説を書き上げていく「業務の流れ」を、着想を得る、発想を膨らます、プロット化、人物設定・造形、舞台設定、状況設定など、「細分化」し、その際の脳内作業を「可視化」し、簡単にできるように「標準化」してきた。
それを、このレッスンで教授しているわけだ。
ただ、派遣先で気づいたのは、製造業でのカイゼンでの業務標準化は、「必要にして十分」になっているということ。
均質なクォリティーを維持するためには、一人だけ飛び抜けたものを発揮してはならず、また業務の流れも、特定の飛び抜けた才能に依存してはならないのだ。
一方、この小説指南では、標準化した方法は、あくまで「必要最低限」である。あとは作家修行者がどんどん自分の能力を磨いていってかまわない。また、そうしなければ多くの読者を獲得する作品は生み出せない。
小説創作と製造現場の唯一の違いは、「必要十分」と「必要最低限」の違いなのだ。
この様な気づきがあるからこそ、仕事は辞められないと思うのだ。
(2023/10/30 追記)
当時勤務していたのはメーカーのデスクワーク部門(顧客相談室の初期受電業務)だったのだが、さすがにカイゼンの発祥元だけあって、事務や営業と言った事務業務にもカイゼンの効果による改良や標準化が施されていて驚かされた。
それまでは新聞社系の広告会社にいて、カイゼンは知っていても、それはあくまで製造現場だろうと侮っていたのだ。これは勤務先の親会社の新聞社などマスメディアもそうだった。
派遣現場の相談センターで、このカイゼンの成果を目の当たりにして、それまでの不勉強を恥じたものである。
例えば、企業名簿のデータベースを例にとると、
「検索して出てこなかったら、”株式会社”じゃなく”(株)”とかに条件変えて検索しろよ、要領悪いなあ(苦笑)」← 中小企業の企業風土。
「データのエントリーに当たっては、”株式会社”に統一ですよ」← 一流企業の企業風土。
新聞も電波も、当初は「カイゼンはブルーカラーの現場の話だ」程度に観ていたのである。まったくもって恥ずかしい。自戒したい。