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思考停止が生む「謎ルール」
日々の保育の中で、ふと気づけば根拠の不明なルールができてしまっていることはありませんか?
今回、中堅の保育者と若手の保育者の間で起こった出来事を通して、組織の中で「思考停止」が連鎖し、無意識のうちに「謎ルール」が生まれてしまうプロセスについて考えてみたいと思います。
「ビールの紙コップは使ってはいけない?」—経緯の整理
今日は新園舎の消防検査があり、その後続いた建築会議が終わり、ようやく職員室に戻ったところに若手の保育者から「廃材の中にあったビールの紙コップを使おうとしたら、中堅の先生に『それはダメだよ』と言われたけれど、その理由がわからないので教えてほしい」と質問されました。
「なぜビールの紙コップを使うのがダメだと思う?」と聞き返してみると、若手の保育者は少し考えてから「よくわからないけれど、アルコールに関連するものだからですかね? 中堅の先生がダメって言ったから…」と答えました。
そこですぐに中堅の保育者に理由を尋ねたところ、「保育補助のスタッフが『はじめ先生が使っちゃいけないって言っていた』と言っていたから」と説明しました。
整理すると、情報の流れは以下のようになっています。
保育補助のスタッフが「はじめ先生(副園長)が使わない方がいい」と発言
中堅の保育者がその発言を受け、「使わない方がいい」と若手に伝える
若手の保育者が「中堅の先生がダメと言っていた」と認識する
結果として、「なぜダメなのか?」という本質的な問いが抜け落ちたまま、ルールのように扱われてしまいました。
思考停止の連鎖が生む「謎ルール」
今回のケースでは、そもそも私(はじめ先生)がビールの紙コップを完全に禁止したわけではありませんでした。
私の意図としては、同じサイズ・形の紙コップが揃っていることで遊びの幅が広がる可能性を考え、「むやみに使わないで、有効に活用するために温存しておいた方がいいかもね」と話したに過ぎません。
もし、私が「アルコール関連製品の廃材を使うのは避けるべきだ」と考えていたならば、そもそも倉庫に持ち込まず廃棄していたはずです。
例えば、発泡スチロールは、細かくなると散乱し、紙や服に静電気でくっつくため、掃除機を使わなければ取れなくなります。そのため、発泡スチロールをいただいたとしても、廃棄することにしています。
また、市販薬の空き箱も、子どもたちが市販薬の空き箱をおもちゃとすることで、家にある薬をお菓子と誤認してしまうリスクがあるため、まぎれることはありますが、極力排除するようにしています。
このように、必要があれば排除の指示を出しますし、排除しない場合でも、何かを禁止する際にはその理由を明確に説明できます。
謎ルール誕生のメカニズム
とはいえ、私も完ぺきではないので、言葉足らずになっていたり、自分で入ったつもりはなくても間違った判断をしてしまうことがたくさんあります(スミマセン)
そして、仮に禁止していない場合でも、口伝されていく中で、今回のように「誰かが言った」という理由にならない理由だけで規制が生まれる場合があります。
これが「謎ルール」誕生の瞬間です。
小さなことだったとしても、自分の意見を挟まず「○○が言ったから」という思考停止のコミュニケーションが、組織の中に「謎ルール」を生み出し、地層のように蓄積されていきます。
「よくわからないけれど、そういう決まりだから」と言われるルールが増えると、現場の柔軟性が失われ、保育が形骸化してしまい、新たな「謎ルール」を醸成するという負のループがすぐに始まります。
中堅保育者に求められる姿勢
今回の件では、中堅の保育者が「保育補助のスタッフが言ったから」と思考を止めてしまったことが問題でした。
本来であれば、自分自身で「本当に使ってはいけないのか?」と考え、納得した上で判断をすることが求められます。
また、管理職(私)の発言と自分の意見が違うのであれば、それについて話し合い、必要に応じてルールを見直すことを求めることも大切です。
また、「〇〇先生が言っていたから」ではなく、同意見だったとしても「私はこう思う」と主体的に意見を伝えることが重要です。
例えば、「私はアルコールに関係するものを保育で使うことに抵抗があるので、これは避けたほうがいいと思う」というように、自分の考えとして伝えるのです。
この姿勢をみんなが持つことができると、互いに主語を「私は」で話すコミュニケーションが生まれ、保育について常に議論が生まれ、様々なことが磨かれていきます。
その議論を通して、新しい視点や価値観が生まれ、より良い保育の方向性が見えてくるはずです。
ルールを「守ること」より「考えること」が大切
今回の出来事は小さなことですが、こうした思考停止の連鎖が積み重なることで、組織の中に「謎ルール」が蔓延してしまいます。
そして、一度定着してしまったルールは、誰もその根拠を説明できないまま続いてしまうことが少なくありません。
「誰かが言ったから」という理由だけで判断するのではなく、「なぜそう思うのか?」と考え、周囲と意見を交わすことが、健全な組織を維持する上で不可欠です。
そのためにも、特に若手、中堅の保育者には「疑問を持つこと」「自分の言葉で伝えること」を意識してほしいと思います。
未来志向の保育を目指して
思考停止のまま「決まりだから」と従うのではなく、「どうしてそうなのか?」を問い続けることで、よりよい保育のあり方を模索することができます。
もし意見の対立が生まれ、収集が難しいと感じた場合は、管理職を交えて話し合い、未来志向で解決策を考えていくことが重要です。
どの組織でも「誰かが言ったこと」がいつの間にかルール化することはよくあることですが、それに流されるのではなく、「自分の考えを持ち、議論する文化」を育てていくことが、より良い保育につながると私は考えています。
少しおじさんの説教くさい話に聞こえるかもしれませんが、中堅の先生や若手の先生には、ぜひ「自分の考えを持つこと」を大切にしてもらいたいと思います。
自分の意見を持つことは、スキルアップにもつながり、最終的には居心地の良い職場づくりにもつながるはずです。
みんなで頑張りましょう。