働き方改革の軌跡~4つのステージで見る変革の道筋~
働き方改革の歴史
向山こども園の働き方改革の歴史を振り返ると、保育の現場における劇的な変化は、次の4つの時期に分けられると考えます。
それぞれ「改革期」「超ブラック期」「ホワイト期」、そして「カラフル期」と名付けてみます。
今回は、私が保育現場で実際に試行錯誤を繰り返しながら行ってきた働き方改革の流れを中心に、その背景と取り組みを説明します。
改革期 – 保育現場の問題と挑戦
私が向山こども園に赴任した当時、園は大きな課題を抱えていました。労使問題が起こり人間関係はぐちゃぐちゃ。そんな背景もあり、15人中10人が退職するという深刻な状況でした。
私とともに新たな仲間に加わってくれた保育者10名と残ってくれたSTAFFさんと一緒にスタートを切ったものの、既存の保育体制からの急激な変化に、保護者やスタッフ、さらにはこどもたちも戸惑いを隠せませんでした。
コミュニケーションが円滑にいかず、園全体が不安定な状況に陥ってしまい、保育者たちは100%以上の努力を続けました。しかし、結果として2年で100人のこどもが減少し、さらに過酷な労働環境が続きました。夜9時、10時まで働き続ける保育者が当たり前となり、改善のための議論ばかりが重ねられ、進展が見えない状況が続いたのです。
超ブラック時代 – 過剰労働と改革の始まり
業務の過多が保育者たちに大きな負担をかけているなと感じていたこの時期。おりしも、大企業で女性社員の方の自死により、企業風土や働き方改革が叫ばれ始めるようになりました。このことでようやく「働き方改革」の必要性が明確に感じられるようになりました。
保育をしているんだから仕方がないという思い込みや、削れる仕事は何もないという意識がありましたが、まずは自分から行動しようと考え、改革の第一歩として、保育者が行っていた洗濯業務を私が担当することから始まりました。
数年続いた毎朝7時から始まる洗濯物の整理は、当初は地味で単調な作業に思えましたが、これを通じて一つ大きな気づきが得られました。それは、「業務は減らすのではなく、完全に無くすこと」が真の働き方改革に繋がるということです。
保育者は真面目な性格の方が多いため、業務を減らしても誰かがその分を補おうとする傾向があり、結果として負担が変わらないことが多かったのです。
ホワイト時代 – 雑務の分担と専門化
次のステップとして、雑務的な仕事を専門スタッフに任せる仕組みを導入しました。まず、清掃を担当する「クリーンスタッフ」を雇い、次にその業務を拡大した「ママサポ」に進化させました。保育補助としてのママサポさんは、給食の配膳や机の出し入れ、さらにはこどもたちの着替えの片付けなど、多岐にわたる業務を担当し、保育者がこどもとのかかわりに集中できる環境を整える役割を果たしてくれました。
これにより、保育者は本来の仕事であるこどもとの関わりに専念でき、業務負担が大きく軽減されました。働き方改革は少しずつ進展し、保育の現場が徐々に「ホワイト」に変わっていったのです。
カラフルな時代 – 選択できる働き方へ
現在は、さらに進んだ「カラフル期」に突入しています。
現在取り組み始めた働き方改革は、保育者が自分で給与体系を選択できる仕組みです。新人保育者は、まずチームが作り上げた環境の中でこどもと関わり、その中で環境作りのスキルを学びます。その後、自分自身で環境を考案する役割を選ぶことができ、さらにその選択に応じて業務手当が増えるしみになっています。つまり、実質的に、年3回の昇給があるというわけです。
また、キャリアの進行に合わせて、保育者自身が自分の成長や働き方の方向性を選択できるようにしました。こどもとの関わりに特化したい人もいれば、収入を増やしたい保育者もおり、それぞれの価値観に合わせた働き方が実現できるように制度を整えています。全員が一律に上を目指すのではなく、自分に合った働き方を選べることが、この「カラフル期」の特徴です。
まとめ
保育現場における働き方改革は、単なる業務の効率化ではなく、保育者一人ひとりの成長と働き方の多様性を尊重する方向へ進んでいます。改革期の混乱と試行錯誤を経て、今ではそれぞれの価値観やライフスタイルに合わせた柔軟な働き方が可能となり、保育者がこどもと向き合う時間を確保しつつ、より良い環境作りが進められています。