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公開保育を終えて:第3弾 「保育における『もったいない』を考える

今回は、公開保育のAnswer記事第3弾として、教材の使い方、特にガムテープの大量に使用に対する保育者の対応について考えたいと思います。
子どもが教材をどう使うべきか、保育者はどのような声掛けや教育的配慮をするべきかという問いに、これまでの経験と考え方を振り返りながらお答えしていきたいと思います。


教材の自由使用と保育の転換点

私が着任したばかりの向山こども園では、教材の使用が非常に制限されていました。
たとえば、折り紙は1人1日1枚(雨の日には3枚)というルールが存在しました。これは、管理職から直接指示されたわけではなく、長年の不文律として根付いていた文化だったようです。
しかし、これでは保育にならないので、私が着任してすぐ、よくわからないルールを撤廃し、子どもたちにさまざまな教材を自由に使える環境を提供する方向へと保育を変えていきました。

急激な変化による混乱と保護者の反応

その結果、子どもたちは急に自由に教材の使用ができるようになり、大量に折り紙を使うことに興奮して、家に持ち帰るような行動が見られるようになりました。
この変化に対して、保護者からは「無駄遣いをしている」「今までは1枚の折り紙を大切に使ってきたのに、大切にしなくなった!」というクレームを洪水のようにいただき、以前の教育方針との矛盾を指摘する声であふれかえりました。

当時、教育教材費として7000円もいただいていたので、「お金を払っているのに教材が使われていないのではないか?!」と保護者から不満が出るのではと危惧していました。そのため、教材を自由に使えるようにすれば、むしろ喜んで受け入れられるのではないかと思っていました。
ところが、7000円を支払っているにもかかわらず、折り紙を1枚しか使わせないというような謎ルールを受け入れていた保護者から、大量に折り紙を使えるようになったことに対するクレームが出たことは、私には理解しがたいものでした。
その結果、まさに水と油のような意見の対立が続くことになりました。

しかし、今振り返ってみると、当時の保育室は、折り紙や他の教材が散乱し、片付けもあまり行われない「混沌とした状況」にありました。
子どもたちは教材を使いながら遊ぶことになれていなかったため、使ったら使いっぱなしの状態でした。
多くの素材や道具が散乱している部屋を片付けるという力は、こどもにも保育者にもなかったので、お金云々ではなく、子どもたちが片付けもできないほどの大量のものを与えることに対して、保護者の方は大きな不安を持っていたのだと思います。
自分たちとしては頑張って保育をしていたつもりでしたが、今思えば、もっと考える視点や、配慮するポイントがあったなと、現実を見ることができていなかった自分の未熟さを痛感し、恥ずかしい気持ちでいっぱいです。

今では、スタッフの配置や教材・素材の出し方を工夫し、子どもの発達に応じて遊び場に配置する方法や、子どもたちが自発的に片付けしやすい環境作りのノウハウが園全体に蓄積されてきました。
その結果、当時と比べて保育の質は飛躍的に向上したと感じています。

「無駄」と「もったいない」の概念に向き合う

この変革のプロセスの中で、保護者から何度も「無駄遣いなのでは?」という質問を受け、私は保育における「無駄とは何か」を深く考えさせられました。
素材を出さないことで問題が起きず、きれいな保育室を維持することが教育だとは思いませんが、何でも大量に使って好き放題に遊ばせることが正しいとも考えていません。
時には無駄に見える行動も、保育者の見通しの中で、適切な素材の使い方を学ぶプロセスであれば、それは無駄とは言えないと思っています。
つまり、ある瞬間だけを切り取って「無駄」か「有益」かを判断するのは難しく、一定の期間を通じて子どもがどのようにモノと向き合っているかを見て評価することが、その判断基準を決めるために必要だと考えるようになりました。

しかし、「もったいない精神」をどのように保育者と共有するかは、未だに課題として残っています。

適切な指標をどう捉えるか

「もったいない」という概念を伝える際には、いくつかの視点が考えられます。たとえば、
・使う量
・物の値段
・得るための時間や労力
・自然環境への影響
・作り手の思い
などです。
しかし、これらの視点を一つ一つの場面で適用しようとすると、かえって混乱を招くことがあります。
「たくさん使うことが無駄」なのだとすると、大きなものを作ることができなくなりますし、「モノの値段」により無駄というと、養生テープを使うことはほとんどできなくなってしまいます。

子どもたちが自由に創作できる環境を守りつつ、適切な規制をどのようにかけるべきかは、保育者の熟練度だけでなく、生活環境や成育歴によっても左右される場合があるので、とても難しい問題なのです。

子どもにとっての「無駄」とは?

最も重要なのは、子ども自身が「これは無駄なのか?」「必要な教材の量はどれくらいか?」という問いを自ら考える力を育むことだと思っています。

保育者は、私が決めた指標に機械的に従って子どもに規制をかけるのではなく、子どもたち一人一人と向き合い、適切な量や使い方を一緒に考えるプロセスが大切だと思います。

今回の公開保育を通して、私たちは再び「無駄」や「もったいない」という視点を深く考える機会を得ました。
もったいない精神をどのように伝えるか、子どもたちにとっての適切な教材の量とは何か、これらの問いを今後も考え続けたいと思っています。
ご指摘くださった先生、ありがとうございました。

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