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死角か遊角か?

向山こども園の環境は、子どもたちが楽しく過ごせる場所として工夫されていますが、大人から見ると「見えにくい場所」があり、時に心配されることがあります。
今日は、この「死角」について考えてみたいと思います。死角には2種類あり、物理的死角心理的死角があります。それぞれについて掘り下げてみまます。


物理的死角

物理的死角とは、文字通り「視界を遮る」ことで見えにくくなる範囲のことです。これは、子どもたちが安心して遊べる拠点となるため、時に意図的に作られることもあります。

向山こども園では、外では森や園庭にある山やトンネル、遊具や小屋の間など、自然や人為的に作られた物理的な死角が多く存在します。
室内でも棚を稼働式にしたり、階段下に見えにくい空間を作ったり、柱と柱の間に段ボールなどで仕切りを作って空間を作れるようにすることで、子どもたちが独自の居場所を作り上げることができるようにしています。

これらの空間は、大人にとっては見えにくいものの、子どもにとっては「自分たちの場所」という感覚を持ちやすくなるため、遊びが発展していくために大切な要素となっています。

保育の中ではあまり好まれない物理的資格ですが、大人もまた、物理的な死角を必要とする場面があります。
たとえば、ファミレスで視界が遮られていると、他の客が気にならず、プライベートな空間が保たれて居心地が良く感じます。
以前訪れた時には、100人以上の人が同じ空間でご飯を食べているのに、(おそらく)プライベートな話をしたり、商談をしたり、仕事のグチを言ったり、恋愛の相談をしたり…と、それぞれ思い思いに過ごしているのだろうなと感じました。

このように、物理的死角は子どもたちにとっても、安心感を与える大切な要素となり、遊びを育むいわば「遊角」として機能するのです。

心理的死角

次に、心理的死角について考えてみます。心理的死角とは、意識が届かない範囲を指します。
物理的死角のところには意識も行きにくくなるという部分はあるため、物理的死角=心理的死角と考えられがちです。しかし、必ずしも物理的死角と同じではなく、見えているからといって心理的死角がないわけではありません。
たとえば、保育者が縄跳びを一生懸命まわしているとき、自分の背後に注意を払えなくなる場合があります。このようなときは、保育者背後は心理的死角と言えます。
また、保育者が喧嘩の仲裁をしている時、他の子どもたちの動きに意識が向かないこともあり、心理的死角が生まれていきます。

さらに、保育者の立ち位置も心理的死角を作り出します。壁側を向いて立っていると、後ろにいる子どもたちの動きが見えにくくなるため、実習生には立ち位置を工夫するよう指導されることがあります。

また、どこにいるのかわからないというのも、心理的死角となります。近くにいても、保育者が認識していない場合、心理的死角ができていると考えることができます。

このように、心理的死角は、非常に流動的で、保育中にあちこちで出現し手は消えるを繰り返しますし、目には見えないので、どこが心理的死角になっているかをリアルタイムに検知することは、今のところ難しいものだと思います。

心理的死角と物理的死角の関係

心理的死角が増えることで、子どもの動きや状態が把握できなくなり、危険な状況が生まれることがあります。
保育者は、心理的死角を減らしたいと考えるので、子どもたちが遊びに集中し、遊びを深めることで、居場所の把握をすることができるようにすることが求められます。
遊びが安定していると、子どもの居場所も安定し、心理的死角が減少するため、保育者にとって安心できる環境が生まれるのです。

しかし、心理的死角を減らそうとして、安易に物理的死角を排除するという考えに至る場合があり、この考え方には問題があります。
オープンスペースを作ると、全体が見やすくなる反面、子どもたちの遊びは混ざり合い、安定感が失われることがあります。
これは、ファミレスでパーテーションのない空間を想像すればわかりやすいでしょう。落ち着かない雰囲気となり、集中できない環境が生まれてしまいます。

遊角の重要性

こうした悪循環を断ち切るためには、保育者が子どもたちの「ここで遊びたい」という拠点をしっかり作る必要があります。
少し怖いと思うことがあるかもしれませんが、腹をくくり、物理的な死角をあえて作ってでも、子どもたちが安心して遊び込める空間、すなわち「遊角」を提供することが大切です。

心理的死角を減らすために物理的死角を作るという、一見矛盾したアプローチが、子どもたちの遊びを安定させるためには必要です。
物理的死角があっても、子どもたちの様子を観察し、適切にサポートできれば、心理的死角は最小限に抑えることができます。
年齢に応じた適切なバランスを取りながら、大人から少し見えにくい場所でも子どもたちの遊びを支え、安定した環境を提供していくことが重要です。

物理的死角と心理的死角は、どちらも保育において大切な概念です。
見えにくい場所を作りつつ、子どもたちが安心して遊べる拠点を確保することで、遊びを深め、安定した保育環境を作り出すことができます。
物理的死角を排除するのではなく、適切に取り入れながら、子どもたちが自ら遊びを発展させられる「遊角」を形成していくことが求められます。

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