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公開保育で寄せられた質問に答えて:子どもの主体性を発揮する保育とは?

先日行われた、スマートエディケーション主催の公開保育を通じて、多くの感想や質問をいただきました。
今回は6つの質問を、「子どもの主体性をどのように育もうとしているのか?」という質問に置き換えて、お答えしたいと思います。


寄せられた質問

保育者の服装に関して

  • エプロンを着けていない理由は?

  • 公開保育でスタッフがADのように見えた(黒いスタッフスエットを着用し、保育に使う道具を入れたポーチを持っている保育者が多かったため、そのように見えたのだと思います。)

遊びの切り替えや片付けに関して

  • 遊びが終わった後の片付けや次の遊びへの切り替えはどのように行われているのか?

  • 長期休みの際、遊びの場は一度リセットするのか?

年少クラスでの保育のスタートについて

  • 年度初め、保育者はどのようにコーナーを準備しているのか?

  • 子どもたちが保育者と一緒にコーナーを作るようになるのはどの段階か?

共主体について

  • 共主体の考え方は素晴らしいが、いつの間にか保育者主体にならないか?

片付けのタイミングと範囲

  • 子どもたちの遊びの後の片付けはどのタイミングで、どこまで行っているのか?

  • 子どもの遊びを止めないようにするために工夫していることは?

子どもの主体性を促す工夫や配慮について

  • 子どもが主体的に行動できるようにするための保育者の工夫は何か?

たくさんの質問やご意見をいただいたので、子ども主体の保育に関連してまとめていきたいと思います。
子どもの主体性を育む保育は、単に自由を与えることではなく、保育者の積極的なかかわりと調整力が必要です。
「子どもの主体性を発揮できる保育にするにはどうすればよいか?」という問いに対し、保育の現場での取り組みや考え方を4つの視点から整理してお伝えします。

子どもの主体性を尊重するために必要な保育者の主体性

保育者が主体性を持って保育に関わることは、子どもたちの主体性を支えるうえで欠かせません。例えば、服装一つを取っても、自分で考え、動きやすく対応しやすい服を選ぶという行為は、保育者自身の主体的な判断を示すものです。

公開保育ではスタッフスエットを着用しましたが、普段は保育者が自分らしい服装を選びます。それは「保育者自身が、プロとして適切な服装とは何か?自分らしさとは何か?を自由に考える姿」を子どもに見せる意味でも重要です。
一方で、私も主体的であるべきだと思っているので、意見を言うことやルールを作ることもあります。
たとえばこの時期、手の甲まで袖で隠している若い保育者を見ますが、とっさの時に子どもをつかんであげられるようにするためにも、袖をきちんと出すようにお願いしています。

保育者が自身の役割を主体的に考え、行動することで、子どもたちもその姿勢を感じ取り、自分の考えや行動に責任を持つようになります。
これは服装だけにとどまらず、カラーコピー機の使用(たまに数十枚単位でミスプリントを出されたりしますが(笑))や教材の使い方、使う量、部屋のレイアウトなど、さまざまな場面で保育者の裁量が認められています。保育者が主体的に考え、自分の判断で行動できる場面が増えるほど、子どもの自由度も広がります。
このように、保育者の主体性は、子どもの主体性を尊重する保育の基盤となるのです。

子どもが主体的になるための年少クラスでのプロセス

では、どのように子どもたちの主体性を尊重しようとしているのか、指導計画の中から見ていきたいと思います。

入園当初、年少クラスの子どもたちは個々のペースで園の生活に慣れていきます。
ロッカーに荷物を置く子、荷物を放り出してすぐ遊びに行く子、荷物を手放したがらない子など、反応はさまざまです。この時期に重要なのは、子どもたちが「自分らしく」園で過ごせることを最優先することです。

このプロセスは、小学校のスタートカリキュラムと、真逆かもしれません。小学校では、1週間から2週間ほどで、学校での発言の仕方や授業中の態度、声の大きさや発言のマナー、友達の呼び方に至るまで、やり方を教えられるそうです。
この小学校のやり方は、大人が子どもをコントロールするためには、よくできたシステムですが、私たち幼児教育では、自ら考え、自らの行動を決められるという主体性が重視されるので、1~2ヶ月の間は生活習慣やルールを教え込むのではなく、子どもが「自分がどうしたいのか」を知る時間を大切にします。
そのため、遊びの手掛かりになるような環境を多く設置され、一人一人が興味を持てるような保育環境にしていきます。
その過程で保育者は、子どもの「やりたい」や「嫌だ」といった気持ちを受け止め、困ったときには助けを求められる信頼関係を築いていきます。この信頼を基盤に、少しずつ集まりや友達との遊びを展開するよう促していきます。

年度当初の年少クラスでは、1クラス17~18人のクラスが3つあり、通常は6人の保育者が見ていますが、応援の保育者を加え、一人ひとりのやりたいことやペースを尊重しながら、必要に応じてサポートできる体制を整えています。
このようなプロセスを経て、子どもたちは自分の思いを外に出していいということを感じ、園生活をスタートし主体的に生活し遊んでいく基盤を築いていきます。

「我がまま」と「我がまま」がぶつかって学ぶ

非認知能力の育成は、ルールで縛ったりや座学で教え込むだけでは育ちません。特に幼児教育においては、人間関係や自分の気持ちの整理の仕方を学ぶには、他者と実際に関わる体験が不可欠です。

向山では、「まずは自分のやりたいことをやってみる」という『我がまま』を大切にするアプローチから始まります。互いに育まれ尊重された『我がまま』は、一緒に生活すると必ずぶつかります。そのぶつかりの中で、友達との摩擦や共感を経験しながら、自己と他者の違いを理解していきます。

このような体験を通じて、非認知能力(感情のコントロール、問題解決力など)が育まれます。
保育者は、子どもが試行錯誤する過程を支え、必要に応じて手を差し伸べることで、学びのプロセスを見守ります。この「学び」とは、ただ知識を得るだけでなく、体験を通じて自分を知り、他者と関わる力を育てるものなのです。

片付けや拠点のリセットについて

遊びの拠点や片付けの時間もまた、子どもの主体性を育てる大切な場面です。保育者は、子どもたちが「片付ける意味」や「次の準備を整える大切さ」を理解できるよう促します。

長期休暇の前後には、拠点を一度リセットし、新たな遊びの場を設けます。
拠点は、子どもたちが自分らしくいる場所であると同時に、いろいろな人や出来事や物と出会い対話する場所でもあります。
そのため、いろいろな出来事に出会えるように、保育者がコーディネートしていきます。
そのため、リセットすることはとても大切なプロセスで、次に遊ぶ時には、保育者の主体性も発揮しながら、新たな遊びを提案し、子どもたちの中で様々なことが育つように調整していきます。

もちろん、片付けの全てを子どもに任せるわけではなく、保育者がサポートしながら、負担が偏らないよう調整しています。
また、保育者が最終の片付けや衛生管理をしようとすると、業務負担を軽減しようとして、保育者がすべてやってしまったり、こどもに過度に片付けを強要してしまったりすることが起こりえます。
そのため、向山では、保育補助のスタッフが最終的に仕上げをしてくれます。働き方改革で入っていただくことになった保育補助のスタッフですが、保育者が子どものことを中心に考えて、どの程度の片付けを子どもたちにしてもらうかを適切に判断するための、強力なサポーターとしての役割も持っているのです。

子ども主体の保育を支えるために

子ども主体の保育を実現するには、保育者自身が主体的であること、そして柔軟に対応できる力を持つことが必要です。そのうえで、子どもの気持ちや行動を尊重しながら、適切な環境や学びの場を提供することが求められます。

共主体とは、不安定なヤジロベーのようなものです。
子どもの主体性が強くなりすぎて無秩序になる場合もあれば、保育者の主体性が強すぎて、子どもが面白さを感じられなくなる場合もあります。保育者は常にこのバランスを取るために調整を続けますが、実は、その過程の中にこそ、中長期的なバランスが宿っているのだと思います。

子どもたちが自分の考えで行動し、友達とともに学ぶ過程を大切にすることで、より豊かな保育が実現します。
質問してくださった方々への回答になっていれば幸いです。


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