公開保育を終えて:第2弾 質問から学んだ絵画活動の意義と子どもの自由な表現
今回は、公開保育のAnswer記事第2弾として、いただいた質問「絵画活動を行っていますか?テーマはどのように決めていますか?」に対する私なりの考えをお話ししたいと思います。
特に、絵画活動の取り入れ方や、その意義について掘り下げてみたいと思います。
質問者の意図を考察する
質問者の方は、恐らく一斉活動を重視している園に所属している方ではないかと推測されます。そのため、園内の壁面に子どもたちの絵が飾られていないことに疑問を感じられたのでしょう。
一斉活動が主活動の園では、子どもたちが描いた絵を展示するのが一般的だと思います。向山には、羊や鶏などの動物や豊かな自然環境、様々な行事など、子どもたちの表現欲を刺激する多様な題材があります。それにもかかわらず、絵画活動があまり見られないことを不思議に思われたかもしれません。
向山の保育では、子どもが自由感をもって遊びながら学びを深めていく保育を行っているため、全員で同じ絵を描く活動はほとんどありません。
題材は豊富なのですが、保育方法の違いから、絵を作品として展示することは少ないため、向山の保育室に絵が少ないと感じられたのではないかと思います。
向山の保育環境と絵画活動の歴史
13年前、私が向山幼稚園に就職した当初、シュタイナー教育の影響を受けた「色彩体験」が絵画活動の中心でした。
水に浸した紙に青・赤・黄色の三原色の絵の具を垂らし、色のグラデーションを楽しむという活動は、非常に美しく、興味深いものでした。
しかし、少人数の保育者で多くの子どもたちを見ていたこの時代には、フリーの保育者は少なく、自由にこの活動に取り組むということは現実的に難しく、クラスみんなで楽しむという方法をとっていました。
しかし、みんなで行うといっても、こどもにもそれぞれ気持ちがあるため、好きな遊びをしたい子や、絵の具の使い方がうまくいかない子にとっては、時に負担になることもあったように感じます。
また、持ち帰るための作品ケースを購入いただいていたのもあり、持って帰らないことで、その子が活動ができていないと評価されてしまうため、何とか描かせなければというある種のノルマのような意識が働いていたのも、残念ながら事実でした。
またこのころは、「絵画=色彩体験」という固定概念があり、画用紙にはっきりとした線で絵を描くことは、事実上禁止されていました。
しかし、子どもたちは一生懸命砂に絵を描いていたということもあり、絵画そのものの考え方を見直さなければならないと思っていました。
絵画に対する活動が少しずつ見直され、もっと自由に子どもたちが表現できるように工夫されて行くとともに、ステレオタイプの輸入されたシュタイナー教育からの脱却も同時に行われ、保育の中で絵を描くということの取り扱いが、大きく変化していきました。
現代における絵画活動の意義
絵を描くことは、子どもたちにとって大切な表現活動の一つです。
この点は昔から変わりませんが、私が受けた小学校教育では、絵の技法を学ぶ機会が多くありました。
しかし、技術の習得を目的とした活動よりも、現代では楽しさを重視した活動や自己表現の一つの手段へのシフトが求められていると思います。
なぜなら、AI技術の進化により、絵画の成果物を得ることが以前より簡単になっている昨今、幼児教育においては、絵画技術を教えることよりも、子どもたちが自由に表現するための絵画活動の重要性が一層高まっていると感じているからです。
そのため、向山では、絵画の技法を習得するというよりも、それぞれの子どもが描きたいと思ったものを描ける環境づくりに注力しています。
向山での絵画活動の現状
見学の方にはあまり見えなかったと思うのですが、実は向山でも、絵を描く機会は多く存在しています。
例えば、昨年は子どもたちが「ブラックホールに吸い込まれるバス」という創作劇のワンシーンで使うために、大きな壁画を描きました。
また、リトルオリンピックでは、クラスごとにTシャツに自分の好きな絵を描いてオリジナルのクラスTシャツを作るなど、絵画活動が行われています。
さらに、おさかな祭りの時には魚拓を作ったり、ごっこ遊びで使うオリジナルの衣装に装飾を加えたりと、さまざまな場面で絵画を取り入れています。
ただし、質問者の方が指摘されたように、描かれた絵を掲示することはあまり行っていません。
その理由は、保育方法の違いだけではなく、向山での絵画活動は「遊びの道具作り」や「遊び物の一部」として、メニュー表や車の装飾を描くといった形で楽しむことが多く、実用的な目的での絵画が主流だからです。
つまり、「絵画そのものを楽しむという遊び」が重視されていないのが現状があるのではないかと気付かされました。
この点で、絵を描くことそのものが遊びと認識されているかどうかを見直す必要があるかもしれないとおもいました。
絵画活動のための保育者の力量はあるのか?
質問者の方の意見を踏まえ、さらに自分たちを振り返ってみると、保育者としての力量に目を向けることも必要なように思いました。
一斉活動を行う園では、絵画を掲示することによって、保育者がどのような技法を知っていて、それを子どもたちがどのくらい習得できたかが評価されやすいと思います。反対に、自由感をもって遊ぶことが多い向山のような保育では、保育者の技法や指導力を評価するのは難しい側面があります。
そのため、ともすると、保育者自身が一斉活動の園と比較して、技術を習得したり、技術のレパートリーをもっていなかったとしても、管理職が気付きにくいのではないかという懸念もあるように感じました。
今後に向けた課題
今回の質問を通して、絵画活動に対する向山の姿勢や現状について考える良い機会をいただきました。
今後は、子どもたちにとって絵を描くことが純粋な遊びとして楽しめるような環境づくりや、保育者が適切な技法を提供できるようなスキルアップできるような研修が求められるとおもっています。
絵を描く楽しさと、その表現の自由さを引き出す保育を目指して、引き続き取り組んでいきたいと思います。
貴重なご指摘ありがとうございました。