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生き物を飼うということ
今回は生き物を飼うということが、なぜ大切なのかということについて、向山こども園の実践の中でとっても素敵なお話が合ったので、記事にしたいと思います。
生き物を飼うことが子どもの成長に与える影響
生き物を飼うことは、子どもたちの成長に良い影響を与えるとよく言われますが、その具体的な成長の内容については、あまり深く語られることが少ないと感じます。
「命に触れる」「責任感を持つ」「言葉を持たない動物の気持ちを理解する」など、概念的にぼやんとは言語化されていますが、それを実践する際に何が本当に重要なのかは、まだ未知数な部分が多いのではないでしょうか。
命に触れる経験の大切さ
向山こども園では、命と触れることを非常に大切にしています。しかし、動物のお世話や掃除の当番を無理強いすることはありません。掃除や世話をすることは重要ですが、それ以上に、まずは子どもたちが命を好きになり、大切だと思う気持ちを育むことが先決だと考えているからです。
このプロセスをサポートするために、保育者の存在が非常に重要です。保育者は、子どもたちに命を大切にする姿勢を伝える上で、大きな役割を果たしています。
保育者自身の「命」との関わり
しかし、すべての保育者が命を大切にできるかというと、必ずしもそうとは言い切れません。日々の子どもたちとの関わりに追われ、動物の世話に十分な時間を割けないという現実もあります。
しかしそれだけではなく、保育者自身の生育過程において、命を重んじる意識が十分に培われていない要因もあるように思います。
保育者のヒヤリングからみえてきたのは、多くの保育者が『自分で生き物の命を預かり、責任を持って育て、最終的にはその命を見送る』という経験をしていないということです。
私の記憶では、鳥インフルエンザの流行に伴い、多くの小学校で飼われていたニワトリやウサギがいなくなりました。つまり、現在の保育者たちは、小学校ですら生き物に触れる経験が少ないまま育ってきてしまっています。
(これは、もしかすると、保護者も同じような傾向があるかもしれません。)
そのため、命を日常的に世話すること、綺麗に保つこと、そして命を愛おしく思うという感覚を十分に身につけていないように感じる場面があります。
生き物との関わりを深めるための取り組み
このような現状の中で実行していたことの一つは、保育者が自分で好きな生き物を選び、飼う経験を持つことでした。
具体的には、保育者1人につき1匹の動物をクラスで飼い、毎日世話をするようにしています。その過程で、子どもたちも一緒に世話をしたり、やりたい子が多すぎるのであれば当番をしたりすることができるようにしています。
私自身は、出勤するスタッフがいない毎週日曜日と祝日に、動物のお世話をしています。生き物を飼うことは決して簡単なことではなく、時には「面倒だな」と思うこともあります。しかし、それでも時には愛おしく感じることがあり、この感情の幅こそが、生き物を飼うことの本質的な魅力だと感じています。
子どもたちの成長を感じたエピソード
そんな中、嬉しい出来事がありました。
ある保育者が飼っていたハムスターがケージから逃げ出してしまったのです。保育者は一生懸命に探しましたが、見つかりません。
通常、小動物は陰に隠れてしまうので、探し出すのは至難の業。
その後、この保育者は子どもたちにその事実を伝えました。すると、3歳から5歳までの子どもたちが一生懸命にハムスターを探し始めたのです。
みんなが一生懸命探す中、机に向かって何かを書いている子どももいました。話を聞いてみると、ハムスターが戻ってこられるようにするための「地図」を作っていたのです。
また、制作をしている子どもたちは、ハムスターの好きな遊び場としてトンネルを作るなど、それぞれが自分なりに工夫して行動していました。
最終的に、ハムスターは次の日、干し草の中で気持ちよさそうに寝ているところを見つかり、子どもたちは大喜びしました。
子どもたちの共感力の成長
さらに感動したのは、年長の女の子がこの保育者に言った一言です。「昨日、寝られなかったでしょう?」と、その子は保育者に問いかけました。
この保育者がハムスターをとても大切にしていたことが子どもにも伝わっており、彼女はきっと保育者が『心配で眠れなかっただろう』と感じたのでしょう。このような共感力が育つ瞬間こそ、生き物を飼うことで得られる大切な成長の一つだと実感しました。
まとめ
生き物を飼うことで、子どもたちは命の大切さや共感力、責任感を学ぶ機会を得ます。しかし、それをただの「お世話」や「義務」の中で育もうとするのではなく、まずは命を愛おしく思う気持ちを持つ大人が周りにいる環境を作ることが重要なのだと思います。
保育者自身がその経験を持ち、子どもたちに伝えていくことが、子どもの成長にとって大きな意味を持つと私は考えています。