冬の薪ストーブがもたらす「不便益」
例年より暖かい日が続いていますが、いよいよ寒さが本格化しそうです。
今回は、向山こども園の3歳以上児クラスで活用している「薪ストーブ」についてお話しします。
エアコンやファンヒーターのような便利な暖房器具もある中で、あえて保育室に『不便な』薪ストーブを選ぶ理由についてまとめてみたいと思います。
薪ストーブがもたらす「不便益」とは?
向山こども園の3歳以上児クラスには、全保育室に薪ストーブが設置されています。
この薪ストーブは薪が燃え尽きるとすぐに冷えてしまい、薪を補充しなければならないため、エアコンのように簡単には温度管理ができません。
薪の準備から始まり、火をおこしたり、灰を捨てたり…ととにかく手間のかかる薪ストーブですが、この『不便さ』がゆえに得られる価値があります。
それが『不便益』です。
便利損とは?
エアコンはワンタッチで快適な温度を維持できる、薪ストーブとは対照的な『便利』を象徴する存在です。
職員室などの部屋は、エアコンによって1年中安定した気温が保たれています。
私は朝に鍵を開けているので、保育者が出勤する前にエアコンやファンヒーターを使い、20度から25度になるようにしておきます。
ごく少数のスタッフさんが「あ~暖かい~!」や「わっ!すずしい!」と声に出して感動してくれますが、多くのスタッフさんにとって、特段感動するものではありません。
もちろん、エアコンを付けたからといって特別な感謝の言葉は生まれるなどということもありません(もちろん、感謝されるほどのことをしているわけではないので、つけた本人だって、つけたことを忘れているくらいです)。
『便利』は、特段の努力や苦労がないため、当たり前になりやすく、その価値や実感が薄れ、そこでのコミュニケーションも失われがちです。
このようなに便利になるからこそ失われるものを『便利損』と言ったりもします。
暖炉が生み出すコミュニケーションと体験
一方、薪ストーブを使用することで日常に少し手間がかかるため、そこでの交流や発見が生まれます。
たとえば、薪を割る作業をしていると、子どもたちが「何してるの?」と興味を示して見に来ますし、「これが冬に役立つんだ」と理解したりする場面が生まれます。
薪割り機や斧のすごさや危険性を知ったり、薪の中で冬眠している大量のアリに出会うと、みんな我先にしまい込んだ虫かごを引っ張り出してくるなど、面白い発見もたくさんあります。
そして、薪ストーブで暖を取るために、薪の運搬や火起こしなど、子どもたちが積極的に関わる場面が多くあります。
薪を玄関の薪置き場から部屋に運ぶのは子どもたちの役割で、手袋をして運ぶ姿はとても真剣で、どこか誇らしげです。
「ありがとう」と保育者や友達から声をかけられることで、子どもたちは自己効力感を感じることができます。
火をつけるのも、年長くらいになると挑戦します。
すぎっぱ→小枝→少し太い枝→薪 の順で組んでいって、マッチをシュッとするのですが、これがなかなかうまくはいきません。
火が付いた瞬間に恐怖から手を放してしまうところから始まるのですが、徐々に、火が上に来るようにマッチを持ったり、火を投げ込む先にすぎっぱがあるようにしたり…と、火の特性や危険性を頭でわかったうえで、気持ちと指先をコントロールして初めて、火をつけることができます。
火をつけられた子は、「きょうはA君が点けた火なんだよ!」とだれもが称賛し、一日ヒーローになります。
火が弱まってくると「薪を足した方がいいんじゃないか」と気づく子も現れ、環境の変化に対して敏感に反応するようになります。
自分たちの生活空間のことだからこそ無関心ではいられないので、一人一人が主体的に関わるチャンスがそこら中に転がっています。
循環する自然を体感する環境教育
エアコンの電気やヒーターのガスがどこから来て、どのように作られているか、正直私も詳しくは知りません。
しかし、薪ストーブで使用する薪は、園内で採れた木や地域からいただいた木が主な燃料となっています。そのため、子どもたちもその由来を理解することができます。
乾燥させた薪が冬の暖を取る燃料となり、さらに燃え残った灰が森や畑を肥沃にする資源に変わることを体感できるため、「自然の循環」を体感的に学ぶことができるのです。
電気やガスの出所については、私たち大人でも知らないことが多いのが現実です。
しかし、薪であれば、園内のオランウータンの森の木を見て、薪割りや干しているところ、そして、運ばれてくるところが園内ですべて見ることができるので、その成り立ちが目に見えます。
そのため、幼児期から「使ったものがまた自然に還る」という意識が日常の風景の中で養われます。
このように自然の循環を自ら体験することは、現代の子どもたちにとって非常に大切な教育だと感じています。
不便だからこそ得られる「暖かさ」
薪ストーブを活用することは、身体だけでなく心の温かさも生み出します。
日常だけではなく、建築の面でも設置には制約や安全対策が必要ですが、子どもたちが、自然や人の暖かさに触れる「教具」として、今後も向山こども園では大切に活用していきたいと考えています。
もし、仙台で伐採した木が余っている方がいらっしゃれば、向山こども園で役立たせていただけるとありがたいです。
持ってきていただければとてもありがたいですし、私、ゲート付きのアルミウィング車を持っているので、取りに伺います! 県内であればはせ参じます! ぜひお声がけください(笑)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?