保育の現場で役立つ! 『拠点』を活用した遊び支援のポイント
今日は、3歳児の保育を見ながら考えた、拠点やそこに関わる保育者のかかわり方のコツみたいなことを整理して書いてみたいと思います。
拠点とは何か?
「拠点」という概念は、保育の環境構成において子どもの主体的な遊びを支えるための基盤となる場所のことを言います。
これは東洋大学の高橋先生から学んだ概念で、従来の「コーナー」という考え方よりも、より子ども主体の視点を重視しています。
拠点は、大人が設定した場所というよりも、子どもたちが自由に遊びを展開し、変化を生み出すことができるベース(基地)となる場所です。
この拠点の構成人数は、年少の秋ぐらいだと2~4人程度。年中だと3~6人、年長だと4~10人程度など、指導計画の中で目安を決めています。
発達段階や経験によって、継続して一緒に遊べる人数は変わってくるので、拠点の作り方も、少しずつ変化していきます。
拠点とコーナーの違い
私たちは、拠点という考え方に出会う前は、すべての遊びを「コーナー」と呼んでいました。
しかし、拠点という概念を使うようになり、拠点とコーナーを分けるようになりました。
一般的なコーナーは大人が設定しており、子どもたちがそこで遊ぶという形式ですが、拠点は子どもたちと保育者が一緒に作り上げ、変えていくものです。
それぞれにメリットとデメリットがあります。
コーナーは、動物のお世話コーナーやブロックのコーナーなど、大人が設定した中で遊ぶので、いろいろなものに出会うことができます。また、大人のコントロールが強いので、時間が少ないときなどでも、十分にあそぶことができます。一方で、可変性が少ないので、主体性や創造性を育むのにはあまり適していないように感じます。
一方拠点は、常に変化し、子どもたちの興味やニーズに応じて再構成されます。主体性や創造性、協同性などの力がはぐくまれる反面、子どもの決定権が強いため、大人のコントロールが効きにくく、片づけなかったり、終わらなかったり…ということもおこります。そのため、時間的・空間的な余裕が不可欠となります。
拠点作りの要素
良い拠点には最低でも4つ以上の遊びの要素が含まれていることが重要だと最近思っています。
年少の子どもたちの集中力は、よく見ていると、5~15分で次の遊びに移ります。紙粘土をこねていて、次に色を付けて、装飾をして、出来上がったら販売して…というように、遊びの名前としては「ピザ屋さん」という一つでも、いくつかの遊びを組み合わせながら子どもたちは遊んでいきます。
遊びの拠点は、さまざまな遊びを組み合わせて継続して楽しめるように作られています。「病院」「図書館」「恐竜博物館」などの名前がありますが、子どもたちは一つの場所で実はいろいろなことを楽しんでいるのです。
では、この遊びの要素とはどのようなものがあるのでしょうか?
運動遊び
ごっこ遊び
なりきり遊び
構成遊び
制作遊び
絵画
言葉遊び
音楽遊び
感覚遊び
探索活動
探求や研究
競争
ルールのある遊び
空間作り
などなどが挙げられます。
一つの拠点にこれらの要素が4つ以上組み合わさっていることで、子どもたちは拠点の中で次々と遊びを移したり、遊びを組み合わせながら主体的に活動できます。
子どもの集中力を支えるための人的環境
保育者が必要な意味
3歳児の集中力は5分から15分程度で、短い時間で遊びを切り替えることがよくあります。
そのため、拠点内で異なる要素がバランスよく組み合わさっていることで、子どもたちが遊びを継続しやすくなります。
保育者は、この集中が途切れるタイミングを見極め、次の遊びにスムーズに移行できるようサポートを行います。
拠点の中で保育者は、単なるお手伝いさんや指導者としてではなく、子どもの遊びの仲間として参加することも求められます。
例えば、恐竜ごっこでは、保育者が敵役を務めることで、子どもたちが持っている武器を使った遊びがより活発になるといった具合です。
このように、子どもたちは保育者と関りながら、自分たちの興味の中で人と対話し、新しい発見や楽しさを見出し、遊びを深めていくことができます。
あるベテラン保育者の一コマ
あるベテランの保育者が、図書館ごっことうさぎのお家ごっこの両方に参加し、それぞれの世界観に合わせたキャラクターを見事に演じた場面が印象的でした。
どちらも女の子が中心となっていた遊びで、雰囲気としては同じようなゆったりとした落ち着いた遊びです。
ともすると、場づくりのお手伝いをしたり、制作の材料を集めてあげるなどのサポートだけでも成り立っていきそうに見える安定した遊びでしたが、ちょうど良いタイミングで、保育者がお客さんになったり、作品の自慢を聞いてあげたり、テープを張るお手伝いをしてくれたりすることで、子どもたちは、ごく自然に自分たちの遊びを継続していました。
あまりにも自然にやっているので気が付きにくいのですが、子どもにちょっと来て!と言われたときの返答が、「待っててね」ではなく、「絵本借りに行くね」など、子どもたちのイメージに合わせた声がけになっていて、素敵だなと思いました。
このことを保育後に聞いてみると、「園の門をくぐるときに、自分のキャラクターを脱いでくるんです」と笑いながら話してくれました。
保育者としての主体性をちゃんと持ちながらも、子どもたちが求めるキャラクターを演じる姿は、まさにプロの仕事と言えるなと感心しました。
なんとなく遊びが停滞してきたら…
テーマとしては楽しいけれど、なんとなく拠点が停滞することもあります。
例えば、恐竜ごっこの拠点の中で、戦い・制作・なりきり・場づくりの要素が含まれているとします。
しかし、なんとなく遊びが停滞してきたときに、どの要素が停滞しているのかを見てみるといいと思います。
「武器づくりはもう満足している」「秘密基地も完成した」となると、制作と場づくりの要素が、事実上なくなってしまっています。
そのため、なんとなく戦ったり、恐竜になり切ったりするものの、遊びが始まって30分ほどすると、フラフラしだしてしまうということがよくあります。
このような時、保育者は、「恐竜の住んでいる世界観を再現するために大きな絵を描いてみよう!」「隠れられる岩を作ってみよう」「恐竜の音楽を作って恐竜ダンスはどう?」「足音はどんな感じかな?」など、他の要素を追加したり、新たな活動を提案して、遊びを再活性化させます。
これにより、子どもたちが遊びに再び熱中できる環境を整えることができます。
拠点という考え方は、子ども主体の保育を実現するために非常に重要な要素です。
保育者は拠点内の遊びを見守り、必要な時にはサポートや新しい刺激を提供することで、子どもたちの主体性を育みます。
このようにして、子どもたちが自分たちの興味に基づいた遊びを継続し、豊かな体験を得るための環境が作られていきます。