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保育者の自己評価とワンオンワンミーティングの活用

北海道で講演を行った際に、たくさんの質問をいただきました。
そこで、昨日から「シリーズ:問いに向き合う」と題して、一つひとつの質問にじっくりお答えしていきたいと思います。

今日は「自己評価のやり方について、細かく知りたい」というご質問にお答えしたいと思います。

保育現場では、保育者の成長を促し、より質の高い保育を実現するために自己評価の仕組みを取り入れることが重要なので、今年から、自己評価のやり方を変えてみました。
効果測定はまだできていないのですが、今行っている工夫などについてお伝えしたいと思います。


3つの自己評価カテゴリー

自己評価アンケートは、保育者の経験や役割に応じて3つのカテゴリーに分かれています。

  1. 環境を作らない保育者
    1年目から3年目程度の保育者が該当し、主に先輩保育者が整えた環境で保育を行う段階です。まだ環境構成を担う立場ではなく、日々の業務をこなすことが主な役割になります。

  2. 環境を作る保育者
    中堅クラスの保育者が対象で、子どもの遊びや発達を考慮しながら環境を整える役割を担います。子どもたちの興味関心や発達段階を見極めながら、適切な保育環境を作ることが求められます。

  3. スーパーバイザー
    学年主任やリーダー的な立場の保育者を対象とし、チームマネジメントや後輩指導を含む内容が加わります。自分自身の保育だけでなく、他の保育者の育成やチーム運営に関する視点も求められます。

このように、経験年数や役割に応じて自己評価の観点を変えることで、保育者が自身の成長を実感しやすくなるよう工夫しています。

自己評価の基本構成

自己評価表は、以下の4つのセクションで構成されています。

  1. 子どもへの関わり

    • 子どもを大切にしましたか?

    • 目線を合わせて話せましたか?

    • 丁寧な言葉遣いができましたか?

    • 虐待をしませんでしたか?

    • 子どもと一緒に遊べましたか?

    • 指導計画を活用できましたか?

    • カンファレンスの内容を保育に活かせましたか?

  2. 基本業務

    • 必要な記録を適切に作成しましたか?

    • 研修に積極的に参加しましたか?

    • 同僚や他の保育者と円滑なコミュニケーションが取れましたか?

    • 目標としている動画コンテンツ(YouTubeなど)を計画通り作成できましたか?

    • カンファレンスで積極的に発言できましたか?

    • 自分のスキル向上のために努力しましたか?

  3. 社会人としての行動

    • 時間管理を適切に行えましたか?

    • 責任感を持って仕事に取り組めましたか?

    • 柔軟な対応ができましたか?

    • 休まずに出勤できましたか?

    • 体調が悪い時、適切に申請できましたか?

    • 悩みがあるときに適切に相談できましたか?

    • プライベートでリフレッシュできましたか?

  4. 自由記述

    • 今期の自己評価についての感想やコメント

    • 次の目標や改善点

役割ごとの追加評価項目

業務が追加される保育者は、自己評価の観点が増えていきます。

環境を作る保育者向けの追加評価

  • 子どもの遊びを観察し、環境を考案しましたか?

  • 遊びのパターンや興味を分析しましたか?

  • 考案した環境案を実際に整備しましたか?

  • 教具や教材を適切に準備しましたか?

スーパーバイザー向けの追加評価

  • チームメンバーのマネジメントを行いましたか?

  • 新任・中堅保育者への指導を適切に行いましたか?

  • チームの心理的安全性を確保しましたか?

  • 適切なタイミングでフィードバックを行いましたか?

抽象的な質問と具体的な質問の使い分け

自己評価アンケートを作成する際、質問の内容を「抽象的なもの」と「具体的なもの」に分け質問項目に入れています。
この使い分けによって、保育者自身の振り返りを促し、1on1ミーティングでより深い対話を生み出せるようにしています。

抽象的な質問

例えば、以下のような質問があります。

  • 子どもに真摯に向き合いましたか?

  • プロフェッショナルな態度で仕事に取り組めましたか?

これらの質問には、明確な答えがありません。あえて定義を決めず、保育者自身が「真摯に向き合うとはどういうことか?」を考えるきっかけにしています。
なぜこのような質問を入れているかというと、保育者の経験や価値観によって、「真摯に向き合う」の意味は異なり、常に考えていく必要があるからです。
例えば、ある保育者は「子どもの気持ちを丁寧に受け止めること」だと考えるかもしれません。一方で、別の保育者は「子どもが挑戦できる環境を作ること」だと捉えることもあります。

自己評価の場では、自分自身の考えを整理することが大切なので、1on1ミーティングではさらに深掘りする ことを意識しています。

「あなたにとって真摯に向き合うとはどういうことなんだろう?」と一緒に考えることで、
「子どもの目を見て話すことです」
「どんなに忙しくても子どもの言葉に耳を傾けることです」
など、保育者ごとの解釈が見えてきます。

このプロセスを経ることで、保育者は自分の価値観や保育観を整理できるだけでなく、「より良い関わり方」について考えるきっかけ になります。

また、「プロフェッショナルな態度」といった抽象的な質問については、保育者の経験値によって評価の仕方が変わる点 もポイントです。
新人保育者は、「時間を守る」「子どもを安全に預かる」ことがプロフェッショナルと考えがちですが、経験を積んだ保育者ほど、「子ども一人ひとりに合った関わり方を考え、実践する」ことを求めるようになります。

このように、抽象的な質問を設けることで、経験値に応じた自己成長の視点を持たせる工夫 をし、自分の視点が変わっていく過程を感じ、自分が成長していることを感じてもらえたらと思っています。

具体的な質問の工夫と狙い

一方で、具体的な質問は「明確な基準があり、客観的な評価ができるもの」 を意識しています。

例えば、以下のような質問を取り入れています。

  • 「虐待をしませんでしたか?」

  • 「規定数のフォトを作成できましたか?」

  • 「一日5件の記録をつけられましたか?」

というものです。
「保育は価値観」といわれることがあり、ある一面では、とても共感できる言葉です。しかし、保育には守らなければならないルールもありますし、業務として、向山ブランドを維持するためのノルマもあります。抽象的な質問ばかりでは、評価が曖昧になりがちなので、明確にすべきところには具体的な内容を入れるようにしてます。

また、自己評価が極端に厳しくなる保育者もいれば、過剰に自己評価を高くする保育者もいるため、基準を明確にすることで、適切な振り返りができるようにしています。

絶対的な基準が必要な項目には数値目標を設定し、守っていることを毎回確認できるようにしています。特に年度当初に、目標値を設定したり、虐待防止などの研修をしているので、これを評価するのも狙いの一つです。
例えば、「虐待をしませんでしたか?」という質問では、必ず「しませんでした(5)」がつくべき項目 です。これは、絶対に守らなければならない最低限の基準として設定しています。

また、数値目標がわかりやすいことで、できなかった場合に、「なぜできなかったのか?」を一緒に考えるようにしています。
例えば、「記録を5件つけることができなかった」と自己評価した場合、「なぜ?」と問いかけることで、「業務が忙しくて時間がなかった」「記録の書き方に迷って時間がかかった」など、具体的な課題が見えてきます。
こうすることで、単に「できなかった」ではなく、「どうすればできるようになるか?」という視点を持てるように なります。

また、これはやってみてわかったのことなのですが、「実は、メンバーがそろわなくてできなかった」など、本人ではどうすることもできない問題が発覚することもありました。この場合、マネジメント側の問題もあったりするので、時間の使い方などについて改めて精査し、改善するようにしています。

1on1ミーティングの活用

1on1ミーティングは、自己評価をより深めるための対話の場として活用しています。基本的には、長期休暇のタイミングで30分程度の時間を確保しますが、実際には45分〜2時間半に及ぶこともあります。

ワンオンワンの流れ

  1. 自己評価表の振り返り

  2. 抽象的な質問に対する考えの掘り下げ

  3. 保育者の成長を可視化するフィードバック

  4. 次の目標の設定

特に「できなかった部分」に焦点を当てるのではなく、「どうすれば改善できるか」「どのように成長できたか」を一緒に考えることを重視しています。

また、会話を録音・文字起こしし、AIを活用して要約し蓄積しておくことで、前回の面談内容を振り返りながら成長を実感できる仕組みを取り入れています。

まとめ

自己評価アンケートと1on1ミーティングを組み合わせることで、保育者の成長を促し、保育の質を向上させる仕組みを整えています。
また、抽象的な質問を通じて深く考える機会を作りつつ、具体的な数値目標で客観的な評価もできるようにしています。

今後もこの仕組みをブラッシュアップしながら、保育者が自分の成長を実感し、モチベーションを高められる環境を作っていきたいと思っています。

今回の内容が、保育者の育成や自己評価の仕組みを考える際の参考になれば幸いです。

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