あの日の静けさが満席に 〜願書受付に込めた感謝と向山子ども園の成長〜
11月1日は「願書受付」と呼ばれる、特別な意味を持つ一日です。この日、翌年の園児数がほぼ確定します。保育者たちが日々積み重ねてきた保育が評価され、その努力が認められ、次年度の園運営が確かなものとなる日です。
今日は、願書受付が終わったので、この日がどのような日なのかを、向山の歴史と共に、振り返ってみたいと思います。
11月1日が持つ特別な意味
願書受付日とは、次年度に1号認定で入園を希望される方が願書を提出し、保護者の方と正式な利用契約を結ぶ日です。
向山こども園では、入園当初は1号認定のお子さんが多く、また2歳児クラスから30人が進級するため、来年度の園児数がほぼ確定する日となります。
保育について書いているnoteですが、子どもたちに安定した保育を提供し、保育者に給与を支払う「経営」という側面も無視できません。
下世話なな話に聞こえてしまうかもしれませんが、園児数は、園の運営や職員の雇用、子どもたちの集団としての安定、さらには設備投資などにも大きな影響を与えます。
つまり、11月1日は子ども園の経営や発展にとって不可欠な一日であり、管理職に就くものとして、とっても大切な節目となっています。
苦しい再建の始まり
私が向山子ども園に赴任した当初、園は職員間の不仲や保護者との関係悪化など、さまざまな問題を抱え、崩壊寸前の状態でした。
その状況だけでも大変だったのに、火にガソリンを投入するかのように、未熟だった私は新たな保育方針を導入し、体制を大きく変えるなど改革を強引に進めたため、一層の混乱を招いてしまいました。
保護者からのクレームが絶えず、懇談会では冷たい視線と身を切られるような質問やご意見を浴び、疲弊する毎日が続きました。
当時は働き方改革なんて言葉は存在しなったので、夜に保育者を見送った後、自分の残務処理をして、11時・12時になるのもざらの毎日を過ごしていました。
転園する方もいる中、保育者の数を増やしたり、外部から保育者に来ていただくために給与の上乗せをするなどをしたたために、運営資金の見直しが必要になりました。
当然ながら、経営陣の給与をまずはカットするところから始めたので、当時の私の給与は、現在の4大出身の保育者よりも手取りは少ないくらいの金額で仕事を続けていました。
保護者から厳しいお言葉をいただくことも多く、保育者が一丸となって楽しく仕事をする雰囲気はありませんでしたが、それでも自分の限界を超えてでも少しでも良い保育をしたいという思いを抱きながら、懸命に保育を続けていました。
最初の年の11月1日
13年前の10月31日、大変な状態の園だったので、願書をもっていって下さる方も少なく、定員割れをすることは想定されていました。
そのため、当時の保育者には「夜からくる方はいないと思う」「人は集まらないと思うよ」と布石を打っておきましたが、内心では、「少しは理解されているかもしれない。今までの向山ファンからは見放されたかもしれないけれど、これからの向山に希望を持ってくれる人はいるかもしれない」と、今思うと恥ずかしくなるくらいの楽観的な気持ちを持ちながら、こっそり夜に何度も見回りをしていました。
当然ながら、だれ一人来るわけもなく、だんだんに空が明るくなってきて、とうとう、保育者も出勤し始めました。
そして、願書受付の締め切り時間が近づいてくるころ、ようやく、ちらほら人が来てみれば、募集の半数ほどしか集まらず、当時の礼拝堂に整然と並べられたパイプ椅子は、がら空きの状態でした。
上層部はもちろん、後に聞いた話では、1年目の保育者ですら、「これやばくない? つぶれんのかな?」という話をしていたそうです。
この景色が2年ほど続き、11月1日は、私にとって一年で最もつらく嫌な日になりました。
少しずつ実る努力と変化
それでも、保育者たちの懸命な努力と、少しずつ理解を深めてくれる保護者の方々の支えにより、3年、4年と時間が経つうちに、少しずつ入園希望者が戻ってきました。
こども園への移行や設備投資など、ありとあらゆることを死に物狂いで改革していく中で、入園希望者が増え、定員を超えてくるようになりました。
入れなかったことで悲しい思いをされた方も出てきてしまい、理解していただいている方が入れるよう制度設計の工夫を重ね、並ばずに入園できる優先枠を作るなどの改善を行いました。
説明会には多くの方々が集まってくださるようになり、園の保育方針や取り組みを多くの方に伝える機会も増え、いつしか、11月1日は、活気に満ちた忙しい日になっていきました。
変わらぬ緊張感と感謝の気持ち
今年も朝早くからキャンセル待ちでもいいから来園したいとのお申し出があり、4時ころには暖房をつけて、お待ちしていました。
4時半ごろ、お父様が駐車場においでになり、室内にご案内するときに、キャンセル待ちになってしまうかもしれないとのことを改めてお伝えしましたが、それでもいいということで、寝袋まで持参してくださっていたとのこと。
向山に来てくださった方に、外で待っていただくなど到底あり得ない話なので、室内にご案内し、お待ちいただくことになりました。
優先枠の登園締め切りである9時には、すべての席が埋まりました。
皆様にご挨拶させていただく際、向山の理念に賛同し、大切なお子さまを預けようと決めてくださった保護者お一人お一人の目を見ながら、感謝の気持ちで胸がいっぱいになり、思わず涙が出そうになりました。
日々の保育者の頑張り、子どもたちの生き生きした表情、在園児や卒園児の保護者の方々の支えがあってこそ、迎えられる11月1日。
この日が今では多くの方の期待に満ちた一日となっていることに、言葉では言い尽くせない感謝の気持ちでいっぱいです。
忘れない過去の試練と前進への原動力
とはいえ、11月1日は常に気が抜けない、張り詰めた一日であることに変わりはありません。
十数年前、空席だらけの礼拝堂を目の当たりにした光景は、今でも私の記憶に焼き付いており、決して忘れることはできません。
むしろその経験があったからこそ、今も気を緩めず、より良い保育を提供しようという思いを持ち続けられるのだと思います。
あの厳しい試練の時期が、今の私や園の姿勢を支えている原動力になっているようにも思います。
今年も多くの方に入園希望をいただくことができましたが、これに甘んじることなく、引き続き最高のクオリティで保育を提供できるよう、日々の保育をしっかりと組み立てていきたいと思っています。
そして改めて、入園を決めてくださった保護者の皆様、在園、卒園の子どもたちと保護者の皆様、すべての保育教諭の皆さん、様々な職種のスタッフの皆さん、園に関わるすべての方々に深い感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。
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