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自分で立ち上がる力~年長児が見せた葛藤と成長のエピソード~
今日は、年長のリトルフェスティバル(発表会のようなもの)で起こったエピソードについて書いてみたいと思います。
初めて他のクラスの子どもたちを招いて、自分たちの劇を披露するという特別な日。その中で、子どもたちの思いがぶつかり合いながらも、互いを思いやり、成長していく姿に心を打たれたので、記事にしてみたいと思います。
感動した私の思いが、文章に乗るといいのですが…
照明を巡るトラブルと涙
ある男の子が自分の出番ではないときに照明を担当し、舞台下から友達に光を当てていました。
その姿はとても生き生きしていて、自分がやるんだ!という使命感を持って取り組んでいることが伝わってきました。
しかし、そこへ別の子がやってきて照明をやりたそうにしていました。そして、照明を握っている男の子から取るような形で揉め始めました。
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保育者が間に入り、お互いにどうしたいのかを話し合いましたが、すぐには解決に至りません。
そんな中、照明を担当していた男の子の出番が来てしまい、彼は照明を続けることができず、1人でやりたかったのに…という状況に…。
彼はその場を離れ、柱に頭をつけて静かに泣き始めました。
クラス全体を巻き込んだ対話
この様子に気づいた保育者は、ドッジボールの同じグループの子どもたちに声をかけ、「このままでいいのかな?」と問いかけました。この言葉をきっかけに、話はクラス全体へと広がっていきました。
男の子は、声をかけられても口を開くことなく、ただ静かに泣いていました。彼を取り巻く子どもたちは困惑しながらも、どちらの気持ちもわかるようで、どうすれば気持ちを立て直せるのかを必死に考えていました。
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グループで話し合っても解決の糸口は見つかりません。
この場面を見たナレーター役の子どもたちが機転を利かせ、「今は劇を続けることができないので、みんなで歌を歌って待ちましょ~!」とお客さんに提案しました。
突然始まった歌の時間に、お客さんで来ていたほかのクラスの子どもたちも楽しそうに加わり、会場はむしろ大盛り上がりで楽しい時間を過ごしていました。
ナレーターの子どもたちは、曲が終わるたびに、話し合いの様子を見に来て、話し合いが終わっていないと見ると、さらに別の曲を提案し、場をつなぎます。
彼女らの主体的な行動とリーダーシップに驚かされました。
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クラス全体で寄り添う姿
その後、グループだけでは解決が難しいと判断した私たち保育者は「クラスで一度話をしよう」と子どもたちに提案しました。
この時点で11時半を過ぎていたので、おなかもすくし…ということで、お客さんの子どもたちには部屋に戻ってもらうことにしました。
クラスの子どもたちは話を聞き解決策を模索する一方、泣いている男の子の元へ行き、背中をさすったり、そっと顔をのぞき込んだりしながら、優しく寄り添い続ける子もいてくれました。
クラスの話し合いでは、「プレゼントをあげたらいいんじゃないか?」という提案が出ると、照明をもう一度やらせてあげるために、延長コードをぎりぎりまで引っ張ってきて、照明を彼の近くまで持っていったり、タイムキーパーの子が持っていた砂時計を渡そうとする子がいたりと、それぞれができることを一生懸命考えてくれました。
90度体を回転させた勇気
それでも、彼はすぐには気持ちを切り替えることができません。
保育者は「みんなが考えてくれていることを受け取ってほしい」と伝えましたが、彼は柱にしがみついたまま。膠着状態に、保育者も困惑気味…
ところが、その少し後に、彼はゆっくりと90度体の向きを変え、みんなの方を見たのです。その横には、ずっと寄り添っていた女の子の姿もありました。
私はこのシーンをちょうどカメラを構えて撮影していたのですが、本当感動しました。
彼はきっと、自分のためにみんなが動いてくれていることを聞いてわかっていたと思います。でも、それをすぐに受け入れるのが難しく、気持ちの整理に時間が必要だったのだと思います。
そんな中で、みんなの方を見てほしいという保育者の声掛けをきっかけにしながらも、彼は自分でその一歩を踏み出し、みんなの方を向いたのです。
引っ込みがつかなかったり、気まずさだって感じるこの年齢の子どもたち。その中で、ずっと柱を向いていた体を90度動かすのは、きっととても勇気が必要だったと思います。
本当に、素敵でした。
自分たちで劇を再開する
しばらくすると、彼は「今日は見ているだけにする」と自分の気持ちを保育者に伝えてくれました。クラスのみんなにそれを伝えると、「じゃあ、劇の続きをやろう!」と、それぞれの持ち場へ戻っていきました。
この時、お客さんは当然いません。
ところが、驚いたことに、子どもたちは自分たちでお客さんを迎えに行き、「これからやるよ!」と伝えて全員を呼び戻しました。
もちろん、保育者同士もこの行動は予想外。劇をしている子どもたちは、自分たちの判断で呼びに行き、呼ばれた子どもたちも自分で判断し、すごい勢いで戻ってきました。
劇の中では、お客さんに折り紙などをちぎって作った手作りのジュースを配るシーンがありました。
子どもたちは嬉しそうにジュースを配り、お客さんもそれを受け取って楽しそうに劇を見ていました。
そして、泣いていた男の子は審判役としての出番を迎え、まだ完全に元通りではなかったものの、小さな声で「アウト」「セーフ」と言っていたそうです。
最終的に、彼はボールを拾ったり、飲み物を並べたりと、少しずつ行動を取り戻していきました。
そのさなか、他の子とも協力して、一緒にジュースを回収するなど、気持ちを立て直していきました。
彼も素敵でしたし、その立てなおっていく様子を、ごくごく自然に受け入れてくれたクラスの子どもたちも素敵でした。
そして、最後にみんなで歌を歌うシーンでは、彼も舞台に立ち、歌っていました。
子どもたちの成長に感動
この出来事を通じて、私は改めて、子どもたちが主体的に対話し、成長していることを強く感じました。
保育者は必要な場面で細やかなアシストをしたり、問いかけをしたりしましたが、子どもたち自らが考え、自分たちで行動していました。
クラスの仲間を思いやり、時間がかかると判断して即座に行動を起こしたナレーターの子どもたち。
ずっと寄り添い、励まし続けた子どもたち。
そして、最終的に自分の力で気持ちを切り替えた男の子。
それぞれの成長が詰まった、素晴らしい瞬間でした。
この経験が、これからの小学校生活、そしてその先の人生においても生かされることを願っています。どんな状況でも、相手を思いやりながら、自分なりの方法で向き合う力。それを持っている子どもたちは、本当に頼もしい存在です。