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ルールを負担と思う前に―上司が伝えたいその意義―
若手や中堅の皆さん、職場で日々いろいろなルールや指示にうんざりすることはないでしょうか?
「なんでこんなに細かいんだろう?」「自由にやらせてくれればいいのに…」とモヤモヤしたことは誰でもあると思います。
仕事は、自分の考えたようにやりたいものです。
それなのに、なぜ上司はルールを作るのでしょうか?
今日は上司の側から、なぜルールを作るのか? ということや、ルールにはどのようなものがあり、使い分けているのかということについて書いてみたいと思います。
上司がルールを作る意味
上司は部下の気持ちは知っている
上司がルールを作ることを部下が嫌がるのは、どの上司も知っています。なぜなら、自分も部下だったことがあるからです。
私も、部下の立場だった時には、「上司は自分の思い通りにやりたいだけなんでしょ?」なんて、生意気にも思ったことがあります。
また、ずいぶん前にとった職場のアンケートでは、若い職員に「職員のことを駒としか思っていない」と書かれたこともありました(苦笑)
しかし、上司の立場になってみると、ずいぶんと見える風景が変わります。自分の思い通りにやりたいのであれば、自分でやるのが一番早いものです。部下に仕事を振って、フォローしながら見守り、結果を褒めなければならないなんて、正直、面倒だと感じることも少なくありません。
それでも、職場全体を安全かつ円滑に運営するためには、ルールを作ることが欠かせません。時に部下から不満が出ると感じることがあっても、誰かがルールを作らなければ、様々な弊害が起こることが分かっているので、ルールを作るのです。
上司が守りたいもの
まず最も重視されるのは、スタッフの健康と命を守ることです。仕事中に事故や健康被害が起こらないようにすることは、上司としての責務であり、職場の基本的な土台です。同時に、保育の現場では、子どもの健康と命を守ることが何よりも優先されます。この2つは、どのような状況でも最優先かつ徹底されなければなりません。
さらに、けがや事故の影響はスタッフのご家族にも及びます。
もしスタッフが怪我や病気で働けなくなれば、直接、ご家族の生活にも波及してしまいます。職場での安全を確保することは、スタッフのご家庭を守ることにもつながるのです。
特に、ご夫婦であいさつに来てくれたり、ご家族の話を聞いていたりすると、上司として、そのご家族の生活も背負っていると気が引き締まる思いでです。
また、職場全体の運営にも配慮が求められます。
一人のスタッフがトラブルに巻き込まれることで、他のスタッフに過剰な負担がかかる場合もありため、全体のスタッフの仕事の均衡を守ることも、上司の大切な役割だと思います。
上司がルールを作るのは、単に部下を縛ったり、自分の思い通りにするための「駒」なんかのためではなく、全員が安心して働ける環境を構築し、結果的に個々が成長し、組織として子どもたちに最高のクオリティーの保育を提供することができる基盤を整えるためなのです。
ルールの分類とその使い分け
上司は、職場の状況や部下の経験値に応じて、ルールを使い分けています。その際、ルールは大きく3つの種類に分類されます。
ポジティブリスト
これは「許可されているもの」を明示したリストで、やることが決められています。このリストに載っていない行動は許可されていないとみなされます。新人や未経験者の指導時に特に有効であり、安全性や確実性を優先する場面で使用されます。自由度が低い反面、責任や失敗も少なく、リスクが低減されます。
ネガティブリスト
こちらは「禁止事項」を明示したリストで、ダメなことだけが決められます。逆に、それ以外の行動は許可されているとみなされます。柔軟性が高く、自由裁量を求められる中堅スタッフや経験豊富な保育者向けの指針です。ただし、自由度が高い分、責任や失敗のリスクも大きくなります。
ハザードコントロールリスト
これは、ポジティブリストやネガティブリストに関わらず、どの状況でも守るべき安全上の絶対的なルールをまとめたものです。
ハザードというのは、取り除かなければならない危険を意味し、上司としては、全スタッフに対して等しくコントロールしなければならないルールとなります。
一見、ネガティブリストのように見えますが、ポジティブリストの段階にあるスタッフや、どちらのリストで動いているのか明確に理解していないスタッフにとっても、重要な意味を持ちます。
危険を未然に防ぐために厳格に適用され、上司が理由を詳細に説明しきれない場合でも、納得を求めず従うことが求められる性質を持ちます。
この概念は、今まで2つのリストでルールを考えてきましたが、どうしても、2つでは収まりきらないと思い、勝手に3つ目を考えて作ったものです。
中堅保育者の葛藤とリストの適応
経験とリスト適応の変化
ルールは、経験値やスキルによって個々に適用方法が異なります。全体向けのルールはハザードコントロールリストで提示されていますが、声がけに関しては部下によって異なる方法が取られます。
例えば、若手保育者やスキルが未熟なスタッフには、「まずは○○をしてね。その後、□□をして、できたら教えて」といったポジティブリストで伝えることが一般的です。
一方、経験豊富なスタッフやベテランには、「△△だけは気を付けてね」といったネガティブリストだけを提示する場合もあります。このように、声がけの内容は対象者の経験値やスキルに応じて調整されるのです。
中堅保育者の葛藤
中堅保育者は、業務経験を積む中で、自ら判断し柔軟に対応する力を身につけていきます。
保育の上ではネガティブリストに基づく仕事、つまり「禁止事項を避け、それ以外は自由に行動する」というスタイルに慣れた保育者は、日々の業務を主体的に進められるようになり、職場の中で欠かせない存在へと成長していきます。
しかし、その一方で、新しい業務を任されたときに葛藤が生まれることがあります。新しい業務では、多くの場合ポジティブリストが適用されます。「これをやってください」と具体的な指示を受け、それ以外は行わないという制約があるため、自由度の高いネガティブリストに慣れた保育者にとっては、これが窮屈に感じられることも少なくありません。
中堅保育者は日常的に自由裁量で行動する経験を積んでいるため、「指示されたこと以外をしてはいけない」というポジティブリストのルールに、違和感を覚えることがあるのです。
さらに、上司から指示された内容がポジティブリストに基づくものだと気づかず、ネガティブリストの仕事と同様に「指示されたこと以外も考えて動いていい」と誤解してしまうこともあります。このようなすれ違いは、上司と中堅保育者の間で信頼や連携に影響を及ぼす場合があります。
新しい業務においてポジティブリストが求められる背景には、安全性や確実性への配慮があります。中堅保育者にとっても、まずはポジティブリストに従い、確実に結果を積み重ねていくことが大切です。この過程を経ることで、業務への理解が深まり、徐々にネガティブリストに移行していくことが可能になります。
ルールを見極め、成果を出す
ルールは、一見すると窮屈な制約のように感じられることがありますが、その背景には上司の深い配慮があります。
上司が作るルールは、個々の安全だけでなく職場全体の調和と成長を支える重要な役割を担っています。
ポジティブリスト、ネガティブリスト、ハザードコントロールリストといった指針を理解し、それぞれの意図を正しく受け止めることが、より良い職場環境を築く第一歩となると私は考えています。
ぜひ、ルールを単なる制約としてではなく、成長や安全を支える基盤として捉え、前向きに活用していっていただければと思います。
そして、「ん?」と納得できないことがあったら、素直に質問してみてください。