それは、友達? 仲間?
今日は、ある保育者と話をしていたところ、人間関係をうまく言い表せていないと感じた時のお話。
人間関係をどのような言葉で言い表せば良いか、一緒に整理してみました。このことはとても大切だと感じたので、自分自身の整理のために、記事にしてみたいと思います。
保育者は、人間関係を調整するプロ
保育者は、日々の保育を通じて、子どもたちの人間関係を細かく観察しています。
ただ『仲が良い』『仲が良くない』といった単純なことだけでなく、『一緒に遊びたくても輪に入れないんだな』や逆に『本当は違う遊びをしたいと思っているけれど、気を使って無理に一緒に遊んでいるな』など、非常に複雑な状況も把握しています。
こうした観察をもとに、保育者はそれぞれの子どもに対するアプローチを工夫し、関係性を支えたり、別の関係に移行するように、遊びを誘ったりしています。
『友達』と『仲間』の違いとは
多くの新入園児の保護者から、4月や5月の年度初めに「うちの子、お友達はできましたか?」といった質問を受けることがあります。
この質問には、保護者が心配しないよう、慎重に言葉を選びますが、期待通りの答えではなく「友達はまだできていません」とお伝えすることが多いです。
多くの保護者は、子どもがすぐに友達を作ると考えているようですが、実際に友達ができるというのはそう簡単なことではありません。
友達とは?
保育者にとって「友達」という言葉は深い意味を持ちます。
小学校の歌の「友達100人できるかな~?」のように、多くの人が『子どもは友達をすぐに作れるもの』と思いがちです。
しかし、保育の中で言う『友達』と言える関係は、大好き!や、ずっと一緒にいたい!というような、感情的なつながりがある深い関係を指します。大人で言うと、親友や恋人に近いくらいの好意を持っている相手と思ってもらえるといいかもしれません。
子どもたちが、友達と一緒にご飯を食べる約束をしていて、それを反故にされることがよくあります。いわゆるダブルブッキングをしたり、忘れていたりすることがあるからです。
そんな時、子どもたちは激しく怒ったり、大泣きしてご飯を食べない!と言ったりします。
それはもう、振られてしまったのではないか?と思うほどです。
次の日にはまた一緒に遊ぶのにな…と大人からすると思うのですが、その時その瞬間を生きている子どもたちにとっては、大問題なのです。
どこに行くにも一緒だし、相手が園を休みだと、一日憂鬱そうにしていたりすることもあるくらい、友達というのは子どもたちにとって特別な存在です。
このくらいの関係を、私たちは『友達』と呼んでいます。
仲間とは?
一方、「仲間」という言葉は、共通の目標に向かって集まるメンバーを指します。共通の遊びやプロジェクトを通じて、一緒に遊ぶ『遊び仲間』が生まれます。
大人の場合、会社でいえば『同僚』や、他の会社と協力する『仕事仲間』を想像していただけるとわかりやすいかもしれません。
店と客のような関係ではなく、同じプロジェクトを一緒に進める協働するメンバーとしての仲間は、かけがえのない存在です。
同じように、子どもたちも一緒に遊ぶ機会が増えることで、徐々にさまざまな関係が構築されていきますが、一緒に遊んでいる段階では、まだ友達とは言えません。
仲間は大切な存在ですが、友達ほどの感情的なつながりは希薄で、比較すると深い関係とはいえません。
仲間から友達へ成長する過程
保育の中では、年中や年長の子どもたちが多様な人間関係を経験する機会を設けます。
例えば、似たような遊びをする子どもたちが近くに集まり、自然と交わりが生まれるような拠点を整えることがあります。仲間としての関係から始まり、遊びを通じて徐々に個人的な感情が育まれていく中で、友情が芽生えます。
例えば、あるコーナーで5人の子どもたちが一緒に遊んでいる場面を想像してみてください。
その中でAちゃんとBちゃんが友達、Cちゃん、Dちゃん、Eちゃんも別のグループとしての友達としましょう。
しかし、遊びが進むにつれ、AちゃんがDちゃんに関心を持ち始めたり、BちゃんがAちゃんから離れてDちゃんやEちゃんと一緒に遊んだり、ご飯を食べたりするようになることがあります。
これが起きるにはそれなりの時間が必要にありますが、ゆっくり構築されて行く友達関係が、子どもたちの人間関係を広げていきますし、同時に、人間関係を複雑なものしていきます。
保育者が目指す関係構築の支援
子どもたちが仲間から友達へと成長していく過程を見守り、支援することは、保育者の重要な役割です。
実際、保育の中で「お友達」と「仲間」を言い分けて使うことにより、子どもの現状をより正確に理解し、適切なサポートを提供できます。
仲間であれば、どのように遊びを円滑に進められるか?や、互いのやりたいことを整理したり、折衷案を模索するといったかかわりが多くなります。
しかし、これが友達となると、少々話はややこしくなります。
大人でも同じですが、感情的なつながりがある場合、正論や一般論はほとんど通用しません。
正しさをいくら解説してあげたところで、解決するわけではないのです。
一緒にご飯を食べようと朝から約束していたのに、気が変わってしまって、違う子と食べることになってしまった子どもたちがいるとします。
正論としては、最初に約束した方と食べるとなるのですが、気が変わった方からしたら「だって、こっちの子の方がスキなんだもん」というようなことを言ったりします。
約束は破られるは、振られるは、泣きっ面に蜂ですが、だからと言って、一緒にいさせれば解決するかというと、それは何の解決にもなりません。その時、一時的にでも、壊れてしまった関係なのですが、壊した方は気にしておらず、壊された方が何とか修復したいと思っていることが多々あります。
こんな時、保育者は、じっくり話を聞き、互いが歩み寄れる納得解を一緒に考えていくしかないし、場合によっては、時間が解決するのを待つために、傷ついた方のサポートに徹することもあるのです。
年齢が上がれば、以前の友達や今の友達があちこちにいます。
だからこそ関係は複雑になり、どちらが悪いと白黒はっきりつけられない摩擦があちこちで起きます。
でも、この摩擦こそ、人間関係を学んだり、人との距離感を考えたり、対話をするきっかけになったり、自分の気持ちを立て直す方法を学ぶ大切な機会でもあります。
言葉の使い方を大切にし、子どもたちの関係性を正確に言い分け、保育者同士で現実を共有することは非常に重要です。
『友達』も『仲間』も似たようなものと見られがちですが、人間関係を調整するプロとして、子どもたちの心に寄り添うためには、これらの言葉をしっかりと使い分ける必要がある重要な概念だと感じています。
友達100人はありえない
子どもは、その場にいる子ともなんとなく遊べてしまうことから、たくさんの友達を作っているように見えますが、現実には、本当に深い友達の数は3人から4人程度のことが多いようにおもいます。
もちろん、非常に社交的な子どもが多くの友達を持つこともありますが、基本的には大人の人間関係と同じく、子どもたちも限られた範囲で深い関係を築いていると考えています。
保育の中では、友達と仲間が違うものだと認識したうえで、子どもたちの人間関係を深く理解し、成長を支えることが重要です。
こうした視点を持つことで、保育者は子どもたちの本質的な姿を見つめ、適切な関わりを持つことができると思います。
言葉一つ一つに意味を込め、子どもたちがいろいろな体験ができるように、サポートしていきたいと思っています。