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保育の質を支える教材作家さん
保育者に対する一般的なイメージとして、「ピアノが得意で絵や工作が上手」と思われる方が多いかもしれません。しかし、現実には全員がそうであるわけではありません。何を隠そう私は、絵も描けなければば、ピアノもバイエル終了したくらいで保育者になったものだから、とても苦労したうちの一人です。
近年、働き方改革が進む中、保育者がどんな業務を担っているかを分析し、分業を進めてきました。今日は、保育における分業の一環として、教材やおもちゃの制作を担う「教材作家さん」についてお話しします。
保育者が教材を作るということ
保育現場では、子どもたちの創作活動や遊びを支えるために、多くの教材やおもちゃが必要です。しかし、その準備には多くの時間がかかります。
特に高いクオリティを維持しつつ、限られた時間内で仕上げることは、保育者にとって大きな負担です。さらに、教材準備が苦手な保育者にとっては、その負担感は一層増すことになります。
保育者の役割を突き詰めると、子どもたちとの直接的な関わりやサポート、そしてケアを行う『人的環境』としての側面が強調されます。そのため、保育者はかかわり方を振り返る時間を優先したくなり、教材の準備が後回しになることもしばしばです。
もちろん、子どもとのかかわりが最優先であることは間違いありません。しかし、教材やおもちゃの準備が整っていないと、子どもたちが主体的に遊びを展開することが難しくなります。結果として、教材の準備が保育の重要な課題の一つであることが浮き彫りになります。
向山こども園における教材作家の導入
向山こども園では、教材やおもちゃの制作を「教材作家さん」に委託しています。
教材作家さんには、園内で放課後に課外教室をしている造形系のアーティスト団体に依頼し、保育者が考案した子どもたちの興味に応じた教材や素材を作成していただいています。
教材というのは、たとえば、牛乳パックや新聞紙、画用紙を使って新幹線や車を作ったり、ペットボトルを使って子ども用のバッグの原型を制作したりしたものを指します。
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おもちゃや教材は買うことももちろんできるのですが、子どもたちが自分のものにしたり、制作遊びをするための土台になるようなものは、意外と売っていません。
例えば、ペットボトルを使ったバッグなどは、切り口が鋭利になり危険性があるので、ビニールテープで覆う必要があります。こうしておくことによって自分で装飾をしたオリジナルバックを下げて、いろいろな遊びが展開できます。
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また、病院ごっこで絆創膏に見立てるビニールテープをアクリル板に貼っておいたり、画用紙を適切な大きさにカットして置いたり…。
やることは年間を通じてたくさんあります。
これらの作業を、教材作家さんたちは、見事なクオリティーで素早く仕上げてくださいます。
こうしたプロによる作業は、高品質かつ安全性の高いものを提供し、子どもたちの遊びや学びを豊かにしています。
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教材作家がもたらす効果
教材作家さんは、基本的に園内の子どもの前で作業を行ってくださっているのですが、これは子どもにとって大きなメリットがあります。
自分が使うおもちゃや教材がどのように作られるかを目の前で見ることで、物を大切にする気持ちや、大人の手仕事を学ぶモデリングが促されます。
このような教育的な効果は、保育者が直接行うには難しく、分業による利点が顕著に現れる部分だと思っています。
経営面から見る分業の利点
外部委託することで「保育者がいるのに外注する必要があるのか?」「高コストなのではないか?」という声が聞こえてきそうです。この声は、園内でももちろんありました。
しかし、この声の裏側には、「保育者が教材の準備を残業や持ち帰り仕事で行うこと」が前提である場合が含まれていると思います。であるならば、それ自体、大きな問題です。
働き方改革が進む現代において、保育者のサービス残業や持ち帰り仕事を求めることは、保育者の負担を増やし、現在の、そして将来的な人材不足に繋がりかねません。
また、保育者の人件費が上昇する中で、125%の残業代を支払うことを考えれば、外部委託の方が経済的に見ても効果的です。
教材作家の導入による多方面の効果
教材作家さんの導入は、単に保育者の負担を軽減するだけではなく、子どもたち一人一人にカスタマイズされた教材を提供することで、保育の質を向上させています。
また、アーティストさんやクリエーターさんに新しい仕事の場を提供することにも繋がり、保育環境全体の向上に寄与しています。
これからの保育現場において、こうした分業の仕組みはますます重要な役割を果たしていくと思っているので、拡充していきたいと思っています。