ママはコミュニケーションお化け 第四話
「資本」
10月20日
今日も日がな一日、アルバイトの千代さんが境内の掃き掃除や参拝客の対応をしつつウララの世話をしてくれた。そして、6日かけてやっとこさといった塩梅で、日が暮れた頃にひと部屋を片付けた。
私は、寝室に行こうとするウララを呼び寄せて、例の部屋の前まで連れて行く。
「私のために部屋を…?」
「ああ、そうだよ。まだ少し埃っぽいが幾日風を通しておけば…好きに使って構わないよ」
「そうか、あの本たちはここを開けるために移してたのだな!」
ウララは、そろりと部屋に足を踏み入れた。
「おぉ、おおお!これは偉大なる一歩…」
まるで、ネコが慣れない部屋のなか安心できる場所を探すようにしている。動かせなかったので、空っぽな本棚、引き出しに何も入ってない机。それらを目を輝かしてうっとりしている。我ながら小学低学年が持って良いものじゃないと思うし、そういう反応を子供がするものだろうかと思う。
「……ダヴァイ」
ウララは興奮しながらブツブツと沸き立っている。
「一人部屋が良い年頃だろうとね、それじゃあ布団を持ってくるから、今日からここで寝起きすると良い」
「うむ!」
あの子が来て、数えて6日目。
やっと、この寝室に一人静かな静寂が…。
しかし、どうもあの気配が拭えない。宮司として、神仏のみ前へ出る仕事で慣れっこだと思ったが、ああもはっきりと「ウララをよろしく」と言って、肩に手をおいて姿を消したのだから…。
布団を被り、天井を見ていると『厄払い』ではないが、あの子には日中寺子屋へ行ってもらおうかと思いたった。
疲れの波が身体を洗い流すように、意識が遠のくなか、あれから姿を見せない母親に“神託”よろしく、お伺いを立ててみようと思ったのであった。
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