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春を背負って

幸せのカタチって、人それぞれ。

家族がいたり、彼氏彼女を作ったり、家を買ったり、車を持ったり、たくさんお金を稼いだり。

でもさ、人付き合いとは遠いところで、形に残らず、生活の足しにならない幸せもある。

雪で覆われた真っ白な山頂に座って、遠くの景色を眺めていた。

世界と山頂の境界線から、自分と同じ登山者が遠くのほうから、いく人も小さく顔を出す。

下を向きながら、ゆっくりゆっくり、こちらに向かって登ってくる。

その後ろには、名残惜しそうに雪をかぶる山々が両手いっぱいに広がっていた。いまは春。この時期、山の斜面の雪は解けて、あちらこちらから森や土が顔を出す。

空は絵の具をこぼしたような青一色。山肌にもそれが反射して、幾重にも重なる山々は全体的に青味を帯びている。

太陽からの日差しが強くて、サングラスなしではいられない。景色が霞んで見えるのは、きっと気温が高いからだろう。いわゆる春霞というやつだ。

そんな春らしい山々の光景を背後にして、ゆっくり登ってくる登山者たち。

その一人ひとりが、なんだかとても大きな春を背負っているように見えた。

麓では桜が咲いていた。都内はすでに散ってしまったけど、雪国では今が見ごろだ。香りのいいフキノトウも顔を出して、数日後には可憐なカタクリの花が足元に咲き乱れる。

雪解けの春。芽吹の春。寒さが和らぎ、何かが始まりそうでワクワクする春。

さまざまな春を背負って小さく見える登山者たちが、みんなとってもカッコいい。

そして、たっぷりの日差しを浴びながら、まるで美術館に飾られている絵画のような一枚絵を見ている自分は、このときとても幸せだった。

清々しくて、なんだかすごく気持ちがいいなぁ。

春、雪国の山に登ると、いつもそんな気分にさせてくれる。友達が少なくても、パートナーがいなくても、十分な貯蓄がなくても、それはそれでいいじゃない。山の上で感動して、そんなひとときが幸せだ。

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