山が教えてくれたこと

山にまつわるあれこれ。たまに仕事も

山が教えてくれたこと

山にまつわるあれこれ。たまに仕事も

最近の記事

指先で魔法が使えたら

空に人差し指を立てて、反時計回りに勢いよく円を描いてみた。 ヒューイッ、ヒョイ。 爪の周りに風が起きて、世の中のすべてを書き換えられそうな気持ちになる。 家族のこととか、将来のこととか、地球のこととか、周りのこととか。 世の中はシンプルじゃない。さまざまな思惑や意見や状況が混沌として、ぐちゃぐちゃになっている。 それを指先ひとつで絡め取り、ヒョイっと一掃できたら、どれほどのラクか。 爪に感じる涼しさだけが、現実を夢物語に誘ってくれて、同時に虚しさを指先に残していっ

    • 大きい箱と小さい箱

      仕事机のPCモニターに取り付けていた外付けのwebカメラが突然壊れた。内蔵マイクが機能しなくなり、こちらの声が相手に届かなくなったのだ。 仕事用のPCにはMac Airを使っていて、家ではそれを大きなモニターにつなげて作業している。ノートPC本体のカメラとマイクは生きているので、外付けのwebカメラがなくてもオンライン取材などは可能なのだけど、その度にノートPCを開いて小さな画面で仕事をするのは効率が悪い。 仕方なく、新しいものを購入するために、近所の家電量販店を訪れた。

      • ポエマーな甥っ子

        姉の甥っ子は中学二年生。今どきの若者らしく、YouTuberに憧れる不登校児。最近は学校へ行かない子供が増えていると数日前に見たニュースが伝えていた。 一口でYouTuberと言っても、登山系や考察系、料理系など、さまざまなYouTuberがいる。 その甥っ子に「どんなYouTuberになりたいの? 」と聞くと「ゲームの実況系」と返ってきた。それは、ひたすらゲームをプレイしながら実況し続けるYouTuberだそうで、彼はそういうゲームの実況動画を見ているのが好きらしい(ち

        • 動画と本のタイパについて

          最近、書くだけじゃなく動画に出て話す仕事も増えた。紙媒体の衰退が止まらない今、こういう案件で声をかけてもらえることは嬉しい限りだ。 でも、自分は本が好きで、少なくもライターを名乗っているので、読み物には読み物の良さがあると思っている。 昨日、お風呂に入りながら、数日前に収録した動画が公開されていたので、出来映えを確かめたくて見てみることにした。 動画の長さは約40分。話しているテーマは、一緒に動画に出ている人の自己紹介。MCがその人の経歴やいまの仕事などを深掘りする内容

          探し人

          取材先へ向かう途中、バスを待っていたら、見覚えのある後ろ姿が目に止まり、まさかと思って目が釘付けになってしまった。 記憶の中のその人は、背丈は170cmくらい、背中は広く、足はガニ股気味、頭は白髪がいつも短く切り揃えられていて、肌は健康的に焼けた小麦色、腕や手や顔には人生の重みを感じる皺が目立つ。 目は細く、眼光は鋭く、一見気難しそうな人に印象を受けるけど、挨拶をするとちょっと背を丸めて、くぐもった声でいつも気さくに話してくれた。笑うと細い目がさらに細くなり、口角が上がり

          山登りの可能性

          胸が躍り、いてもたってもいられない、そんな登山に憧れる。 それには、対象が必要だ。行きたい、登りたい、遡行したいという、どんな力をもってしても御し難い激しい衝動に駆られる対象が。 水無川北沢、真沢、村杉半島、飯豊本流、利根川本流などが浮かぶが、もっと何かできるだろう。既存のルートではなく、豊かな発想から生まれる、個性的で、独創的で、もっと魅了的な行程が、きっとどこかにあるはずだ。 今日、久しぶりに地形図を眺めて、安心感という甘美な誘惑で打ち寄せる情報や過去の山行記録など

          継続は力なり

          38歳になって、生まれて初めて懸垂が10回できた。 筋トレは大嫌いで、継続しようと決意する→仕事の忙しさや飽きなどが原因でやらなくなる、を何度も繰り返してきた。 そして生まれて38年目の今、コツコツと懸垂を続けられていて、ひとつの目標がようやく叶った。 飽きずに続けられている理由は、周囲から受けた刺激が大きいと思う。とくにクライミングが上手な人との出会いは影響が大きかった。 いまの自分よりレベルが高い人と出会うと、もっと頑張ろう! という気になれることを忘れていた。

          とても優良な参考資料

          原稿執筆は試行錯誤の繰り返し。興味を引くタイトル、キャッチ、見出し。飽きのこない全体の構成。読みやすくてグイグイ引き込まれる文章。 そのすべてがパパーっと脳裏に浮かんでくればいいのだけど、そんな才能はないわけで……。 毎回キーボードに向かいながら、頭を抱えるのが定番のルーティーン。 そんな苦しみから脱するために、というわけではないけど、最近いい参考資料を見つけた。 ほとんどの家庭にそれはあって、見るのは無料。しかも毎日毎日、違う内容のに出合えるから、これを活用しない手

          とても優良な参考資料

          山で遭難しないために意識していること

          このあいだ、山の遭難に触れる記事を書いた。その内容が暗いとの意見を頂いたので、ちょっと反省。 批判で終わらせず、どうしたら遭難しないで済むか、自分なりの考えをまとめておく。 実は、筆者はかれこれ20年近く登山を続けているが、一度も遭難したことがない。山に登る頻度は、ほぼ毎週。回数の割に遭難経験ゼロというのは、ちょっとした自慢である。 ただ、遭難しかけたことは何度もある。 たとえば、日帰り登山でのこと。甘く考えてヘッドランプを持たずにいたら、予定よりも下山が遅れて、日暮

          山で遭難しないために意識していること

          お先、真っ暗

          YouTubeはよく見るけど、登山系チャンネルはほとんど見ない。だからか、登山の遭難啓発系チャンネルというのがあって、一部で問題視されていることも知らなかった。 遭難啓発系チャンネルとは、山岳遭難の事例をいくつも紹介しているチャンネルのこと。 そこにアップされているいくつもの動画には、過剰に恐怖心を煽る言葉と顔にモザイクをかけた気味の悪い写真がサムネイルに使われていて、かなり目を引く。 そして、本編はAIによるナレーションに沿って、イラストと適当な写真、地図などを使い遭

          仕事の単価はどう決める?

          webの仕事で、1記事いくらでお願いできますか? と聞かれたら、なんて答えたらいいだろう。 文字数にもよるけれど、5000円じゃ安い気がする。では、3倍の1万5000円だったらどうか。自分が書く原稿に、そんなに価値はある? 自分の仕事に対する単価は、簡単に決められない悩みではないでしょうか? 仕事を教わった先輩に相談したら、かかる時間で考えればいいと教わった。 たとえば、年収600万くらい稼ぎたいとする。一月50万。一ヶ月20日働くとして1日2万5000円。欲張って3

          仕事の単価はどう決める?

          春を背負って

          幸せのカタチって、人それぞれ。 家族がいたり、彼氏彼女を作ったり、家を買ったり、車を持ったり、たくさんお金を稼いだり。 でもさ、人付き合いとは遠いところで、形に残らず、生活の足しにならない幸せもある。 雪で覆われた真っ白な山頂に座って、遠くの景色を眺めていた。 世界と山頂の境界線から、自分と同じ登山者が遠くのほうから、いく人も小さく顔を出す。 下を向きながら、ゆっくりゆっくり、こちらに向かって登ってくる。 その後ろには、名残惜しそうに雪をかぶる山々が両手いっぱいに

          やる気に水を掛けないで

          登山を何年も続けていると、ついつい初心者の気持ちを忘れてしまう。 初めて登る山はどこがいい? 道具は何がおすすめ? そんな質問をされても、どこでもいいじゃん、なんでもいいじゃん、なんて乾いた言葉しか出てこない。 そんなそっけない態度でも、答えはあながち間違いではないし、別にいいじゃんと思っていた。ところが、たまたま初心者の気持ちを思い出す機会があったので、考えを改めようと内省した。 一歩も家から出ず仕事の虫になっていたある日の夜。無性に体を動かしたい衝動に駆られたので、

          やる気に水を掛けないで

          春の雪山は暖かいぞ

          雪山に登っていると口にすると、すごいですね! なんて言われることがある。普段、山に登らない人だけじゃなく、雪がない時期に山を登っている人にとっても、雪山はハードルが高い遊びに映るみたいだ。 雪山は夏山より環境が厳しい。真っ先に脳裏に浮かぶのは、凍てつくような寒さではないだろうか? 猛烈な吹雪のなか、じっと強風を耐え忍び、顔の周りには霜が付着している。そんなようすを思い浮かべる人が多いのかもしれない。 そして、装備が不十分だと、凍傷にかかって指などを切断するはめになる。さら

          春の雪山は暖かいぞ

          書けるから詳しいへ

          ライターは文章を書くだけでなく、編集作業に関わることも多い。 ついこの間、雑誌である山域を紹介するページの編集を任されたとき、その山域に詳しいライターさんがいたら、原稿はその人にお願いしようと考えた。 ところがである。願いは叶わなかった。全然いないのである。グーグル、フェイスブック、インスタグラムなどで検索しても、いい人が見つからない。 ゼロではないけど、既にほかの媒体で書かれていたり、よく名前を拝見する人だったり、できれば違う人、新しい人材を発見したかったのだけど、あ

          書けるから詳しいへ

          正しい正しいと言うけれど

          正しい、という言葉につい反応してしまう。正しいザックの背負い方、正しいウェアの選び方、正しいテントの張り方、正しいピッケルの扱い方ー。世の中にはたくさんの正しいが溢れている。 最近は、正しい山の歩き方、というのをよく目にした。 しかも、よく目にしたと書きたくなるほど、たくさんある正しいは、ひとつのテーマに対していくつも存在することがある。あっちにある正しい山の歩き方と、こっちにある正しい山の歩き方は、内容が微妙に違う、なんてことは珍しくない。 そんなとき、いつも思ってし

          正しい正しいと言うけれど