うつ病患者が「響け!ユーフォニアム3」を観る ~「日常」の解体と再構築の可能性~
今回は、今年6月に完結したアニメ
「響け!ユーフォニアム3」についての感想記事だ。
「響け!ユーフォニアム」は
喜多宇治高等学校の吹奏楽部を描いた青春ドラマだ。
2015年にアニメの1期が放送され、
劇場版や特別編をはさみながら、主人公の黄前久美子たちの
高校3年間の吹奏楽部での活動を描いている。
今年の4月から始まった3期は、
黄前久美子たちの3年生編、完結編にあたるエピソードだ。
この作品を観たきっかけは
山田尚子作品を全て観返していたときに知ったことだ。
山田尚子の作品には前々から興味を持っており
今年の8月には新作「きみの色」が公開される。
そのため山田尚子のフィルモグラフィーを調べていたところ、
アニメ1期のシリーズ演出を
山田尚子が担当していたことを知り観始めた。
それから2期・劇場版・特別編を経て
今年放送された3期はAmazonプライムの後追いで観ていた。
今回の記事は、この3期に焦点を絞って書いていく。
具体的には、3期から新しく登場したキャラクター、黒江真由と
一部ファンの間で話題になった12話の内容
そして13話のラストについての感想だ。
ちなみに原作は全くの未読であることをご了承いただきたい。
さて、今回の3期では12話が一部ファンの間で炎上しているらしい。
具体的には原作の内容とアニメの内容が大幅に変更されたのだ。
3期では、主人公である黄前久美子が部長になり
全国大会金賞を目指すために
府大会・関西大会・全国大会の、大会ごとにオーディションを行い
その都度のベストメンバーで大会に臨む、という
これまでの活動とは違う方針がとられた。
そして、原作の展開では
3期から登場した新キャラクターである黒江真由に
関西大会ではユーフォニアムのソロを吹く座を奪われてしまうが
全国大会のオーディションでは
ソロの座を黄前久美子が取り返す、という内容らしい。
しかし、アニメは違った。関西大会でソロの座を奪われた黄前久美子は
全国大会のオーディションでも黒江真由にソロの座を奪われてしまう。
それでも「これが今の北宇治高校のベストメンバー」と部員に呼びかけ
全国大会では見事金賞を獲得するのだ。
この展開に、一部ファンの間で「原作改変」が起こったとして
炎上しているが
私は原作未読の状態でも、この展開に全く不満を持たなかった。
後出しジャンケン的になってしまうが、むしろ予想の範疇内だったのだ。
それはなぜか。今回の3期では、
新キャラクターの黒江真由の存在と、黄前久美子の進路を主軸に
ストーリーが展開するが、ここで私は
黒江真由=これまで京都アニメーションが築き上げてきた
「日常系アニメ」の総体
進路が決められない黄前久美子=京都アニメーションが
今後のアニメ制作の方向性に迷っている
という見立てを立てて作品をみていたからだ。
そして黄前久美子が黒江真由に勝利して
ソロパートの座を勝ち取ることは、京都アニメーションがこれまで制作した
日常系アニメを更新しなければならないことを意味していたからだ。
しかし、本作のエピソードが進行しても
黄前久美子の進路=京都アニメーションの今後の方向性、を決めるような
決定的なエピソードや展開はなかった。
これは、現段階では、京都アニメーションがこれまで制作した
日常系アニメを更新することは、この作品では出来ない。
そのため、黒江真由=これまでの日常系アニメの総体を超えることは
出来なかった、
という京都アニメーション現在地を宣言するシーンとなったのではないか。
現段階の京都アニメーションは
これまでの「日常系アニメ」を更新することができない。
そのことを黄前久美子のセリフを借りて「死ぬほど悔しい」と吐露する。
そして、以前京都アニメーションに在籍していた
山田尚子のような作品作りに舵を切ることもできない。
作中で、黄前久美子の先輩にあたる鎧塚みぞれが在学する
音大の演奏会を黄前久美子と高坂麗奈が
鑑賞するシーンがあるが、この鎧塚みぞれは恐らく山田尚子の暗喩だろう。
山田尚子は2018年に
鎧塚みぞれを主人公とした映画「リズと青い鳥」を監督している。
黒江真由=これまでの日常系アニメを更新できない。
山田尚子のような作品にも舵を切らない。
このような状況で、本作品のラストは
黄前久美子が教師となって北宇治高校の副顧問に着任することで
物語が閉じられる。
このラストをどう評価するかが問題だ。
単なる、今まで通りの日常系アニメを作っていく、という
京都アニメーションのある種居直りと解釈するか、
それとも、まだ学校という箱庭にとどまることで
日常系アニメの更新を目指すのか。
しかし、かつて「らき☆すた」や「けいおん!」等の
日常系アニメが展開してきた要素は現在殆どがVTunerに吸収されている。
日常系アニメ内の他愛もない雑談は、VTuberの雑談配信に取って代わり
文化祭等のイベントは
ホロライブのマインクラフト運動会等の
イベント配信動画に吸収されている。
それでもなお、日常系アニメの更新を志向する場合は
「日常」というジャンルの解体と再構築が必要となるだろう。
日常系アニメのどの要素がVTuberに吸収され
どの要素がまだ残っているか。
アニメーションというメディアで
日常系アニメがまだ新しく表現できる要素や余地は残されているのか。
それは、今後の京都アニメーションがいかなる「日常系アニメ」を制作する
のかが回答となるだろう。
以上が「響け!ユーフォニアム3」を観終わった現在の感想である。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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