俳句「にじむもの」
春の星にじめる人を母とおもふ
努力をする母を見た記憶はない。口癖は「しんどいよ。せんよ」だった。一方で、仕事や家事のことで不満を言う母の記憶もない。もっともわが家では、家事の半分以上を父が担っていたから、母に不満があろうはずもないが……。記憶に残っているのは、何かに夢中になる母の姿ばかりだ。苺ジャムに凝るとジャムばかり食べきれないほど作る。牛乳パックをつかった椅子に凝って十も二十も作る。お陰でこちらはジャムや椅子のもらい手探しに奔走する羽目になった。
いまの母は特に何をするでもない。特に何を言うでもない。それでも、「ああ、これが母という人だなあ……」というものが、母の全体からにじみ出てくる。
※ この作品は「喜怒哀”楽”の徘介護」(http://haikaigo.com)と同時掲載といたします。