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俳句「一欠片のアイデンティティー」

鰯雲ひとひら母の中のわれ

 母はどのくらい私のことを認識していたのだろうか。亡くなる前の1年ほどは、1日のうちの1,2時間いや、2日のうちの1時間ぐらいだったかも知れない。母の記憶に確かに刻まれていたのは、亡くなった祖父母と父ぐらいだったかも知れない。

 人は他者からの認識によって、はじめて自分足りうるという。アイデンティティーを支えているのは他者からの認識なのだそうだ。その他者からの認識の中で母の認識は、それこそ数百片もある鰯雲の一片にすぎなかっただろう。

 母が亡くなって、私のアイデンティティーの数百分の一が消えた。たった数百分の一だが、私とっては何ものにも代えがたい数百分の一だった。

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