山本周五郎「季節のない街」

「季節のない街」は、貧民街に住む様々な人々を描いた15編の短編からなる。

筆者は第三者目線でその街に住む人々を描写しているから、なんだか筆者がミニチュアで存在している「街」を上から観察して、その小さな箱庭で実際に生活する各種人間たちに起きている事象を書き起こしているように感じる。
そうすると、読んでいるこちらもだんだんと頭の中にその「街」がぼんやりと浮かんでくる感じがして、とてもよかった。

あとがきの言葉を借りると、「悲喜劇」が色々と起こるのだけれど、不条理やどうしようも無いこととか、はたまた小説みたいな痴情の面白話とか、自分と普段かかわっている人たちも見えない所でそれぞれの苦しみや悲しみ、如何ともし難い出来事に頭が痛くなったりしているのかもしれないなと思った。

「よかった」という感想の中に、「楽しい」とか「面白い」という感情がまったく入り込まず、どちらかというと読後暗い気持ちになる本だと思う。けど、久しぶりにすごいよかった本だった。

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