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小樽百鬼夜想曲 捌

第8章 グッバイ小樽

2024年8月23日~25日
人生初、北海道•小樽へ
音楽と魂の旅路の記録である


出発

8/25
5:15
夏の朝は早い もう外が明るい
衣類や身の回りのものをまとめ 荷物をしまう
銭湯セットだけ すぐ取り出せるようにして、リュックを手に持つ
寝静まる屋内を 可能な限り静かに玄関へ向かう


カチャカチャと コーギーの「ハグ」の歩く爪の音がする
空になったベッドの様子を見に行ったみたいだ靴を履いていると 爪音が近づいてきて
傍らに置いた大きなリュックの匂いを嗅いでいる

頭を撫でさせてもらい 声をかける
「元気でね またね」

玄関先のベンチには看板猫の「モモ」がいた 別れを告げる
「達者でね 良い日々を」


階段を下り 振り返る
ありがとうございます また来ます

緑の蔦が目印の 小さくも安心できる宿


鳥居の前を小樽公園へ向け曲がる
夜と朝では 同じ場所でもまるで景色が違う

線路の上を橋が架かる 欄干は鉄で赤い錆が目立つ
それでも歩く体を支えてくれる 心強い鉄の橋

「南小樽駅」方面を臨む
右に映る赤いレンガ調の可愛らしい建物は交番である


公園通りを「小樽公園」方面へ向かう
一昨日の夜にも歩いた道だ


振り返る 日が昇ってくる
道沿いに教会があった

市内にはいくつもの教会がある

小樽からウラジオストクまで
直線距離だと740キロ
東京までだと840キロ
昔から、海の向こうはすぐ異国で
教会が多いのも 地理的な理由かもしれない

街の何もかもが 朝日に洗われていく


月も 白む空で静かになる


私「いつもどの辺にいるの?」
守「教えなーい」

自販機で炭酸を買った
やはり「北海道限定」の言葉に弱い

「キリン ガラナ」
こういうジャンクな味好き めちゃ旨い


急坂を上り公園へ入る
銭湯はここから 公園を越えた反対側の位置にある

園内には、いくつかの記念碑や 美術作品が点在しているようだ

「炎の塔」
作品の傍の碑には「尖」の文字

尖さんや、金谷さんへ もっとしっかりとお礼を伝えたり
ゆっくり話せたら良かったのに とも思ったが
今はその時ではなかったのだろう いずれ、また

会えるその時まで、長生きしよう



早朝練習

公園を進むと木々が拓けて球場が現れる
たくさんの人の気配がする 活気がある声
マウンドには、早朝の野球をしている人たち

朝練なのだろうか それとも練習試合だろうか

選手たちは皆 大人である
社会人の草野球チームのように見える


朝練…早朝の野球…
野球が好きな人には 悪い話だが
私には思い出したくない記憶がある



幼いころ
日曜の朝は決まって
野球の早朝練習があった

田舎の子ども会 例外なく子どもは
少年野球のチームに加わることが決まっていた

運動が苦手で やりたいと思ったことはない私だが
行かざるをえない理由があった

兄たちが参加していたのもあったが
何より、父が少年野球のチームの監督だったのだ

子どもには拒否権などない

無類の野球好きである父は 熱心に指示を出す
「球を捕れ」やら
「バットへ当てろ」やら
私は、うまく応えることができない


父は苛立ち さらに強い要求を出す 語気も強くなる
「もっと速く動け!」と
「できるようになれ!」と
だが、やっぱり私にはうまく応えることはできない


チームメイトから降り注ぐ冷たい視線と
広いグラウンドに響き渡る怒号
「やる気がないなら帰れ!」
誰も助けてはくれない中
私には1人で帰る決断もできない


仲良し連中が集うチームの端で 肩を落とし
一秒でも 早くこの時間が終わるように念じる

泥まみれで 血と汗と涙に震えながら 呼吸もうまくできない
怯える自分が壊れないよう 耐える日曜日の朝
今思えば、親としての期待からのシゴキだったのだろうが

私はこの時間が心の底から大嫌いだった



そんなことがあっても
今では野球に限らず
人が好きなものを否定はないし
心のありようや生き方は それぞれのものだ
そう考えられるようになれたので 成長したなと思える


人間 変わるものだから


…ただまぁ、今年の年明けに
父とは大喧嘩して「もう2度と帰ってくるな!」と言われたし

チェーンソー持ったままブチギレていたので
スタコラさっさと逃げました

ああ…無理なものは無理だし
付き合いきれないものもあるんだなと
改めて理解



私「嫌なこと思い出しちゃった」
守「忘れちゃえばいいのに」



グラウンドの外周を ぐるりと歩き左へ曲がる
谷川の方へ下り 小さな橋を渡る
通りに出たら、また左へ
天狗山へ行く時、バスで通った坂を上っていく



朝日湯

5:50
銭湯の前に到着はしたが 6時まで、まだ時間がある

反対車線の少し先の交差点に、セブンイレブンが見える
天狗山への道中の写真にあった あの店だ
トイレ行きたいから ちょっと歩いて行こう

銭湯の斜め向かいに 小綺麗なコインランドリーがある
…もし、トイレがあるならば 無作法だけど
ここで済ませてもいいか

店舗に入る が、トイレはなさそう

かわりに困り顔の女性が1人いる
「スミマセン…」
たどたどしい日本語で助けを求める彼女は
どうやら旅行者らしい

コインランドリーにお金をいれても
洗濯機が上手く動いてくれない…そんなジェスチャー
どうしたらいいか分からない風である

どれどれ どんな具合かな…見てみると
扉がロックされていないようだ
ノブを掴んで扉を押しつけつつ捻る
するとロックがかかり モーターが動き出す

彼女は目を輝かせて
「Thank you…! Thank you so much!」
と言う。とても嬉しそうだ

なんのなんの
「You're welcome.Have a nice day!」
そう言い残し 颯爽と立ち去る


守「良いなァ、誰かの助けになるのは」
私「そうですね」
守「…いま頭ん中、トイレのことでいっぱいじゃろ」
私「なんでそんなすぐに台無しにしちゃえるんですか?」


6:00
用を済ませ  朝日湯、再び

静かだ

異変には、すぐ気づく
まず銭湯の入口に 暖簾が出ていない
入口も閉まったままだ 押しても引いても開かない

建物の横へ回り込む 人の気配はない 水の音さえ聞こえない
神妙な顔になる私へ 中を覗いてこう告げる
守「人がおらんぞ…まだ、と言うか。今の時間帯、やってないのぅ」
私「そのようですね。覗かないで?」

守「日曜だけ6時から開くいうのはドコ情報?」
私「ネット記事か何かで、古い情報だったかもしれません」
守「詰めが甘かったの」
私「昨日か初日に立ち寄れば良かったですかね」

小樽にある5つの銭湯への入浴 完全制覇ならず

けどまぁ、最後は困ってる人を助けられたから 良しとしよう
気を取りなおして、のんびり小樽駅まで向かうこととする




回収

下り坂は緩やかに右へ折れ 道の先、遠くに海が見える
左手には クリーム色のタイルの壁面が眩しい四角い建物が現れる
縦に連なる丸窓が可愛いが ここは「小樽警察署」である
ちゃんとパトカーも停車している

色合いや雰囲気は どことなく「別府警察署」に似ている
本来は旅先で思い出すような場所じゃないんだがなぁ…

別府警察署を思い出深く知っているのは
以前、九州を旅をした初日に訪問しているから
3日間の別府の旅 初日の数時間で
「財布を落とす→警察署に届く→回収する」
というイベント…もとい失敗を体験している

「失敗」も取り返しがつかなければ笑えないのだが
何とか取り返せたので ギリギリ笑い話にしている

守「今回は警察の厄介にならんで済んだのぅ」
私「毎回お世話になってるみたいに言わないで下さい」

今回、落とし物はしていない、忘れ物もな…い…




さあ。ここで、昨日のライブ前の行動について思い出してみましょう




8/24 17:45
坂の上の宿に戻りつく
お土産選びのお出かけは さほど時間がかからなかった
地ビールは要冷蔵らしいので 共用の冷蔵庫へいれておく
明日忘れないようにしないとね



ぽつりと声に出る
私「明日忘れないようにしないとね」
守「?」


立ち止まり 温かくなってきた陽の光に顔をさらす
目を細め、顔がほころんでいくのが分かる 実に朗らかな顔だ
どうしようもない時、人間って自然と笑顔になるんだなぁ

私「フフッ…忘れ物しました」
守「はぁ?? 何を? どこに?」
私「寝ぼけたことを言いたくないんですが…」
守「何忘れたの?尻子玉?」
私「地ビール。寝ぼけていたんでしょうね…」


オロロンラインに出る
小走りで 昨日の夕方と同じルートを使い宿へ


さっきの「尻子玉」のボケを拾わず 突っ込まないでいると
明らかに様子がおかしくなっていくのがわかる
なんとも仕方がないので聞き返してあげよう

私「う~ん…尻子玉ってなんですか?」
守「河童が好きなやつ!」
私「あぁ、キュウリのことですか」

ボケにボケで返す するとさらに困惑していく

守「えっと…あの、ちがう…よ?」
私「いやあ、キュウリなんて持ってきてないんですけどねぇ」
守「あの…だから!…ちがうってば!」

意地悪してみる さっきのトイレの件のお返しである

「花銀通り」を抜けようかという時に
飲み屋のドア越しにカラオケと ベロベロに酔った歓声が聞こえてくる

流石に、守護霊さんも気が付いたようだ

守「…え?ここって、昨日の夕方からやってる?」
私「やってるとしたら12時間超えてますよね」
守「気になるから、ちょっと覗いてくる」

私が「やめなさい」という前に、スゥっとドアに溶けていく
10秒もせずに出てきて、困り顔でこう言う
守「なんか…人か妖怪か分かんなかった…」
私「見ず知らずの人に失敬ですよ。それも、あなたが言うかね」
守「でもね、みんな良い顔してたよ」
私「なら良し」

詳細は知れないが、なんにせよ 元気そうであるなら良し 達者が一番



6:40

小一時間前「また来ます」なんて
名残惜しく言ってた場所
こんなすぐに 来たくはなかった



宿に辿り着くと 小走りのまま共用キッチンへ
冷蔵庫から地ビールを1本回収する

保冷のホルダーに酒をしまいつつ 時計を見る
7時まであと20分

この後「小樽駅」へ向かうか
「南小樽駅」へ向かうか
決めねばならない




グッバイ小樽


6:49
「南小樽駅」
駅併設のセブンイレブンで 朝飯を適当に買う
A.LIVEのご馳走を 残さず食べたせいか
昨日に続き、朝方の食欲があまりないけれど
揚げたブロッコリーとか本当に美味しかったし
楽しい思い出の味となった
悔いはない ありがとうと、感謝しかない

「南小樽駅」
結局、往路復路ともに こちらの駅の利用で
「小樽駅」とはご縁がなかった。次回こそは

やはり「南小樽駅」の方が宿からは近い
帰路もこちらを利用することにした
朝一番で風呂を堪能もできずに
まあまあな汗をかいている

見回しても駅には 利用者がいないので
多目的トイレで 手早く着替えてしまおう
使う人が来てしまうと悪い

汗も拭いてさっぱり ホームへ移動する

日曜朝のホームは閑静で美しかった

時間もあと20分くらいある
荷物の中身を片付けなおし 軽い朝飯をとる

ソフトカツゲンとピーナッツコッペ
製造はメグミルクとロバパン 素朴で美味しい

地の物を、その土地で食べる
観光地で有名店や流行り物に触れるより
こんな些細な楽しみ方で十二分に満たされる

守「手がかからんのー お主は」
ほんとそう思う 単純なのでいい

駅のホームは谷と高架下を合わせたような構造
6、7年後には陸路で5時間…ほんまかいな

食べ終わる頃 札幌方面へ向かう電車がやってくる
今回は札幌で乗り換えねばならない

さて

改札の階段方面を見つめる

いろいろ見られて嬉しかった
天気も良かったし 財布も落とさなかった
銭湯も 過剰なくらいには入れた
どこもいい湯だった
会いたい人には みんな会えたし
音楽に 揺蕩うこともできた


また来られるように 元気でいよう
みんなも元気でいてほしい

電車に乗りこむ

ドアが閉まり 列車が動き出す


海側の席に着いて 離れていく車窓を眺める

小樽が みるみる 離れていく
海も空も広い
車窓は一面 海になる
まるで夢や幻のような3日間
半分は幻か 

小樽が離れていく 寂しさの先に

なくなってしまうわけじゃない
だから またいつか訪れようという希望が見える

健やかにあろう その時まで




グッバイ小樽









長い帰路を 短く

空港に着く
搭乗手続きのため 荷物を再度整理する

手荷物検査を前に 思い出深い荷物をひろげてみる
原田茶飯事さんの新譜『MILD[more]』は
この旅でゲットしたかった逸品

手荷物検査を終え 搭乗ロビーへ
「なまらうまい」北海道限定飲料がここにも…

お茶か炭酸かで迷う
「北海道富良野ホップ炭酸水」にした
お酒じゃないけど 爽やかさっぱりしてる 美味しい
10:00発 中部国際空港行き
また空を散歩
今度は平気だった
常滑のセントレアから 津の盆栽屋さんへ直行し
昼過ぎから夕方までお手伝い お土産喜んでもらえた
四日市を経由して菰野へ
そして帰宅



18:30

2泊3日
初めての北海道旅行
全行程は無事終了しました。




END




あとがき

暑く長い夏がやっと去り 秋が来ています
北海道の3日間は 煮詰めたみたいに濃かったです

やりたいことは だいたいできました
できなかったことは 次の楽しみにします

旅の終わりは 次の旅の始まりでもあり

次回からは9月のイベントの話に続いていきます
今回よりだいぶ短いでしょうが
また奇天烈な旅をしました

お楽しみに


神出鬼没の道中記


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