労働者としてのALT

奥貫妃文&ルイス・カーレット「労働者としてのALT(外国語指導助手)についての一考察」『大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター年報』9号(2012)

〈1〉日本の英語教育現場では、日本人の英語教師とALT(Assistant Language Teacher、外国語指導助手)がチームで授業をするのが一般的になった。しかし、ALTを労働者として捉える視点は欠けている。

〈2ー(1)〉そもそも明治期から外国人労働者は「お雇い外国人」、つまり臨時的存在として位置づけられていた。現在でも、在留資格制度によって就労範囲と在留期間を制限した「助っ人外国人」としての扱いが継続している。このため、外国人労働者は定住・永住を望みながらも有期雇用契約で不安定な就労を余儀なくされる場合が多い。しかし、「お雇い」「助っ人」という表現が喚起するような高待遇の外国人というイメージが、実態として進行している雇用環境の非正規化を覆い隠している。

→明治期の「外国人労働者」とは、ここでは第1次大戦前の時期に「官公傭」の教師・技師・顧問として働いていた欧米人のことを想定している。詳しくは、戸塚秀夫「日本における外国人労働者問題」(1974)参照。

〈2-(2)〉ALTが直面している労働の不安定化は、公務分野の全労働者に共通するもので、小泉政権が2002年以降に進めた民営化・規制緩和によって生み出された問題である。背景には、地方自治体の財政難に伴う人件費削減と雇用責任・労務管理責任の民間委託がある。

〈3〉ALTの4分類。1987年に外国語教育の充実と地域国際交流の進展のために始まったJETプログラムに基づき、地方公共団体が地方公務員として「任用」するALT。この場合、教育委員会職員が生活上の支援を行うことになっており、負担軽減のため2002年以降、②教育委員会の有期雇用、③民間会社からの労働者派遣形態、④業務委託形態で働くJETプログラム以外のALTが増加。

〈4〉非正規化・外注化したALTは労働法の保護が受けにくい。まず、地方公務員法では、常勤職員は無期と有期があるが、臨時職員・非常勤職員は有期しかない。そして、地方公務員の雇用は臨時・非常勤含めて「任用」であり、雇用契約ではなく行政処分なので、不当解雇や無期転換をめぐる法的保護がない。また、労働者派遣法の派遣期間の制限がない業務に指定されていないので、ALTは3年を超える継続勤務ができない(3ヶ月以上のクーリング期間が必要)。さらに、業務請負形態であれば学校からの指揮命令を受けることができないため、そもそも日本人教師と協力して授業を運営することが不可能となる矛盾がある。そのため、「偽装請負」の状態になってしまう。

〈6〉多くのALTは複数の民間会社を短期的に「まるでお手玉の如く」渡り歩いており(23頁)、長期的なキャリアを築くことができない。こうした「官製ワーキングプア」の問題は、日本人の臨時教員、スクール・カウンセラー、給食調理員などの職業にも該当する。入札制度によるコスト削減競争によって労務管理とサービスの質が劣悪化し、公務分野の「モラル・ハザード」を引き起こしている。これを防ぐために、たとえば千葉県野田市では、市から工事や業務を受託した民間業者に一定以上の賃金水準を義務づける「公契約条例」を制定した。

→「官製ワーキングプア」には保育士・介護士や図書館司書なども含まれ、教員・調理師と合わせて、ケア労働のサービス業化という問題でもある。

→受託企業の賃金水準にだけ焦点を当てている「公契約条例」は、入札制度による非正規公務員を制度化・権利化しているだけではないか?公共事業に関わる土木・建設系業種に焦点化している感もある。

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